第二章 「胎動」 第二十八話 「ギヤマンの造り方」
「天眼 風をみる」
第二章 胎動
第二十八話 「ギヤマンの造り方」
龍気とお鈴が、正覚寺に行く話をしている頃、
玄海と剛力は、道願の居る永光寺に着いた。
「ギヤマン」の事を聞くためである。
玄海と龍気は、この一年、毎朝、欠かさず、
「ヨギの修行」の為、道願の指導を受けている。
今の所、修行の成果という、はっきりとしたものは
無いが、特に玄海は、ヨギの修行を初めてから、
三貫(12キロ弱)程、目方が減った。
元々、不摂生な生活をしていたので、引き締まった
と言った方が良いであろう。
また、精神も安定し、物事の奥の真理が、
「気がつく」ようになってきた。
普段であれば、見過ごしてしまうような小さな変化に
気づき、それが、何故、そのように変化したのか?
そこまで「判る」ようになってきた・・。
例えば、何に気がつくのか? それは、空気の変化、
流れ、よどみ、「風」であったり、日の光の微妙な
「強弱」であったり、小さな虫が歩く音や、
羽虫の飛ぶ気配であったり、
鳥の鳴き方の違いであったりと様々である。
そんな変化に気づく時、「何か」が変化している時がある。
逆に言えば、何かが変化しているから、
いつもと違う動きがあるのである。
そして、それまでは、気がつかなかった事が、
「気がつく」のである。 いつもは、見られない不思議な
ものを見たり、聞いたり、するのである。
道願に言わせると、それらは、「五感」が研ぎ澄まされて
来ているのだと言う。
様々な「チャクラ」が開花すると、そのような現象が起きるとも
言っていた。
それでも、玄海と龍気にとって、「修行」は、まだまだ、
始まったばかりなのである。
玄海が、永光寺の門をくぐると、玄海には、
自ずと道願の居る場所がわかった。
寺の裏庭で、庭の手入れをしていると感じた。
小さな「気づき」が判る玄海にとって
「人」という大きな物が、何処に居るのか?
そのような事は、手に取るように判るのである。
玄海は、剛力に促し、「裏庭じゃ、ついて参れ」と一言いった。
予想通り、道願は、裏庭に居た。
玄海「道願殿、こちらが長崎から参られた、剛力殿じゃ、」
玄海は、何の前置きもせず、本題に入った。
今の玄海と道願の間には、通じるものがあり、
無駄な説明は、皆無であった。
それは、龍気とお鈴の会話と似ている。
道願「ふむ、遠路はるばる、お疲れであったの、わしが道願と言う者じゃ、
よしなにな・・、」
剛力「剛力と、申しやす。 こちらこそ、よろしくお願いいたしやす」
剛力は、初めて見た道願に、不思議な感覚を覚えた。
目の前に居るはずなのに、「人」としての感じが無い、
まるで遠くを流れる「雲」や、湖面に写る「月」を見ているような
感じであった。
それでいて、自分の全てを「理解」している「母」のようにも感じられた。
玄海「道願殿、さっそくですが、「ギヤマン」と言うのを、ご存知でしょうか?」
道願「ギヤマンですな、知っておる。 この国にも古くから造られている
「勾玉」(まがたま)などの一部もギヤマンで造られているものがある」
玄海「道願殿は、そのギヤマンの造り方をご存知か?」
道願「うむ、それも、知っておる。 そんなに難しいものでは無い。
ギヤマンの材料は、砂と貝殻・植物の灰、 後は、少量の塩じゃ・・・、
まず、砂を洗い、乾かし、細かく磨り潰し、篩にかける。
同じように貝殻も細かく砕き、摩り潰し篩にかけ、
先の砂と混ぜ合わせる。
二つを混ぜ合わせたものに、植物の灰と塩を混ぜ、火にくべ
鞴で吹けば、ギヤマンの「火の玉」が出来る、
ギヤマンの板を造りたいのであれば、その板の大きさの
四角い箱を造り、その底に「錫」(すず)を入れ、その上に
その火の玉をゆっくりと流し込む、不思議な事に、火の玉と
錫は、混じあう事はなく、ゆっくりと冷えた火の玉は、
「ギヤマンの板」となる、箱の形を変えれば、様々な形の
板が出来るからの」
玄海「なるほど、材料は簡単に集められるが、「砂」は、何処にでもある砂でも
良いのですかな?」
道願「ふむ、わしが旅していた、「絹の道」の砂が一番良いのじゃが、
その辺の砂でも良い。
砂を良く見てみると、キラキラと光る砂が混じっている
火にくべる事で、そのキラキラ光る「ギヤマンの素」が、
貝殻や植物の灰・塩と混ざりあって透明なギヤマンの
火の玉となるのじゃ、
もっとも、地面の奥深くや、山の洞窟などで、透明な「石」の塊や
逆に真っ黒なピカピカ光る「黒曜石」(こくようせき)と呼ばれる
ギヤマンの塊もある。
黒曜石などは、昔からあるものじゃな、太古の時代には、
矢じりなどにも使ったものじゃ」
玄海「さすがは、道願殿じゃ、物知りですな・・、恐れ入ったわい、」
道願「それで、ギヤマンを何に使うつもりじゃの?」
玄海「うむ、この剛力殿が持ち帰った、「太風子」の枝と種を育てるには、
「蒸しかえる暑さ」が必要と吾平さんが、言いましてな、
それには、太風子の木を全て覆う「ギヤマンの小屋」が必要との事
での、温泉の熱とギヤマンの小屋で太風子を育てるという考えなの
じゃ・・・、 じゃが、肝心のギヤマンが無ければ、意味が無くての・・、
それで、道願殿なら、ギヤマンの事をご存知では無いかと思うたの
じゃ、いや、まっこと「当たり」であったの」
道願「なるほど、吾平殿がの・・、大したものじゃ、わしが「絹の道」で
旅しておった時、ある地方では、確かにそのようなギヤマンで
覆った小屋があった。
その中には、、綺麗な花が咲いておったの・・・、
吾平殿は、自分でその考えにたどり着いたのじゃな、
「木」や「花」の事を熟知しておるからこその考えじゃ・・、
しかも、「温泉」の熱を利用するとはの・・、
それなら、南国に根付く太風子も、この信濃の地
で育つかも知れぬ、あとは、吾平殿が、どれだけ
太風子と「対話」出来るかじゃの、
ま~、吾平殿の事じゃ、きっと上手くいくであろう・・、」
玄海「うむ、道願殿、わしも、そう思うぞよ、
しかし、今度は、実際にギヤマンを造る作業となるが、
これは、いかがいたしたものかの?」
道願「一番てっとり早いのは、刀鍛冶の所に、先ほど言った材料を
持って行き、造ってみることじゃな、
道具は、ほとんど、同じような感じじゃからの、
ただ、鞴にくべ、常に吹かねばならぬからの、大仕事じゃぞ」
剛力「力仕事なら、わしは、得意でやすよ」」
玄海「ふむ、剛力殿なら、大丈夫そうじゃ、頼もしいかぎりじゃ」
道願「そうじゃの、人には、得て不得手がある、剛力殿には、
うってつけの仕事かも知れぬの」
玄海と道願の二人に、誉められ、剛力は、永光寺に来て、
初めて「笑顔」がこぼれた・・・。




