第二章 「胎動」 第十七話 「お鈴 さらわれる」
「天眼 風をみる」
第二章 胎動
第十七話 「お鈴、さらわれる」
刻は、一刻(二時間)程、遡る。
丁度、龍気と茂助が出会っていた頃である。
場所は、長棟の屋敷で、長棟の奥座敷に、長棟と六人の
浪士が集まって居る。
いずれも、長棟が「金」で雇った浪人共である。
長棟の殺意が、いよいよ具体的に動き出した。
長政には、「刺客」を送っているが、この小笠原家の領地に住み着く、
長政に仕えている者共を、根絶やしにしようというのである。
まずは、小笠原家を裏切り、長政についた、「忍びの者共」に制裁を
加えようと、忍びの里の頭領 龍気を狙ったのだ。
龍気の行方は、わからなかったが、長政の屋敷にお菊と龍気の娘、
お鈴が居る事を突き止めた。
その事を知った長棟は、さっそく浪人共を雇い、長政の屋敷を襲い、
龍気の娘、「お鈴」を奪う算段をしているのである。
長棟「よいか者共、狙うは、龍気の娘、お鈴じゃ、娘をさらい、龍気を山に
呼び出し、そこで二人を亡き者にするのじゃ、そして、
その亡骸を信濃の川原に晒し、わしに背いた忍び共の
見せしめとするのじゃ、上手くいけば残りの金をやる、よいな!」
浪人達「おう、任せておけ、女、子供をさらう事など、造作も無い事よ、
こんな楽な仕事で、金が貰えるのなら、 いくらでも、やるぞ、
のう、皆の衆。」
長棟「油断するでないぞ、お鈴は、あの龍気の娘じゃ、どんな術を使うか、
わからぬ。 失敗すれば、そなたらの命も無いと思え、」
浪人達「ご心配、いらぬでござるよ、この人数でいけば、
取り囲んで終いじゃ、ははは。」
そして、浪人共は、長政の屋敷に向かったのである。
龍気が駆ける・・、不安な気持ちを必死に抑えながら、
長政の屋敷に着いた。
まずは、血の匂いである。息を整えようとした、鼻に、
ある種、「懐かしく、悲しい匂い」が鼻の奥底にまで、入り込んできた。
そして、門の前から、「山」の方向に向かい、点々と血の跡が続いている。
屋敷に入ると、争った跡があり、襖が破れ、白の障子には、血しぶきが、
線を描いている。
そして床には、三人の浪人が喉笛を搔き切られ、息も絶えだえとなっている。
まだ息がある男の喉からは「ヒュー・ヒュー」と息が洩れていた。
さらに奥へと進むと、お菊さんが血まみれで倒れている。
龍気がお菊さんの口元に手を当てると、「息」がある。
血は、返り血のようで、お菊さんに怪我はないようだ。
恐らく、腹に「当身」をくらい、気を失ったようだ、
龍気は、 お菊さんに「喝」をいれ、目を覚まさす。
朦朧とした意識がはっきりするに従い、龍気の顔を見るや
「お鈴ちゃんが~、と泣き出した」
龍気「しっかりいたせ、お菊さん。 一体、何があった。」
お菊「はい、いきなり、数人の侍が押し寄せてきて、お鈴ちゃんを
取り囲んで・・、 私は、とっさに小鉄を呼んだのですが、
小鉄に「刀」を渡した後、侍の一人に襲われ、
その後は、わかりません。 お鈴ちゃんは、大丈夫ですか?」
わなわなと震える口で、それでも気丈に伝えねば、
との意志がわかる。
龍気「お鈴の姿は、見えぬ・・・、
恐らくその侍共に連れ去られたのであろう・・・。」
ふと、辺りを見ると、「膳」の上に血のついた書状が置いてある。
その内容は、
「娘を預かった、返して欲しければ、
今日の宵の五ッ(午後八時)にお主が居た
忍びの里まで来い。 もちろん独りでじゃ、
さもなくば、娘の命は無いと思え」
で、あった・・・。
これは、間違いなく罠である事は、百戦練磨である龍気には、
痛い程わかる。 でも、行かねばならぬ・・・、
行かねば、お鈴の命は、本当に無いであろう・・・。
お菊は、自分も行きたいと願ったが、足手まといになるのは、
明らかである。
何ども、龍気にお鈴ちゃんを助けてと懇願すると、居てもたっても
居られなくなり、何故か、「ご飯」の支度をしだした・・・、
どの様な結果となろうとも、お腹を空いて帰ってくるであろう、
そう信じての所作である・・・。
龍気は、静かに立つと、じっと空を見つめた・・・、
空には、徐々に暗雲が垂れ込め、遠くでは、雷鳴が鳴り響いている・・。
龍気はポツリとつぶやく・・、「宵の五ッか・・・、」
その後、龍気は、刻限までの間、戦の支度をする。
龍気の「名」を知らしめる戦いになる、戦の準備である。
龍気は静かに「気」を高めるのであった・・・。




