第一章 「旅立ち」 第六話 「父の屋敷にて」
「天眼 風をみる」
第一章 「旅立ち」
第六話 父の屋敷にて
さわやかな風が過ぎ去った後、春風に鞍を付け、
父の屋敷へと向かう が、その前に長利は、 次男の長棟の屋敷に寄る
事にした 長棟に会うのでは無く、その奥方「お松」に会うのが目的である。
長棟の屋敷は 父 貞朝の屋敷の手前にある
春風に乗り長棟の屋敷に着くと ちょうど、お松が庭先で手入れをしていた
馬の蹄の音を聞いたお松が長利に気がつくと 軽く会釈をする
長利「お松さん いい天気だね~」
お松「これは、長利様 お久しぶりでございます。
今日はいかがいたしましたか」
長利「父に呼ばれてね、今から行く所じゃが、お松さんの顔が見えたのでね」
お松「そうでございますか、あの~ 失礼ですが、
長高様の事でございましょうか?」
長利「どうだろうか? 詳しくは聞いていないものでね、
ひょっとすると長棟殿も呼ばれておるのかな?」
お松「ええ、先程、お館様の屋敷に向かいました」
長利「そうであったか、では、わしも急がねばならぬな~、
時にお松さん、お体の方は 大丈夫かえ?」
お松「え? わたくしの体でございますか? ええ・・なんともありませんが・・、」
長利「いやね、最近、たちの悪い風邪が流行っているようなのでね、
お体を冷やさぬようになさいまし」
お松「お気遣い、ありがとうございます・・。」
長利「うむ、では、ごめんつかまつる」
そう言うと、手綱を引き春風を父の屋敷へと向かわせた。
その時の長利の顔には、笑みがこぼれていた(これで、自由に動けるの~)
「どうどう~~」 父の屋敷に着いた 春風をなだめ、いつものように
水桶の水を飲ませる。
門前で声をかけようとしたら、庭先に吾平の顔が見える。
吾平も気が付き、ひょこひょこと近づいてくる
吾平「これは、これは長利様、先日はありがとうごぜ~ました」
長利「おう、吾平は父の屋敷で奉公するようになったか」
吾平「左様でごぜ~ます、旦那様、いえ長高様が、あのような事に
なってしまいましたでの~ 残念な事でごぜ~ます・・・。
でも、こちらの旦那様の計らいでなんとか
なりそうでごぜ~ます」
長利「うむ、体が動けるうちは、働く事がいいぞ、 おっと、
のんびりしておられん 父上はおられるか?」
吾平「へ~、今、ちょうど長棟様とお二人でお話しておりやす、
奥の間でごぜ~ますだ」
長利「そうか、では、邪魔をするぞ」
吾平「あの~、今度はお茶をお持ちしても ええのでごぜ~ますだか?」
長利「うむ、では、茶を頼む」
吾平「へ~、かしこまりやした」
「奥の間」の前で長利が声をかける
長利「お父上 長利でございます よろしいですかな?」
貞朝「おう、長利か、待っていたぞ、はよう入れ」
中から野太い父の声が聞こえる
長利「失礼つかまつる」そう言い、襖を開けると、中には次男の長棟も居た
長利「これは、長棟殿 お久しぶりでございます」 正座して一礼すると
長棟「うむ、そうじゃの~半年ぶりかの・・、どうじゃ、息災であったか?」
長利「はい、お蔭様で この通りでございます」
長棟「そうか、それは、何よりじゃ」
長利「さて、お父上 今日は、どのような ご用件でございましょうや」
貞朝「ふむ、まずは此度の事、誉めてつかわす。長高がよもや
小笠原 長基と結託していたとは、露にもおもわなんだ、
長高の行方は相変わらずわからぬが、あやつ一人がどうあがいても、
どうすることもできまい 長基に関しても、注意を怠らなければ、
今の所は大丈夫じゃろう。
じゃが、心配な事は他にある お主も知っておろうが、 此度の件で、
わしは次男の長棟に家督を譲ろうと決めた!
じゃが、長棟は早くに嫁をもろたが、いっこうに子が出来ぬ、
せっかく家督を譲ろうとおもっても子が出来ぬのでは、
そこで小笠原家は絶家してしまう。
そこでじゃ、長利 そなたは、四男であるが、武もあり、知力もある
此度の働きをみても、 たいしたものじゃ、
それでじゃな・・どうじゃ、長棟の養子とならぬか、さすれば、
わしは、二代後も安心してみていられる」
そこまでを一気に話すと、貞朝は 大きく「ふ~」と息を継ぎ
長利の顔を覗き込んだ、 おそらく、長棟と色々話していたのであろう
気丈な父としても 一度に二代の家督を考える事、 且つ、その決断に
いたるまでに、葛藤があったに違いない。
吾平「失礼いたしますだ~」
と吾平がのんきに長利の分の茶を持ってきた、
長利は、(よい間じゃの~)と心の中で笑っていた