第二章 「胎動」 第十五話 「敦盛」
「天眼 風をみる」
第二章 胎動
第十五話 敦盛
その後、茂助と龍気は一刻(二時間)程、話をした。
明日からの仕事の段取りと必要な道具の事についてである。
龍気は、帰り際に茂助に挨拶をし、山小屋を出た。
山間の道を静かに帰るとき、十間(約、18m)程前を雉が
段々畑の畦道を、「トコトコ」と歩いている・・、
雉は飛ぶのが苦手で移動は、歩く事が多い。
肉が多く、体が重いのである。 そして、美味い。
格好の獲物である。
龍気は、石つぶてを一つ拾うと、懐の「苦無い」(くない、棒手裏剣)
を探る・・。
「石つぶて」を雉の向こう側に投げると、驚いた雉は、
こちら側に「バタバタ」と派手な音をたてて飛んできた。
龍気が、懐の「苦無い」を放つと、見事に命中して、
地面に落ちた。雉は、何回か地面の上で羽を動かしていたが、
そのうち動かなくなった・・・。
龍気「これで、二・三日は、食い物の心配はないな・・・。」
龍気がそうつぶやくと、「苦無い」の「刃」の部分で、「血抜き」の為、
雉の頭を「ストン」と落とす、木の枝の先に両足を「ツル」で縛り
逆さにすると、切った首筋から「血」がしたたり落ちてくる・・・。
ここまでの作業を、淡々と済ますと、また、茂助に言われた「夢」の事を思い
出していた・・・。
龍気(人は、食わねば、生きていけぬ・・・、 この一羽の雉で、何日か、食い
つなぐ事は出来るが、そう何度もある事では無い・・。
これが、猪であれば、燻製にして、一月程か・・、
熊なれば、 もっと、もつであろうな・・・。
しかしそれは、マタギ(主に、東北地方での猟師の名称)と同じ・・。
ただ、生きていく為の狩りに過ぎぬ・・・。
「夢」か・・・、 確かにそれがなければ、「人」として生きている価値が
無いのかも知れぬ・・・。
「人間 五十年 下天(化天)の内をくらぶれば 夢 幻のごとくなり」
(敦盛) か・・・、
下天(天上界でもっとも位の低い神)の一日が人間の五十年であった
な・・・、さすれば、「帝釈天」ともなれば、人の一生などは、
瞬きする間に終わってしまうのであろうな・・・。
なんと、儚い。 人の一生であろうか・・、 じゃが、それでも、人は何かの為
に生かされておるはずじゃ。
わしの人生は半分以上が過ぎておる。
いや、もしかすると、明日、何かの拍子に、命尽きるかも知れぬ・・。
「夢」か・・、今は・・・、 そうじゃの・・・、
「心から安心出来る、家族がほしい・・・」
ささやかじゃが、それもよいの・・・。)
龍気の頭の中では、いつまでも「敦盛」の歌が「こだま」していた




