第一章 「旅立ち」 第四話 「思惑」
「天眼 風をみる」
第一章 旅立ち
第四話 思惑
まず初めに、直接 父 貞朝に謀反の事を話せば、
父の性格上すぐにでも、長高を討ちに向かったであろう。
その前に、兄を説得できないものか、そう考えたのである。
その為には時が必要であった そこで足の遅い吾平に書状を
渡したのである 、さらに「茶代」として多めの金子を与える事
夕刻までに着けばよいとの事、 今日は、そのまま家に帰ればよい事
を伝えれば、必ず町に行き時間をつぶすであろう事は容易
に判断出来た。
そして、もうひとつは、兄、長高に吾平の事を伝えた時に、
早馬で吾平の下に向かい、書状を奪い返すであろう事も想像できた。
兄 長高の家から父 貞朝の屋敷までは、一本道であり
「町」はその反対側である 吾平は、案の定 町の方に向かい
兄は、父の屋敷の方に向かった お互いが反対方向に向かうのであるから、
二人が、かち合う事は、まずない。
「刀は武士の魂である」と、言う言葉があるが、刀に魂が宿るか
どうかは、別として、武士にとって「刀」は、確かに大切なものだ。
それを同時に受け取った父 貞朝は、この書状に書かれている事が
間違いではない」と、判断するであろう。
夕刻に、この書状を受け取った父 貞朝は、手練十騎を連れて
長高の屋敷に向かっている もっとも、その時には長高の姿はどこにも
なかったのは、言うまでもない・・。
それに長利は、初めから菊一文字の「太刀」の方は
使うつもりが無かった。狭い部屋の中では、長さのある「太刀」は、
扱いにくく、「小太刀」(脇差し)の方が有利なのだ、もし、
使うとなれば、初めから「小太刀」で受けるつもりであった。
長高「おのれ~~吾平~~ どこに居る~~」
そう叫びながら馬を走らせるが、このままでは、
父の屋敷に着いてしまう 長高は、右往左往しながら、あきらめて
何処にか姿をくらました その頃 吾平は、茶店で三皿目の笹団子を
ほうばっていた もちろん、孫の「お千代」のお土産も頼んでいた。
人の心がわかる長利にとっては、その次に人が「どう動く」
かが容易にわかるのである。
それがわかれば、出来るだけ少ない犠牲で事を運べると考えていた。
戦になれば、多くの人が死ぬ、武士だけでは無い 罪のない農民も犠牲になる。
家や畑も焼かれ争いは、次の新たな争いの種を蒔く。もし、永遠に、
こんな事が続くのであれば、いつしか国は滅んでしまう、長利はそう考えていた。
だから、出来るだけ犠牲のない方法がないか、争い以外に
国同士が共存する術はないか? いつもそんな事を考えていた。
長高を「斬る」事は、容易な事であった だが、長利には、斬れなかった。
長利は、「出来れば兄者には出家でもして頂くのが一番なのじゃがな~」
とつぶやいた・・・。