第一章 「旅立ち」 第二十四話 「正覚寺にて・・・長利の過去」
「天眼 風をみる」
第一章 旅立ち
第二十四話 正覚寺にて・・・長利の過去
龍気「ま~、玄海よ。 そう急くな、お館様は、簡単に人を殺める事など出来ぬ、
そんな方じゃから、われらは、お館様を慕っておるのじゃからな。
簡単に人を殺める事が出来、己の事しか考えていないような方なれば、
共に歩もうとは思わん。 そうであろう、玄海。」
玄海「うむ、そうであったな、すまなんだ、ちと、熱くなってしまったわい、じゃがのう、長利、
「戦いを無くす為の戦い」もあると思うのじゃが、どうなんじゃろうの・・・、
わしは、難しいことは判らんが・・、 もし、長利が天下を盗ったなら、この国は
住みやすい国になると思うのじゃがな・・・、 さすれば、わしのような「捨て子」も
居なくなるはずじゃ・・・、」
長利「戦いを無くす為の戦いか・・・、今の世は、それぞれが「理想」を持って戦っておる、
中には「私利私欲」で戦をしている者もあるかも知れんが、なだたる「名将」と
言われる者は、自分の理想の国を作るが為に戦をしているのであろう。
じゃが、わしの「理想」は、戦わずして、「民」と共に生きる事じゃ、何を甘い事をと
思う者もおるであろう、 じゃが、これが、この長利の「理想」じゃ。
だが、いずれ「時」が来たら、わしも戦をしなければならない時が来るじゃろう・・・、
矛盾しておるが、他の国から、ただ攻められて、簡単に領地を奪われてしまえば、
「守るべき民」も居なくなってしまう。
「今」のわしには、ここまでしか言えぬ・・・、それからの答えも、この「旅」で見つける事が
出来るのではないかと思っておる。」
龍気「お館様、「その時」が来るまで、われら「忍びの者たち」は、今以上に鍛錬いたしますゆえ、
いつでも、ご命令下され」
長利「うむ、そなたの「気持ち」は、しかと覚えておく・・・。
さて、慣れない酒に少し酔ったわい、玄海、厠を借りるぞ、それに、
すこし、夜風にあたってくるわ・・。」
そう言うと、長利は部屋を出て行った・・・。
お菊「あの~、龍気様に玄海様、 ひとつお聞きしてもよろしいですか?」
龍気「ん? 何ですかな?」
お菊「お二人は、長利様と、何時、どんな感じでお知り合いになられたのですか?」
玄海「そうじゃな、長利とは、龍気の方が先に会っておるの、どうなんじゃ?
その辺はわしも詳しく聞いてはおらなんだな」
龍気「そうですな、お二人になら、お話しても差し支えありますまい、
あれは、お館様が、七つの頃じゃ、町外れをお館様が、 頭から、血を流して
「とぼとぼ」と、歩いておったのじゃ、「いかがなされました」と聞くと、後ろから、
「石」が飛んできた」と言うのじゃ、
その頃、お館様は、「風よみ」に振り回されておっての、言わなくてもいい事を「口」に
出してしまうので、 近所の「わらし」どもに気味悪がられて、
よく、いじめられておったのじゃ・・・。
「小笠原家の四男坊」といっても、「わらし」どもには、分からぬからの・・、
わしが「見つけ出してまいりましょう」と言うと、
「よい、石を投げた者も、投げたくて投げたのでは、無いかもしれぬ、そうせねば、
その者が、周りにいる者に虐められるかもしれぬ」
そう、言うのじゃそれに、「こんな事もわしが大人になった時、そういえば、
そんな事があったの~と、笑える時がくるじゃろう」とも言っていた。
わずか七つの「わらし」が言う言葉では無いと、感じたものよ・・。
その時、お館様が言うのじゃ、「の~龍気殿、人が石を投げる「間合い」には限界があるの、
ならば、人がその「間合い」に近づいた時、その気配を感じることが出来るであろうか?
また、飛んできた「石」を寸での所でかわす事が出来るか?」
そう聞くのじゃ、 更に「投げた事実は残る、それを、 「かわす」のだから、
投げた者が虐められる事もあるまい。」 と、言われての・・、
わしは、「忍びの修行にそのような修行ががありますが、やってみますか」と言うと、
「是非にたのむ」と言われて、 それからじゃな、「忍びの里」に毎日来るようになったのじゃ・・・。
玄海「そんな、いきさつがあったのか・・・、 長利が「忍びの里」に来るようになったのは、覚えておる。
わしも、その頃は、 まだ、「忍びの里」におったからの。
はじめは、戦国大名の四男坊が、物好きに忍者の真似事をしとるわい、と、思っておったのじゃ、
それが、二箇月 三箇月と通い詰めての、「修行」も段々厳しいものになってくるのじゃが、
一度たりて、弱音を吐いたことが無い、 むしろ、修行中は、目の色が変わる、
何と言ったらいいのかの、鬼気迫るとでも言うか、 あれよ、あれよと言う間に、
本当の「忍者の子」の中では、一番出来る「忍者」になっておった。
その後、三年程、修行して、長利が十の時じゃ、いっちょ、もんでやろうと
「手合わせ」したら、あっと言う間に、後ろを取られて、首筋に刃を当てられたわい、
あん時は、「ゾクリ」としたぞい、ははは、 じゃが、長利は「忍者の子」の面倒見も良く、
良く気がつく子での~、お~~、そうそう、何時だったか、 忍者の里の近くに小川が
あるのじゃが、けっこう流れが速くての、あぶない場所だったのじゃが、
「わらし」どもは、お構いなしじゃから、格好の遊び場になっての、ある時、
「女の子」が流されて、そのわずかな、「悲鳴」なのかな?
長利が急に走りだして、小川で流されて、溺れかけた「女の子」を助けた事があったの~。
後で長利に聞いたら、「急に胸騒ぎがして、気がついたら、小川に向かって走っておった」と、
言っていたな~、 の~龍気よ。
龍気「ん、うむ・・、」
お菊「あれ、龍気様、どうされたのですか? 」
玄海「はははは、その「女の子」とは、龍気の一人娘の事よ、はははは、心根は、優しい子じゃがな、
「おてんば」な所があっての、 ま、娘にとって長利は、命の恩人ってことじゃな」
お菊「ま~、そうだったのですか、でも、助かって、良かったですね」
龍気「うむ、あの時は、正直、足が震えたわい、 自分が主君の為に、死ぬ事は、わしにとっては、
むしろ誇りじゃと思う。
が、「我が娘」が死ぬかもしれない、 と、考えたら、こうも動揺するものかと、
自分でも驚くぐらい動揺しておった・・。」
玄海「それが、普通じゃよ、龍気よ・・、 家族の絆と言うものは、なかなか、
切れぬもののはずじゃ・・・。」
玄海がそこまで言うと、言葉を詰まらせ、やおら、横にあった徳利ごと、
ごくごくと飲み干した。