第一章 「旅立ち」 第二十二話 「正覚寺にて・・・龍気への頼み」
「天眼 風をみる」
第一章 旅立ち
第二十二話 正覚寺にて・・龍気への頼み
四人で乾杯した後、長利が、龍気に酒をすすめながら、言葉を交わす
長利「龍気よ、実はもうひとつ頼みがある」
龍気「は、何でございましょう」
長利「わしが戻った時、この信濃に流れる河を変えようと思っておる」
龍気「信濃の河を変えるので、ございますか」
長利「うむ、具体的には、どうなるか、判らぬ、その事もこの旅で学びたいと思っておる、
じゃが、やるべき事は、あらかじめ、やっておこうと思ってな、」
龍気「やるべき事とは、 いかがな事でございますかな?」
長利「龍気よ、この杯を見よ、杯を傾けると酒は、低き所に流れるよの」
龍気「いかにも・・、」
長利「信濃の河の水も同じじゃ、水は、高き所から低き所に流れる、
毎年のように氾濫している信濃の河も基本は同じじゃ、」
龍気「なるほど・・、」
長利「この信濃の国には、信濃の河を初め、大小の川が流れておる、それらは、昔からの流れのまま
ある意味、「自然」の流れに任せた川のままじゃ、そこに、人が自分の生活の為、
住み着いた。 無論、川の水を利用するためじゃ、人にとって水は、
無くてはならぬものじゃからの・・・、
自己の利便を求めるあまり、川の近くに住み着く道理は、わかる。
しかし、一度、河が氾濫したとき、人も家も総てが流される事となる。
その代償は、あまりにも大きい・・・、」
龍気「自己の利便を求める代わりの代償と言う事ですな・・、
確かにその通りでございます」
長利「うむ、わしは、この代償を今よりも少なくしたいと、思っておる、その為には、
今の河の形を変える必要があると、考えておる。
具体的に、どうした方がいいのか、まだまだわからん!
じゃが、「今」できる事は、ある。 それは、信濃の河を中心に、
その土地の高さ、低さを知ることじゃ」
龍気「土地の高さと低さでございますか」
長利「いかにも、河が氾濫する時、どのような状況でどこで氾濫し、
その水がどう「動く」のか? それらを知るためにも、土地の高低は、
どうしても必要な事じゃ、 龍気は、「龍脈」・「地脈」そして「水脈」を
知ることが出きる、その詳しい方法は、わしには判らぬが、どうじゃ、
わしが旅に出ている間にここに書いてある場所の高低を調べる事が出きるか?」
そう言うと、長利は、懐から、土地の地図を出し始めた。
龍気「なるほど、これは、大がかりな事でございますな・・・、」
長利「前に話した「草忍」にも手伝わせ、分担してやればよいと、
考えておるが、どうじゃな?」
龍気「そうでございますな、分担して行えば、二年程で、出きると思いますが、」
長利「二年か・・、そうか、さすが龍気じゃ、それでは、この地図はそなたに
渡しておく、もし、二年よりも早く出きる様であれば、早めに頼む」
龍気「は、かしこまりました」
そこに、小鉄から、使いを受けた、「半兵衛」が、やって来た。
半兵衛「頭領、御呼びでございますか、」
龍気「来たか、半兵衛、 実はお館様(長利の意)が明日、「元服」される、その事を、
この書状に書かれている方々に知らせて欲しいのじゃ、やり方はそちにまかす、
なるべく迅速にたのむ、」
半兵衛「は、かしこまりました」
と、一言いうと、半兵衛は、煙のように気配を消した。
龍気「お館様、後は、半兵衛に任せておけば、大丈夫でございますが、
明日の「元服の儀」に使用する衣装はいかがいたしますか?」
長利「うむ、それは、兄、長棟に借りるつもりじゃ、「元服」といっても結局は
「形式」じゃ、型どおりの衣装をまとい、 烏帽子を被れば、それでよい。
そのまま、町に繰り出し、「はぐれ村」まで行くつもりじゃ、
長末にその姿を見せて、わしの「元服の儀」は終いじゃ、
その後、玄海に頼みがある。」
玄海「お、なんじゃ、わしにできる事なら、何でもするぞ」
長利「うむ、和尚がいつもしていることじゃ、この頭じゃよ」
玄海「お、そうであったな、「旅の僧」として、出立するのであったな、
任せておけ、念入りに「剃刀」を砥いでおくぞ」
長利「うむ、よろしくたのむ」
玄海「じゃが、旅先では、自分で頭を剃らねばならぬぞ、
ま~、何度か切るであろうな、ははは」
長利「そうであろうな、覚悟はしているよ・・・、」
お菊「あら、お坊さんの格好で旅に出られるのですか? それは、初めて聞きました」
長利「うむ、その方が色々と都合がいいのでな」
玄海「じゃが、まず、どこに行くつもりじゃ?」
長利「うむ、一番初めは、敵対している「小笠原 長基」の所じゃ、」
龍気「なんと! 同族とはいえ、敵の長基の所でございますか!」
長利「うむ、そうじゃ、幼き頃に会ったまま、ほとんど、話をした事が無い、
じゃから、わしは、自分の目で確かめたいのじゃ、 父や兄の話だけでは、
その者の本心が解らぬからの、こちらに敵意が無い事がわかれば、
そう邪険にする事もあるまい、いざとなれば、逃げる! はははは、」
玄海「まったく、笑い事ではないぞ、」
龍気「本当でござる・・、 ま、お館様の「武」なれば、いかようにでもなりましょうが、
くれぐれも、お気をつけくだされ」
長利「もし、その場で斬られるようであれば、わしはその程度の人であったということよ、
じゃが、「天命」があれば、生き延びよう。
それは、この旅の総てにおいて言える事よ、旅先でのたれ死ぬようであれば、
所詮、それまでの男であったと、 皆も諦めてくれ」
お菊「大丈夫でございます、長利様は、必ず生きて戻って来られます。
長利様は、「民」の事を一番に考えておられます そんな長利様を
天の神様が見捨てる筈がございません! ですから大丈夫です
このお菊が断言いたします」
長利「ははは、お菊よありがとう、これは、どうしても、生きて
戻らねばならぬの~、肝に命じておくよ」