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「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
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第一章 「旅立ち」 第二十話 「急襲」



「天眼 風をみる」


 第一章 旅立ち


 第二十話 「急襲」



お菊は、自分が作った様々な「料理」を重箱に詰め、それを五段に分け、


風呂敷に包み、背負っている。



長利が、「わしが持とうか?」と、言ってくれたが、


「いえ、私のわがままで、お供させて頂いているので、これは、私が持ちます」


と、頑なに断った。



長利は、それで、お菊の気がすむのであれば、よいか・・、 


と思い、そのまま、二人で歩いた。



 

長利「そうじゃ、忘れておったわ、昼間、話しておった、これが、小鉄専用の「脇差し」じゃ、


   玄関で渡そうと思っておったが、つい、持ってきてしまったわい」



そう言って懐から取り出したのは、長さ一尺に満たない、真っ黒な脇差しである、


ただ、「柄」の部分には、小鉄が咥えても しっくりくるように、黒い布が幾重にも


巻かれている、抜きやすいように「反り」が無く、鯉口も緩めになっており、


どちらに咥えても良いように、刃は両刃となっている。



長利「鯉口が緩めじゃからの、脇差しを下に向けただけで、するりと抜けてしまう、


   普段は、この袋に入れて置くほうがよいぞ」



そう言って、脇差しを入れる袋も手渡された。 


袋は、金糸で「鶴と亀」の刺繍が施されており、上品な仕上



がりとなっている、お菊が持ち歩いても遜色は無い。



お菊「見た目は、上品ですが、中身は、実用的な物ですね」



お菊にとっては、初めて触る刀の類が、普通の人がめったに


   

お目にかかる事の無い、忍犬専用の業物であった。



それを、自分の懐にしまうと、ちょうど、「鶴と亀」の部分が懐から、


顔をだすように、なっている。



長利「ふむ、見た目も悪くないぞ、それを、使うときは、袋から取り出し、


   そのまま、小鉄の方に投げてやれば、後は、小鉄が、上手く


   やってくれるからの、何と言うかは、覚えておるか?」



お菊「はい、大きな声で「守れ」と言えば、いいのですよね」



長利「うむ、そうじゃ、ま~、めったに使うことは無いとは思うがの」



  


西の「正覚寺」までは、歩いて一刻(二時間)程かかる、


暮れ六つ(午後六時頃)に屋敷を出て、


半刻(一時間)程歩いた所で、辺りは暗くなってきた。



お菊「そろそろ、提灯に火をいれますね」



そう、お菊が言うと、持ってきた「火打ち袋」から、火打石と火口を取り出し、


火口に向け、火打石を打ち付ける 火口に火がつくと、それを、そ~と、


提灯の蝋燭に移す。



蝋燭に燈った火が、少しずつ勢いを増し、辺りをほんのりと照らし始めた。 


提灯には、小笠原家の家紋である「三階菱」の紋様が描かれており、


蝋燭の火が内側から、家紋を浮かび揚がらせている。




「よっこいしょ、」と言いながら、お菊が背負った重箱に気を使いながら立ち上がり、


「さて、参りましょう」と気合をいれた。



「やっぱり、持とうか?」と長利が言うと、「いえ、これだけは、私が持ちます」


 と気丈に振舞った。



長利「一体、どんな酒の肴を作ってきたのじゃ、やけに重そうじゃがの・・・、」



お菊「えへ、秘密です、開けてからのお楽しみです。」と、どこか嬉しそうである。



  

正覚寺まで、あと四半刻(約、30分)の所まできた時に長利の足が止まる。



長利「む、いかん! ヒの、フの、ミの・・・十匹以上おる・・、


 いつの間にか、囲まれているぞ」


お菊「え? どうなされたのですか? 長利様」



長利「野犬の群れじゃ、いつの間にか、囲まれておる!」



お菊「ひ! や・野犬!!」


そう言うとお菊は、辺りを見渡した、 提灯の明かりに照らされて、野犬の目が、


アチコチで怪しく光っている。耳を澄ませば、「ぐるう~~~」と


周囲から唸り声も聞こえる、




長利(わし、一人なら、どうにでもなるが、お菊が居ては、そうもいかん、


    数が多すぎる、そうか! お菊が背負っている、料理の匂いに


    引き寄せられたな・・・、)




長利「お菊、狙いはその料理じゃ! そいつを置いて逃げるぞ、


    走っては成らぬ、後ずさりして、目を背けず逃げるのじゃ、


    数が多すぎて、一斉に襲われたら、お菊を守りきれん」 


   

そう言いながら、長利は、「菊一文字」を抜いた。



お菊「え! この料理を捨てるのでございますか、 嫌でございます! こ・これは・・・、」



そこまで、言うとお菊は、黙り込んでしまった、


自分の中で、「葛藤」しているのである。



長利「うむ、気持ちはわか・・・ そうじゃ! お菊、「犬笛」は、持っておるか?」


お菊「あ、はい! このように」  


お菊は、「犬笛」に編んだ紐をくくり付け、お守りのように、首から下げていた。



長利「よし、おもいっきり吹くのじゃ」



お菊「はい!」 


そう言うと、お菊は、犬笛を咥え、おもいっきり息を送り込んだ、


人の耳には聞こえぬ音が闇夜に「こだま」する。



お菊にも、その音は聞こえぬが、咥えた唇から、かすかにその振動が感じとれる、



すぐに、離れた所で、小鉄の遠吠えが聞こえた。




長利「よし、応えた! お菊、その大きな木の前に立て、後ろから襲われる心配が無い! 


   そして、先程の脇差しを用意しておけ、小鉄が来たら、それを渡すのじゃ、できるな?」



お菊「は・はい! 大丈夫です、」


お菊は、スルスルと袋の紐を解き、スルリと脇差しを抜いた。




長利「提灯を落とすでないぞ、犬は、本能的に「火」を恐れるからの」



野犬の群れは、長利の「気合」に押されながらも、


ジリジリとその包囲の輪を狭めて来ている、


  

その中から、一際大きな野犬の一匹が、前に出てきた。 


恐らく野犬の群れの大将なのであろう。


長利と対峙しながら、唸り声をあげ、にじり寄って来る。  



長利(こいつの合図で一斉に飛び掛るつもりじゃな、二、三匹なら、


   即座に切れようが、この数では、まずい)



  

今、まさに、野犬の大将が飛びかかろうとした時、 「小鉄」が走って来た。 


先に気がついたのはお菊の方であった。 お菊は、走ってくる小鉄に向けて、


脇差しを投げると、大きな声で「守れ!」と言い放った。



一瞬にして、状況を把握した小鉄は、お菊が投げた脇差しを空中で咥え、


その勢いのまま、野犬の大将に切りかかった。



「キャン!」と言ったまま、野犬の大将は、バタリと倒れ、


首から血を流して、絶命していた。



あっと言う間の出来事である。  小鉄は長利の前に立ち、一旦、脇差しを


口から離すと、「勝ちどき」にも似た、遠吠えを発す、それに呼応するように、


野犬の群れの周囲から、同じように遠吠えが聞こえ出した。



忍犬の総大将である小鉄が、発する遠吠えは、その周辺に居た総ての忍犬に届いていた。



いつの間にか、野犬の群れの周辺を、 忍犬の群れが取り囲んでいた、


小鉄の「ワン!」と言う一声で、訓練された忍犬は、野犬の群れに襲いかかる。



野犬の群れは、大将を一瞬で失った事と忍犬の素早い動きに圧倒され、


あるものは、のど笛を噛み切られ絶命し、 あるものは、足を噛み切られ、


「這う這うの体」で逃げ出した。



周囲の殺気が無くなるのを、小鉄が感じ取ると、地面に置いてあった脇差しを



咥えなおし、それを、お菊の前に差し出した。



お菊は、脇差しを受けとると同時に、小鉄を抱きしめて、わん、わん、泣き出した。



お菊「ありがとう~、小鉄~~、ありがとう~~」 


小鉄は、さも満足げに「待ち」の姿勢で、尻尾を振り、お菊の首筋を舐めていた。



夜空には、丸い「お月様」がその様子を静かに、見守っていた・・・。


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