表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
17/173

第一章 「旅立ち」 第十六話 「竹の皮と吾平」


「天眼 風をみる」


  第一章 旅立ち


     第十六話 「竹の皮と吾平」



   茶店に入ると、長利は、店の女将に、茶と笹団子を注文して、


あえて、店先の長椅子に二人で腰掛けた。



長利「ここは、吾平に教えてもらったのじゃが、笹団子が美味しくての~」


お菊「あら、今、お館さま(長利の父の意)の所で奉公している吾平さんですか」


長利「うむ、そうじゃ、お菊と吾平は、何度か会うておろう」


お菊「そうですね、あの方は、良い方で、私の噂などまったく気にせず、


    気さくに話していただけました」


   そんな話をしていたら、名物の笹団子を店の女将が自ら持ってきた。  


   丁寧にお茶と笹団子を二人に手渡すと、「ごゆっくり、どうぞ」と一言添えると、


   お菊は「どうも、ありがとう」と自然に声が出た。



お菊「そういえば、吾平さんは、元、きこりでしたね」


長利「うむ、そうじゃの、確かそのような事を聞いておる、なんでも、


   木の上から、足を滑らせて、下に落ち、打ち所が悪く、 足の骨を


   折ってしまったようじゃ、骨はくっ付いたが、あのように、びっこになって


   しまっての、元のきこりは出来なくなり、長高の所で奉公


   するようになったそうじゃ」



お菊「でも、吾平さんは、「木」に関しては、とても物知りだそうですよ、


    木の種類やその木質、育て方など、とても詳しくて、 わざわざ遠い所


    から、尋ねて来る方もいるそうです とくに、「接木」とかの技がすごいとか」


長利「接木、とな? それは、どんな技じゃ?」


お菊「詳しくは、聞いていないのですが、なんでも、種類の違う木を


    くっつける技だそうです」


長利「ほ~、違う種類の木がくっつくのか! それは、初めて聞く技じゃの~」


吾平「これは、これは、長利様、お菊さん、ご機嫌でごぜ~ますだ」 


   と不意に声をかけられた、吾平である。


お菊「ま~、吾平さん、ちょうど、噂をしていた所なのよ」 


長利「こりゃ、びっくりじゃの・・・、」と、長利も驚いている。


吾平「へ? おらの何を噂しとったので、ごぜ~ますだ?」


長利「い、いや、吾平が元、きこりであった事と、木に関して、


    物知りであるという事を話しておったのじゃ」


お菊「そうよ、わざわざ、遠い所から、吾平さんの話を聞きに来るって事もね」


吾平「そったら事でごぜ~ますか、いや、お恥かしいこってごぜ~ます」


長利「それは、そうと、吾平もどうじゃ、笹団子でも、食わんか?」


吾平「へぇ~、そのつもりで、茶店に参りましたもので」


長利「そうか、わしのおごりとするので、いくらでも注文するがよいぞ、


    孫娘のお千代に、お土産も注文すればよいしな」


吾平「それは、それは、ありがたいこって、それじゃ~ちょっくら、


    注文してまいりやす」 


   そう言うと、吾平は、店の奥に向かって、自分が、


   今、食べる「三皿分」とお千代のお土産の分を注文した。



長利「本当に、びっくりしたわい・・、」 


    長利がぼそっと言うと、お菊も小声で、「噂をすれば、なんとやらですわね」


    と言って笑った。


お菊「そういえば、ここの笹団子は、お持ち帰りも出来るのですね」


    とお菊が言うと、さも、自分の店のように吾平が


吾平「そうでごぜ~ますだ、 いつも孫娘のお千代に持って帰るの


    でごぜ~ます ちゃんと、竹の皮で包んでくれるので、


    日持ちもいたしやす」と得意げに言った


お菊「あら、竹の皮に包むと日持ちがするの? 吾平さん」


吾平「昔からの知恵でごぜ~ます


    竹の皮には、物が腐るのを、遅らせる力があるので


    ごぜ~ます」


長利「ほう! それも、初耳じゃな、じゃから、握り飯なども竹の皮で包むのじゃな」


吾平「その通りでごぜ~ますだ、 おらが、きこりの時は、いつも竹の皮で


    包んだ、握り飯を腰につけ、木の上で、


    枝打ちをしながら、握り飯をほうばったものでごぜ~ます」



長利 「ふむ、竹の皮にそのような力があるのか・・・、


    そもそも、握り飯は 何故腐るのじゃろうな・・、」


吾平「そうで、ごぜ~ますな、おらは、昔から考えておったのですが、


    目には見えない小さな「虫」がいて、その虫達が、握り飯を食べて


    しまうのじゃ~ないかと考えておりやした  


    そして、その虫達が出した糞をわしらが、食べると腹を壊す


    という訳でごぜ~ますな、 あ、こりゃ、失礼いたしやした 


    こんな所で話す事では、ごぜ~ませなんだ」


長利「そうか・・・、「糞」か・・、あ、いかん! つい口に出してしまった 


    じゃが、そう考えると、つじつまがあうの~、 


    目に見えぬ虫か・・・、ん、 これは・・・、もしかして・・、」

 

お菊「どうなさいました、長利様、」 お菊が考え込んでいる長利を不思議そうに見ている。


長利「ん、いや、はぐれ村の事を考えておった もしや、あやつらの病も


    同じように「小さな虫」が原因であるかも知れんとな、 


    そうであれば、それに効く何らかの薬があるのかも知れんとな・・、 


    吾平や、はぐれ村の病の事は、そなたも知っておろう」


吾平「へぇ~、はぐれ村の事は、よく知っております、


    おらの幼馴染もあそこにおりますだ・・・、」


長利「そうか・・、 先程の小さな虫の事じゃが、もし、はぐれ村の病も、


    その目に見えぬ小さな虫の仕業だとすると、竹の皮のように、


    その小さな虫を退治するような物は、ないものかの」


吾平「そうでごぜ~ますな~・・・、実は、おらもその事を考えたことが


    ありやして、色々と試した事があったのでごぜ~ますが、 


    思うように、いきませなんだだ・・・。」


長利「そうか・・、」


吾平「ただ・・、この国には無い、南の暖かい国で、あの病に効く「木」が


    あると聞いた事がごぜ~ますだ」


長利「何! そんな木があるのか!」


吾平「確かなことは、言えませんだが、あくまで、噂ですだ、おらも、


    確かめようがないもので、諦めておりやしただ・・、」


長利「いい事を聞かせてくれた、諦めるのは、まだ、早いぞ・・、


    うむ、希望が見えてきたの・・・、 吾平よ、いつか、お主の力を


    借りる時が来るやもしれぬ、 息災でおれよ・・、」



    その後、長利は、長椅子に座りながら、しばらく考え込んでいた 


    その様子をお菊は、わが子を見守るような目で、 


    何も言わず、ただ、優しく、見ていた・・・。

.







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ