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「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
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第一章 「旅立ち」 第十四話 「百日紅(さるすべりの花)


「天眼 風をみる」


 第一章 旅立ち


   第十四話 百日紅(さるすべりの花)



もし、長利が旅に出ると、言わなかったなら、そして、お菊にとって、今の生活が、


ずっと続いていたならば、自分の気持ちに気がつかなかったかも知れない。


お菊にとって長利は、身投げを止めてくれた命の恩人であり、


その後、こうして 働く場所も世話してくれている  ただ、「感謝」などと言う、単純な


言葉では言い現せない深い気持ちを持っていた。



何より、こんな私が、誰かの役に立っている それが嬉しかった 


今の生活がお菊にとっては 「生きている実感」なのである。


長利「お菊、聞いておるのか」


お菊「あ、はい、何でございましょう」


長利「さっきから、聞いておるのだよ、何処か行きたい所は、


無いのか? とな」


お菊「あ、あら、ごめんなさい、ちょっと、考え事をしていました・・、


何処か行きたい所ですか・・・、そうですね、まだ、咲いているかしら、


私が前に住んで居た近くの原っぱに、百日紅サルスベリの木が二本あるの


ですが、その木が見てみたいです・・。」



長利「百日紅か、夏の間、ずっと咲いているから、大丈夫なのでは


   ないかの~  遠いのか?」


お菊「いえ、歩いても半刻(一時間)程ですわ」


長利「ならば、春風に乗っていけば、すぐじゃの~」


お菊「え? 馬ですか! 私は、馬には乗れませんよ」


長利「大丈夫じゃよ、春風は、おとなしい馬じゃ、それに、


    さほど、飛ばしはしないよ 一段落したら出かけるとしよう」


お菊「はい、わかりました」



お菊は、はやる心を抑えて、出かける用意にとりかかった・・・。 


長利は、春風に鞍を着けに、馬小屋に向かった・・・。


長利「う~ん、わしの目方が15貫(約、56、2㌔)で、おそらく、


   お菊が12貫(45㌔)程であろうから、ちときついが、春風よ、


   頼むな、ゆっくり行くからの」


   数ある鞍の中で、大き目の鞍を春風に着け、首筋を撫でてやる。


   と、そこへお菊が声をかける


お菊「長利様、準備が整いましたが」


長利「おう、出来たか、よいか、まずわしが春風に乗るから、この踏み台に乗り、


    わしの後ろに横のりで乗るのじゃ、


    安定が悪くなるからの、わしにしっかり しがみつかねばならぬぞ、出来そうか?」



お菊「そうですね、ちょっと怖いですが、やってみます」



長利は、あぶみに足をかけると、優しく春風に乗る。 


手綱をしっかりと握ると。


「さて、そっとな・・、」とお菊を誘う


「はい・・、」 と踏み台の上からそのまま、すっと腰を下ろすと、


降ろした瞬間、春風がちょっと意地悪して、動いた。


瞬間的にお菊は、長利に後ろから、抱きつく形となった。    


春風は、牝馬である。 どうやら、焼き餅を焼いているようだ


長利「これこれ、春風、気持ちは分かるが、勘弁しておくれ」


    そう、言うと、また、首筋を撫でてやる。


長利「さて参ろうか、どの道じゃ、」


お菊 「あちらを、右でございます、」  


    

そう指し示すと、お菊はすぐに、長利の両脇に自分の腕を入れ、


長利の腹の辺りで両手を交差させた


長利は、歩くよりも、ちょっと早い速さで春風を走らせる、 


それでも、お菊にとって、初めて乗る馬上の目線は、高く感じられ、


怖いと思ったが、春風が上下する度に、長利の脇の骨と鍛え抜かれた


 固い腹が、着物越しにはっきりと、お菊の両手に感じられ、 


 いつしか、怖さは、無くなっていた・・・。



お菊「その角を左に曲がって、しばらく行った所でございます」


長利「うむ、そうか、ところで、お菊よ大丈夫か?」


お菊「はい・・・、大丈夫でございます」


    と、言ってはいるが、この時お菊は、何も考えられずにいた。


    しばらく、走ると、拓けた野原があり、その奥に二本の百日紅さるすべり


    が植わっている。


     遠目から見ると、一本に見えるのだが、よく見ると、二本の百日紅がまるで、


    朝顔のつるのように、ぐるぐると巻き付いている、 しかも、咲いている花が、


    それぞれ「白」と「桃色」なので、上の方では、程よく入り混じり、 


    「紅白」の花が咲いているのだ。 


 

長利「ほ~、これか、何とも、めでたい百日紅じゃの~」



お菊「そうでしょう、誰が植えたわけでもないのですが、このように咲いているのです」


   程よく、大き目の石があったので、その横に春風を付け、お菊を降ろすと、


   長利もひらりと降り、春風のご機嫌をとる  春風は、ぷいっと横を向き、


   その辺の草を食んでいる


長利「ははは、すねているな、後で褒美でもやらねばならんの~」


   お菊は、じっと、百日紅を見ている、昔からこの場所が好きで、


   この百日紅が好きだった。 


   互いに絡み合い成長して見事な花を咲かせている 


お菊(この百日紅は、元は夫婦であったのかも・・、


    それとも、叶わぬ恋の果て、自害してこの世で こうして一緒に


    なったのかも知れないわ・・・、  死んで、魂となり、それでも一緒に


    なりたかったから、こんな形になったのかも・・・、)


   お菊は、そんな事を考えながら、静かに百日紅を見ていた。


お菊(白い花を咲かせているのが、「男」で、桃色が「女」ね・・、)  


  じっと、百日紅を見ているお菊を、長利は、何も言わず、傍らから見守っていた・・・



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