第一章 「旅立ち」 第十一話 「長末の決意」
「天眼 風をみる」
第一章 「旅立ち」
第十一話 「長末の決意」
龍気が、深く頭を垂れる その前の両の拳が小刻みに震えている・・・、
それを見て、長利は、龍気の気持ちが痛い程わかった。
(深淵が波立っている・・) 長利は、そう感じていた・・。
長利「うむ、案ずる事はない、必ず、無事に帰って来る」
と、自分に言い聞かせるように、龍気に言った。
龍気「それと、お館様、長末殿の事でお話があります」
長利「お~、長末か、明日にでも会いに行こうと、思っておったところじゃ」
龍気「出来れば、それは、お控えください」
長利「ん? どうしてじゃ? なんと! まことか! 龍気よ・・・」
龍気「はい、 今、みられた通りで、ございます・・・。」
長利「長末が、あの不治の病に・・、なろうとは・・・。」
龍気「先日、配下の者から、長末殿がはぐれ村の住人になったと
知らせがありました 一、二ヶ月程前から、具合が悪く
なっていたそうでございます
確認の為、私、自らはぐれ村に赴き、長末殿におうて参りました
まことに、残念ですが、長末殿は、間違いなく
らい病になっておられました・・・。」
「そうか・・・」 長利は、言葉を失った・・・。
龍気「それから、これは、長末殿からの伝言でございます」
長利「伝言とな」
龍気「は、(この度、このような事になってしまい、残念では ございますが、
これも自然の理私は総てを受け止める所存でございます。
長利殿には、いつまでも、健やかでおすごしくだされ)
との、事でございます」
長利「じい・・、あやつめ、こんな時に、わしの事など どうでもよいのに・・、」
龍気「それと、もうひとつ、この事を長利殿が知れば、無理してでも、
私に会いに来ると言うであろうから、絶対に来てはならぬと
もし、会いに来ることがあれば、この長末その場で腹を切る覚悟である
そう、伝えてくれと、言っておられました」
長利「そうか・・・、わしの身を案じての事じゃな・・。
・・・わかった、 龍気よ、すまぬが、今から書く書状を長末に
持って行っては、くれぬか、いつものように、
はぐれ村の入り口の箱に入れておくだけでよいのでな・・・、」
そう言うと、長利は、いつも持ち歩いている竹筒の中から、
筆を取り出し、さらさらと書き出した
概の内容は、「旅に出て、必ず良い薬を探し出して来るから、
わしが戻るまで生きていてくれ」との文である。
龍気に書状を渡すと、龍気は両手でそれを受け取り、懐にいれ、代わりに、
職人が使うような、丈夫な麻袋を取り出した。
龍気「お館様、道中何があるか わかりませぬゆえ、せめて、これをお持ちください」
中には、苦無(クナイ 棒手裏剣の一種)が3本入っていた
長利「これは、そなたの愛用の苦無ではないか、よいのか?」
龍気「は、我が分身と思ってくだされ、この苦無には、何度も
我が命を救われました
必ず、お館様のお命も救ってくれることでしょう・・。」
長利「うむ、その気持ちも一緒に受け取るといたそう、 かたじけない・・」
苦無は、幾多の戦いをその身に刻んでいた、所々に欠けたところがあり、
持ち手の部分は、布が巻いてあるが、 おそらく、血であろう染みが
付いている、忍者の持ち物である以上、人を殺す道具にもなるが、
身を守る武器にもなる、用は、使い方次第なのである
長利は考えていた 「仕込み刀が入っている杖」も この「苦無」も人を
殺める武器である わしがこの武器を使って人を殺める時は、
どんな状況の時であろうか・・・、
単純に自分の身を守る時? それとも、他の誰か、例えば、自分が大切に
想っている人を守る時? 今の時代は、殺伐としている このような物を
持ち歩かなければ、安心も出来ないのである・・・。
(わしは、生まれてきた時代を間違ってきたのかな・・、)
そんな事を考えてしまっていた・・・。