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「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
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第三章 「約束」 第六話 「静かな夜」



「天眼 風をみる」


 第三章 「約束」


  第六話 「静かな夜」 


  永光寺での話しは、尽きぬところであったが、


 道願の「夜もふけた、今日はお開きと


いたすまいか」の一言で、それぞれが


帰路についた。


 ただ、お鈴だけが、永光寺の本堂に


一人残った。


お鈴「道願様、もう少しお話を伺ってもよろしい


でしょうか?」


道願「うむ、先ほどの風読みの力のことかの?」


お鈴「はい、それもありますが、もう一つ気になる事が


ございまして」


道願「気になる事とは? いかなることじゃの?」


お鈴「はい、それは、小笠原家の事でございます。   


     長政様が旅立った後、私と父、を襲った


浪人どもが、小笠原 長棟の手の者と判った


のは知る所であり 


    その後、長政様の屋敷に小笠原家の家臣が


攻め入ったのも事実でございます。


    ですが、それから後は、嘘のように小笠原家


からの 襲撃はございません。


    いかに、身を潜めようとも、「安寿庵」を開業


     してからかなり の日数が経っております。


    私のように目立つ容姿(隻眼と言う意味で)で、


  しかも「女」の医者なれば、このような小さな


     町では、 すぐに噂となりましょう。


      この事が、小笠原家・・、「長棟」の耳に入らぬ


      訳がございません。」


道願「なるほどの・・・、 これは、おそらくじゃが、


    これから後、小笠原家から、そなたら「親子」


    への報復は、今後無いであろう」


お鈴「それは、何故でしょうか?」


道願「うむ、一言で言えば、そなたを含めた「安寿庵」が、


この町に無くてはならない存在となったからじゃよ。


    この町は、小笠原家の領地じゃ、町には、


     小笠原家の家臣やその家来も住んでおる


    じゃが、武士だけでは、町は成り立たぬであろう、


   農民や町人・商人が居て、「町」が出来ておる。 


    それらを繋げておるのが、「縁」であったり「絆」


     であったりするのじゃ。


     お鈴さん、そなたは、病に苦しむ者を


     町人だからとか、武士だからとかの理由で


     分け隔てて患者を診ておるかの?」


お鈴「いえ、そのような事は致しておりません。」


道願「そうであろう、 そなたが救った「命」は、今は、


どれぐらいの数になるかは判らぬが、


やもすると、小笠原家のゆかりの者も


    その中に、おるかも知れぬ。


    考えてもみよ、我が身内の者の「命」を救いし者の


     「命」をとろうとは 思わぬものよ・・・。


    そなたは、それだけの「徳」を積んだと


     いうことじゃの。」


お鈴「徳でございますか・・・、」


道願「そうじゃ、 いつぞや、長政殿が言うておった、


   「力」には、様々な形があると、単に腕力や武力だけが、


「力」では無いと・・・、


    お鈴さん、そなたは、医療の「知識」と「技術」そして、


    「心」で病に苦しむ人々を救ってこられた・・・、  


    中々、他の人には出来ないことじゃと、わしは思うておる。


    「風読み」の力は、本来あっては、ならない力じゃ、


  それに惑わされ、振り回され、


    己の心が弱ければ、自らを破滅に導く力になる。


  お鈴さんは、それらを乗り越え、更に医療の道に進み、


  高きを望もうと努力した。 


     「風読み」の力が弱くなってきたと、感じるのは、


    お鈴さんが、それを必要としなくなったから


     かも知れぬの・・・、 


  すべては偶然ではないのじゃよ、 


    正しい心で生き、正しい行いをすれば、


    おのずと「正しい方向」に導かれる。


    わしは、そう思っておる。  


    話が、飛んでしもうたが、「答え」になっておったかの? 


    ふぉ・ふぉ・ふぉ」


お鈴「道願和尚、ありがとうございます。


    おかげで、今日はよく眠れそうです」


道願「そうか、それはなによりじゃ、


   それからの、玄海殿やそなたの父、龍気殿の「心」が


   読みづらくなったのは、この永光寺での修行の成果


   でもあるからの、ま~、あまり気にするでないぞ」


お鈴「はい、わかりました。 それでは、今日は、失礼いたします」 


 

    軽やかに歩みを進め、帰路につくお鈴の後ろ姿を、


    道願はいつまでも優しい目で見送っていた。

 

    その夜は、「風」も無く、何事も起こらぬ、


    静かな夜であった。



    




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