第三章 「約束」 第五話 「永光寺での対話・・・その弐」
「天眼 風をみる」
第三章 「約束」
第五話 永光寺での対話・・・その弐
道願に問われ、お鈴は、正直戸惑った。
玄海や父である龍気に、先に問うのが筋である。
しかし、玄海や父、龍気の顔を見ると、
ごく自然にお鈴の回答を、まっているようである。
お鈴「わかりました。 まず、私の考えは、長政様と
同じでございます。
つまり、「逢う」・「逢わない」を決めるのは、
長政様、御本人の意志です。
他の者がどうこう言う事では、ございません。
おそらく、長政様も、「逢うて、見ねば、わからぬ」
と申されると思います。
また、その出会いに関して、「吉」か「凶」か、
それは、どちらかと言えば、「吉」でもあり、
「凶」でもあります。
具体的に言えば、初めは、「吉」となり、その後、
「凶」に転ずる。と、感じます。
ただ、「その時期」が何時なのか?
それが、あまりにも先な事なので、
わかりかねます。」
道願「なるほど・・・、お鈴さん、いや、悪かった。
実は、玄海殿と龍気殿には、先程、話をしての、
概ね、お鈴さんの考えと同じであった。
「試す」ような形になってしもうたの、
このとうりじゃ・・・。」
お鈴「やはり、そうでございましたか、私の「風読み」
(心を読む力)の力は、道願殿には利きませぬ、
ここ最近は、父上や、玄海和尚の「声」も
聞こえずらくなっております。
恐らく、ここでの「修行」の成果なので
ありましょう・・・。」
道願「ふむ・・・、 その事を、少し寂しいと感じる心が、
あるようじゃの・・。」
お鈴「仰るとおりで、ございます。
ですが、もし仮に、私に「風読み」の力が
無くなったとしても、それもまた、自然であります。
あるがまま、総てを受け入れる覚悟は、
出来ています。」
道願「うむ・・、その事は、後々ゆっくり話すとしよう。
問題は、長政殿の事だけでは無い。
長政殿を慕い、ついて行こうと考える民が多くなった
事が問題なのじゃ。
しかし、長政殿は、小笠原家と別離し、領地も無い。
沢山の民が、長政殿を慕い、共に生きようと、
考えても小笠原家と言う「後ろ盾」を失った今、
それら、「民」を守り、養う事が出来ぬ、
それが、問題なのじゃ・・・。」
剛力「あの~、ちょっくら、いいですかの?」
道願「ふむ、何なりと申すがよろしいぞ」
剛力「おらは、難しい事は、あんまし判らんばってん、
けども、さっき話しに出ていた
村上・・なにがしと言う人は、
小笠原家と敵対しているっつう事でやすよね?」
道願「うむ、村上 義清殿じゃの」
剛力「そう、義清さんじゃ、その村上 義清さんの家来に
なるってのは、駄目なのじゃろうか?」
道願「ふぉ・ふぉ・ふぉ、 剛力殿、そなたは、
「真っ直ぐな人」じゃの~、
確かにその通りじゃ、しかし、事は簡単には、いかん・・・。
まず、村上殿が、どのように考えているかじゃ、
それに、長政殿がそれで、納得するかじゃの・・・、」
剛力「だども、おらが長崎で大日坊・・いや、
長政様とお話した時は、自分の事より、民・草の事
を 第一に考えておられただ、
そげな人じゃったから、わしもあの方の力に
なりて~って思って、ここまで来ただ。
後は、その義清さん次第じゃとおもうのじゃがの~」
お鈴「道願様、私もそう思います。
あの方は、ある意味、「真っ直ぐな方」です。
何故、 村上 義清殿が、わざわざ、道願様に
手紙を出し、長政様に「逢いたい」と言ってきたのか?
長政様の「何か」を感じておられるのでは、
ないでしょうか?」
剛力「んだ・んだ、おらもそれを言いたかっただ。」
吾平「剛力どん、そりゃ~、ちょっと 調子がいいの~」
その言葉に、一同が「どっと」わいた。
道願「うむ、この件は、長政殿が帰ってから、
長政殿に任せよう・・・。」
龍気「半兵衛殿、ひとつ頼みたいのじゃが、」
半兵衛「は、何なりと」
龍気「長政殿が、何処から帰って来るのかが判らぬ以上、
この町を中心にそれぞれ伸びる街道沿いの
一番近い宿場町に、忍びを配置してくれぬか、
長政殿が、何時帰るのかを知りたい。
「こちらの」準備もあると思うのからの、のう、お菊」
半兵衛「は、承知いたしました、では、早速!」
龍気の後ろに「影」のように座っていた半兵衛は、
音も無く消え去った。
後には、龍気の本当の影が、置行灯の火の
揺らめきと重なっていた・・・。