第三章 「約束」 第四話 「永光寺での対話・・その一」
「天眼 風をみる」
第三章 「約束」
第四話 永光寺での対話・・その一
時は、暮れ六つ(現在の午後六時ごろ・)場所は道願の
居る永光寺である。
夕闇迫る永光寺の本堂中央に茣蓙が
敷かれている。
全体に花の模様が染められた花茣蓙
(はなござ)である。
道願が、今日の日の為に用意したもので、
その花茣蓙の中央に置行灯
を点し、その周囲を九名の者が座っている。
道願が本堂の上座に座り、その両脇を玄海と龍気が、
龍気の横には、お菊とお鈴、玄海の隣には、
源庵・剛力・吾平と続き、龍気の後ろに一歩下がり、
半兵衛が座っている。
半兵衛は、未だに龍気を「忍びの頭領」と
慕い続けているのだ・・。
道願「さて、もう皆も知っての通り、長政殿が旅
から帰って来る。」
一同の顔に、笑みがこぼれる・・・。
玄海「うむ、手紙には、帰る期日は、書いておらなんだが、
おそらく、ここ二・三日中であろう」
吾平「やっと、長政様に逢えるだな~、
間に合って良かっただ~・・・。」
源庵「これこれ、吾平殿、そんな弱気でどういたします、
まだまだ、長生きできますぞ」
お鈴「そうですよ、吾平さん、病は気からって、
いつも言っているでしょう」
吾平「んだな~、おら、それだけで生きている
ようなもんだからな~」
吾平は、この三年間で、随分体を悪くしていた。
元々、悪かった足の傷が痛みだし、
それに伴い、全身の節々も動かなくなっていた。
無理に動かそうとすると激痛が走り、今日、
ここ永光寺に来るのも、
半兵衛や忍びの者の助けを借りて来たのである。
剛力「吾平さん、わしは吾平さんの事を、実の親の
ように慕っておりやす、そげなこつ、言わんでください、
もっと・もっと長生きしておくれやす」
吾平「んだな・剛力どん、まだまだ、頑張らねばの~・・・。」
道願「ところで、吾平殿、「太風子のギヤマン小屋」は、
順調かの?」
吾平「あそこは、もう大丈夫だ、ほとんどは、「お千代」
(孫娘のお千代、第一章・第十六話で話にでたお千代)
に任せてあるでの~」
龍気「そう言えば、お千代ちゃんは、いくつになられたのかの?」
吾平「そうじゃの~、今年で十三じゃの、物覚えの良い子での~、
おらの知識は、ほとんどお千代に伝えてあるで、
安心ですじゃ、後は経験じゃの」
お菊「そういえば、長政様が、お千代ちゃんに笹団子を
お土産にあげていましたね」
吾平「んだ、長政様は、そういった気づかいも
忘れないお方じゃ、
お千代も、そんな事で自然と長政様を
好きになっておった。
もっとも、自分で物事を考えるようになってからは、
長政様の考え方・生き方に共感しておっただよ。」
道願「では、玄海殿、「蒼玉の洞窟」は、順調かの?」
玄海「蒼玉に関しては、半兵衛殿に聞いた方が、
良いの、のう~半兵衛殿」
半兵衛「はい、採掘の方は、順調でございます。
ただ、道願殿の伝手で、紹介して頂いた、
上方の商人との間で、「値」を叩かれております。
初めの頃のように、高値で売れなくなってきております」
道願「ふむ、そうか・・・、 その件に関しては、わしが動こう・・・、」
半兵衛「は、ありがとうございます、
助かります。 何せ、我らは元忍び・・、
商いには、 向き不向きもございますゆえ・・・。」
龍気「もっともじゃの・・、拙者も「商い」となれば、
不向きの方に入るじゃろう、ははは」
お鈴(父上が、お笑いになっている・・・、 やはり、長政様が
帰って来るのが、嬉しいのですね・・、
母上もあんなに、嬉しそうにしている・・・。)
注・( )は、心の声です。
龍気「そう言えば、半兵衛殿、北信濃に居を構えた
「忍びの村」は、どうじゃ?」
半兵衛「は、村上 義清殿の家臣、香坂 忠宗殿の
助けを借り、北信濃の山中に「忍びの村」を造る
事が出来ております、
ただ、忍びの多くは、この町に「潜伏」している
者も多く、ほとんどの忍びが、町人の姿で
過ごしておりますゆえ、北信濃の忍びの村は、
いわば、いざと言う時の「最後の砦」のような
ものでございますな」
龍気「おいおい、縁起でもないことぞ、半兵衛殿」
半兵衛「これは、大変失礼いたしました」
龍気「ははは、まあ~よい。 確かに、「忍びの者」は、
蒼玉の採掘や、ギヤマン小屋を建てるなど
色々な所で、活躍してもらっておるからの、
助かっておるぞ」
お菊「そうですよ、安寿庵にも、「お手伝い」に来て
貰っていますから、 心強いですよ~、」
道願「うむ、今の所、総ての事は順調と言う事じゃの・・・、
そこでじゃが、先程話にでた、村上 義清殿の
事じゃが、知っての通り、村上家は小笠原家と
対立している、いわば敵の大将じゃ。
先日、その村上 義清殿からわしの所に
手紙が来ての、一度、長政殿と話がしたいと
言って来たのじゃ。
わしと長政殿との間に、繋がりがあると
読んだのじゃろう。
三年前の「舞」を観た。 とも書いておる・・・。
「忍びの村」との縁もあるのじゃが、この
村上 義清なる者は、中々の猛将であると、
聞き及んでおる。
じゃが、この出会いが、長政殿にとって、
「吉」とでるか「凶」となるかは、今のところ
わしには、わからん・・・。
そこで、皆の者に意見を聞きたいのじゃ・・。
どうかの、お鈴さん・・・。」
道願は、何故か、お鈴に話を向けた・・・。