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「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
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第三章 「約束」 第三話 「ワン!」



「天眼 風をみる」


 第三章 「約束」


  第三話 「ワン!」



 卯月とはいえ、まだまだ、「根雪」の残る


信濃の山あいに、 杣人(そまうど・木こりの意)が


 木を切る音がこだまする。  


  杣人、十組を束ねる「頭領」となった龍気の下に、


  お菊の手紙を携えた


  「忍犬・小鉄」が,輪樏(わかんじき・人が雪上で、


  足が埋没してしまわない用具)で踏み固められた


  轍(わだち・ここでは筋道の意)の上を


  真っ直ぐに走り、後ろ足で、雪を蹴り上げる。


 龍気は、「切り場」(作業場)の一番


  見通しの良い場所で、 作業の全体を見ながら、


  要所・要所でこの「組」の組頭に指示を出している。


 そして、直接の指示は、「組頭」から出させるのである。  


  龍気の思いは、切り場で、絶対に人を


  死なせない事である。


  その為には、それぞれの杣人の力量を計り、


  仕事に無理をさせず、 一つの作業を十分に


  「慣らして」から次の作業に移らせる。 


  そして、必ず二人一組とし、その組み合わせは、


  知識や経験がある 年配者と体力がある若者の


  組み合わせにしてある。 


  それぞれが、お互いを補う形で、仕事を進める


  ような仕組みを 創りあげたのである。



龍気「む、この「風きり音」は、小鉄じゃな・・・、」


    作業の間で、かすかに「感じた」音に、


    小鉄の気配を感じて、桜の木で出来た


    「拍子木」を二回鳴らす。


    「カーーーン・カーーーン」・・・、


    休憩の合図である・・・。


   この時、小鉄との間は、五十間(約90m)以上


    離れていた。


    龍気が、気配を感じた山の切れ目から、


    白い息を吐きながら、 小鉄が駆けてきた。


    龍気は、小鉄の姿を見るなり、竹筒の中身を


     見る前に 「うむ、良い報せじゃな・・・」と感じた。


    それは、小鉄の表情と首筋にかすかに付いている


    「墨」を 見たからである。



龍気「「この場所」に手を回して、墨をつけるのは、


     「お菊」しか居ない。 滲んだ墨の付き方は、


     恐らく、感涙の涙であろう・・・。


    小鉄を抱きしめて「喜んだ」証に違いない。  


    お菊が、涙して喜び、小鉄を抱きしめた、


     そこまでの報せとは, まさか・・・、」



     龍気が、小鉄の首筋についている竹筒から、


     手紙を取り出すと・・・、



龍気「うむ、やはりそうか・・・、長政殿が帰られる・・・。 


 うむ、忙しくなるの・・・。」



    龍気は、そう言いながらも、いかにも


    嬉しそうに微笑んだ。そして、 各々の「組頭」に


    後を引き継ぐと、龍気もまた、 永光寺へと


    向かうのであった。



龍気「小鉄よ、暫く、一緒に歩くか。」


    その問いかけに、小鉄も嬉しそうに、


     「ワン!」と返した。  

   



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