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「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
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第三章 「約束」 第一話 「便り」



「天眼 風をみる」 


第三章  「約束」


  第一話 「便り」



  信濃の地にも遅い春が訪れ、鉛色の雲の隙間から、


時折、棒状の陽の光りが差し込み、少しずつでは


あるが、山間の雪を溶かし始めている。 


 春の日の光に誘われ、その陽射しを追うように


小鳥達がせわしく枝から枝へと飛び回り、 


枝に積もった雪を落とす。  


  揺り起こされた枝は、上下に揺さぶられながら、


眠りから覚め、本来の場所に納まり、それぞれの木々は、


貴重な陽射しを、わが身に吸収する・・・。



 龍気とお菊の間に生まれた子、「小五郎」は、


二歳となっていた。  


 今は、遊びつかれ、龍気親子が住む、「長屋」で 


すやすやと眠っている。


 活発な子で、よく遊び、よく眠る子である。  


 体も丈夫で、風邪もひかず、他の同じ様な年頃の


子より、ひとまわり大きい。   


 父親である龍気は、木こりの「杣人そまうどの茂助」


の後を継ぎ、この辺一帯を治める、新しい木こりの頭領


となっていた。 


 それぞれの「組」には二十から三十名の杣人そまうど


がおり、ちょうど、十組の組があるので、総勢二百五十名


程の杣人の頭領である。  


  元、頭領の茂助は、突然、「わしは、旅に出る」と一言残し、


 総てを「龍気」に任せて、己の「夢」に向い旅立った。   


  茂助の夢が、何であったのか? 現時点では、判らぬが


  龍気は、「茂助」もまた、必ずこの信濃の地に帰って来る


であろうと、感じていた・・・。



  お鈴は、この二年間、源庵先生の下で、怪我や病気、


特に「お産」に関しての事を沢山学び、 「一人立ち」


をして、長屋の一角に「医者」の看板、


「安寿庵」(あんじゅあん)を掲げるように


まで成長していた。


  まだ、十六になったばかりであったが、心身共に


成長をとげ、源庵の秘術も習得して、その腕前は、


源庵をも凌ぐと評判であった。

  

   実際、お鈴は「風読み」の能力を活かし、患者の


「心」を細かく読み取り、時には優しく、時には


叱咤し、強く戒め、諭し。


   結果的にその者(患者)の生き方までをも考えさせる


「治療」をしていた。 


   それが、益々の評判を得て、お鈴は、町の者から


慕われていた。


  お菊は、初めの頃は、「内職」などで生計を


立てていたが、お鈴が医者の看板を出し、評判を


聞きつけた町人らが、ひっきりなしに、


 「安寿庵」に来るようになると、お鈴と一緒に


患者の世話をするようになっていた。



  それでも、手が廻らず、元、小笠原家の「忍びの里」の


者を何人か使い、切り盛りしていた。


  それは、お鈴の存在が明るみにでれば、小笠原家


からの報復があるかも知れぬ、 との半兵衛や


龍気の考えもあった。     


  今の所、不思議と小笠原家からの報復の兆しは


微塵も無い。もちろん、警戒だけは、怠らないように、


半兵衛からも指示が出ていた。



   野鍛冶の元真と剛力は、「ギヤマン」の製法を会得し、


 吾平と協力して、温泉の近くに 「ギヤマン小屋」を建て、


その中で「太風子」の木を植え、定着させ、「接木」して、


幾つもの「太風子の実」を結実させる事に成功していた。


  その「ギヤマン小屋」を建てる作業にも半兵衛の部下、


「忍びの里」の者が手伝っていた。


  それら、「忍びの里」を動かす資金は、お鈴が洞窟で


 見つけた「蒼玉」であった。


  お鈴と源庵が永光寺の道願に託した「蒼玉」


(サファイア)は、道願の昔の伝手つてを使い、


京の都の公家達や上方商人、さらには、長崎へと売られ


十分な資金を得ていた。


   道願は、表向きはただの和尚を演じていたが、


商いとしての才もある。  


   「人の心」を読む事に長けているのであるから、


当然といえば、そうである。


    そんな中、 正覚寺の玄海のもとに、


     一通の手紙が届けられた・・・・。

  

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