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「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
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第二章 「胎動」 最終話 「泣き声」



「天眼 風をみる」



 第二章 「胎動」


  最終話 「泣き声」




  ここは、玄海の住む、正覚寺である。


 玄海は今、正覚寺の裏にある墓地で、


墓穴を掘っている。


 今日も身寄りの無い「無縁仏」が正覚寺に


持ち込まれた。


 今日の「仏さん」は、近くの山を狩場と


している猟師が、山の中で見つけたものだ。


  年の頃は、十五・六ぐらいであろうか? 


 若い女であるが、猟師が見つけたときは、


野犬に喰われた後で、体の「柔らかい部分」を


 中心に喰い荒らされていた・・・。


 辛うじて、「顔」の部分は、喰われておらず、


生前の面影がみてとれた。


 普通であれば、猟師もそのままにして


おくのであるが、


 気立ての良さそうな面影に、不憫に想い、


 ここ、正覚寺に連れてきたのである。


 猟師の話によれば、「けもの道」から外れた


崖下に娘の遺体が あったそうだ、恐らく、


足を踏み外し転落したのであろうが、


 娘がそんな山の中に居た事、


それ事態が普通ではありえない・・・。


 この若い娘が、何故、山中で死んで


しまったのか?


  今となっては、誰も知る術は無い。


  あるのは、現実に、そこに遺体があるだけである。



玄海「この娘に何があったのか?わしにはわからん・・・。  


   恐らく、「身売り」されるのが嫌で逃げて


きたのであろう・・・。  


   よほど、慌てていたのであろうな・・・。


  不憫な娘じゃ・・・。


 食いぶちを減らす為の身売りか・・・、  


  どちらにしても、 逃げたのであれば、


娘を「売った」親もただではすまんじゃろう・・・。


   皆、死ぬ事になるな・・・、  


 生きるも地獄、死んでも地獄か・・・、


   長政よ、これが現実なのじゃ・・・。


   農民であれ、町民であれ、武士であれ・・。


   誰もが、明日どうなるか? 何もわからぬ、


誰を頼り、何を信じてよいのか? 


どうすれば上手く事が運ぶのか?   


   皆、それを必死に考え、生きておるのじゃ・・・。


   長政よ、お主は、わしらの希望じゃ・・・、  


   はよ~、帰ってまいれ、


一日も早く帰ってまいれ・・・・。」



   玄海の口から「南無釈迦牟尼仏」


「南無釈迦牟尼仏」と、釈迦の名が


自然と出てきた。


   一言「南無釈迦牟尼仏」と唱える毎に、


鍬を地面に突き刺し、墓穴を掘る・・。



  いつの間にか、寺の屋根には、


カラスが集まって来た。 


    娘から発する死臭に誘われたのであろう。  



玄海「葬式の客が、カラスだけとは・・・、 


  益々不憫じゃ・・・。」



   悲しいというより、虚しさだけである。  


   畑を耕す時の鍬の重みは、


さほど気にならない。 


  だが、今の鍬は、その重みで心が


削られるような感じである。



玄海「・・・酒が呑みたくなったな・・・、」



   玄海がポツリと呟く。


   玄海の掘る、「ザクッ・ザクッ」と言う音が、


夕闇迫る山あいに、


 泣き声のように溶けていった・・・。         



            第二章   完


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