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「天眼 風をみる」   作者: 魔法使い
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第一章 「旅立ち」 第九話 「玄海和尚」


「天眼 風をみる」


 第一章 旅立ち


  第九話 「玄海和尚」


長利は、父の屋敷を出ると、春風にまたがり、西に向かった 時刻は七つ


(夕方4時頃)になろうとしていた


長利「思ったより、刻をかけてしまったな 急がねば暮れ六つに間に合わん」


龍気との約束が迫っていたが、その前に長利は寄りたい所があった


「正覚寺の玄海和尚」の所である「玄海和尚」は、元 忍びの里にいた忍者


であった その頃の「名」は、捨て子であった為「捨吉」であった


「龍気」とは、幼馴染で年も近く、仲が良かったが 物心付くと


忍びの生き方に不満を抱き 忍びの里を出てしまった  


通常 忍びの掟として 「抜け忍」は追っ手がかけられ、 闇に葬られる


のであるが、龍気の一言「致し方あるまい 目に届く所に留まるのであれば、


いいであろう」 で、決着がついた  


龍気としても同じ里で育った友を殺す事も出来なかった  


「捨吉」も仲間の里を裏切る気は無く、ただ、忍びとしての生き方が


出来そうにないと思っただけであった  「捨吉」が十六の時に


「忍びの里」を出て行き まずは、西のはずれに自分で寺を建てた 


 独りで少しずつ木を切り出し三年越しで「正覚寺」


を建ててしまった 後で知った話では、実は「龍気」も密かに、


寺造りを手伝っていたらしい・・・。


そこで、名を「玄海」と改め 以来 独りで暮らしている  


「和尚」と言っても勝手に寺を建て 勝手に名乗っているのであるが、


どこかで死人が出ると どこぞで覚えたのか 「念仏らしき」 ものを唱え


和尚自らが墓を掘り 丁寧に供養してくれる また


「供養に金など要らぬ!」が口癖で、村の皆には感謝されていた  


正覚寺の裏庭には、畑があり、必要な作物は自分で耕し食べていた 


時には川に行き魚を捕まえたり 山に入り、野うさぎや猪を


捕まえては食べていた 「型」にはまらず、自由に生き 


豪快な所もあり、それでいて繊細な所も


持ち合わせている 酒も女も大好きな 裏 表のない男である  


長利は、この玄海の自由で厳しい生き方が好きであった 


自給自足の生活をするには、もちろん体力もいるが、生きる知識も気力も必要だ  


それを楽々こなしている姿を見て、「本来、生きる事とは 


このような姿なのかも知れんの」そう、思っているのである


長利は玄海の事を「緑 豊かな大きな山」のようだと感じていた 


そして、いつでも本音を話せる男なのである


長利「和尚~ 玄海和尚は居るか~~  長利じゃ~」


玄海「お、長利か~、いい所に参った、ちょうど今な、


   村の者が酒を持って来てくれたのじゃ、先日の供養の


   お礼だとか言っての~ 


   金は要らんがこれだけは断れんの~ が、ははは 


   どうじゃ、 一献いかんか」


長利「い、いや、酒は止めて・・・う~ん、今日だけは一杯だけ付き合うか」


玄海「お、珍しい事もあるもんじゃ、ん? さてはいい事でもあったな 


    顔が笑っておるぞ、女か?」


長利「和尚、そんな訳がなかろう~  実はお松さんに子が出来ての~ 


   わしは、晴れて自由の身じゃ」


玄海「お松さんといえば、長棟殿の奥方であるな、 そうか、貞朝殿も 


   長棟殿に家督を継がせる決心をしたか」


長利「いかにも、今日のお昼にお松さんに聞いたから 間違いなかろう~」


玄海「そうか、お松さんを「みた」のか、それでは 間違いないの~」


この玄海にも、長利は「自分の力」の事を話していたのである


玄海がとっくりから器用に酒を注ぐと、長利は、ちょっとためらいながら、


一気に飲み干した 


玄海「お、いい呑みっぷりじゃ~ さ、さ、もう一献」


長利「勘弁してくれ、馬できているのじゃぞ、」


玄海「そうか、残念じゃの~ して、今日は 何しにまいったのじゃ」


長利「そ・そうじゃ、それでな、前々から話していた旅のことじゃ、


   先程な父上に話した 旅に出ると」


玄海「ほう! で、許しをもらえたのか?」


長利「うむ、好きにしてよいとのことじゃ」


玄海「そうか、 で、いつ出立する?」


長利「二、三日後と考えている」


玄海「そりゃまた急じゃの~ そうか、いよいよか、ならば、


   ちょっと待て・・・」


そう、言うと 奥からなにやら出してきた 「袈裟」である・・・。


玄海「急な事で洗ってもいないが、持っていかれよ」


長利「和尚、これは、ありがたい、使わせてもらうよ」   


玄海「それとな、これも持って行け」


手渡されたのは、杖であった


玄海「中に、仕込み刀が入っている」


長利「うむ、これも 念のためじゃの・・・」


長利は、旅に出る時、「旅の僧」として出かけるつもりであった 


諸国を巡る時その方が都合が良いと考えたからである  


そもそも、旅に出たいと考えたのは、玄海の旅の話を聞いたからであった 


玄海も若い時 諸国をほっつき歩いた経緯がある 活き活きと、


話す玄海を見て 長利も旅に出る事を考えたのである


長利「そうじゃ、ゆっくりも してられん  龍気とも暮れ六つに会う


   約束をしているのじゃ」


玄海「そうか、龍気に話すつもりじゃな、 たまには、遊びにこいと


   言っといてくれ」


長利「ああ、わかった 言っておくよ、 色々と世話になったな」


玄海「ま~、楽しんでこい、一言だけ言っておくぞ、  生きて帰ってこいよ」


長利「うむ、わかった、約束しよう 」



長利は 軽く一礼すると、春風にまたがり 屋敷に向かった・・・。

    


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