序章 噂は現実になる
第二部、放課後怪奇クラブ編です。
ひたひた――
少女は夜間の学校を歩いていた。
明日当たる宿題を学校に忘れたことに気付いたからだ。
早めに学校に登校して宿題をすますということも考えたが、彼女は朝が弱い。
いつも遅刻ぎりぎりなのだ。
なので早めに登校は却下だ。
となると夜の学校に忍び込むしかない。
懐中電灯のほのかな明かりをたよりに彼女は廊下を進む。
真っ暗な闇の中に何かが潜んでいるようで落ち着かない。
気を紛らわせようと楽しいことを考えようするが、考えようとすればするほど同級生から聞かされた学校の怪談話を思い出してしまう。
冗談めかして話をする級友の姿を思い浮かべ、「あのやろう!」と悪態をつく。
そのおかげかどうかは知らないが、彼女は自分の教室にたどり着いた。
自分の机を探し当て、中からプリントを見つけ出し、彼女は安堵した。
しかし、すぐに気を引き締め、廊下に飛び出す。
彼女に課せられた任務は帰宅するまでコンプリートではないのだから。
そして、彼女は元来た道を恐る恐る引き返す。
あとは帰るだけ、それが彼女の気を緩めさせたのかもしれない。
恐怖というのは、そういう時にこそやってくるのだ。
ひたひた――
あと少しで学校が出られる、そう思った彼女の視線がある一点で固まった。
彼女の視線の先には、うつむいた長い黒髪の少女。年齢は自分と同じぐらいだろうか。
自分と同じように、学校に忘れ物をしたのだろうかと思い、彼女は少女のほうに足を向けた。
「な、何かあったの?困ったことでも?」
恐る恐る声をかける。「ねえ?」と声をかけようとしたとき、少女が顔をあげる。
「ひっ!」と彼女の喉が鳴った。少女は確かに顔を上げた、それはもうぐりんと。
人間ではありえない方向に顔が曲がったのだ・・・。
そしてそのまま「ねえ?」と彼女に問いかけてくる。
「私の大事なものしらない?」
にやりと笑った少女に彼女は悲鳴を上げて意識を失った。
「「「ぎゃああああ!!!」」」
夕日が差し込む放課後の教室に女子たちの絶叫が響き渡る。
この時期恒例の学校の怪談物語だ。
たまたま用事があって教室に残っていた季和は、思い切りその怪談と級友の絶叫を聞いてしまった。
はあと彼女はため息をひとつつく。
まだ少女たちはその怪談話をきゃあきゃあ言いながら話し合っている。
季和の住む各務町は、表では小さな地方自治体として存在しているが、その実、日本最大級の龍脈の分流が町中に流れ込んでいる特殊な地域である。
その影響もあってか、この町は心霊現象の噂は事欠かない。
この学校も例外ではない。
龍脈というのはひとえに見えないエネルギー体のようなものと彼女は解釈している。
どういうわけか、人の持つ強い感情と相性がよく、よく具現化してまうのだ。
人の持つ強い感情のうち、手っ取り早い強い感情が恐怖であり、よく恐怖と結びついてしまい、心霊現象が多発するのだ。
(今年はまた新しい怪異が発生するかもしれないなぁ・・・)
龍脈の守護者である季和は再びため息を一つついた。