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龍の哭くとき  作者: 風吹流霞
第壱章
2/21

1.鈴鳴


某県、各務町。山間部にある片田舎町だ。

何の特産も無いようなこの町だけど、実は心霊スポットとして有名だったりする。

夏場はその客でにぎわうが、すぐに逃げ帰るらしい。逃げられるだけましである。

各務には良くない霊も居て、その場合は村の神社からお祓いに出向かなければならない。

各務はいわくつきの場所で、あちこちに合戦場の跡が残っている。

戦国時代、何故か、戦国大名たちはこの地を手に入れようと合戦を繰り返していたようである。

豊臣秀吉が天下統一した後、一時的にこの場所は消された。

文献上に再び登場するのは、徳川家康の時代。徳川幕府の直轄領、天領になっている。

徳川幕府は、この地に江戸から役人を派遣した。

派遣された役人は、この地で結婚し、各務の人間になった。

それが宮家の始まりと言われている。

宮家は、一~四あり、一番位が高いのが一之宮家、四之宮が一番位が低い。

一之宮が様と呼ばれても、四之宮は様と呼ばれることは無い。

昔は四之宮も様と呼ばれていたようだが、現在では一般市民と同じ扱いであった。

この宮家の起こりについてだが、一般人が知らない事実がある。

宮家は、



各務に眠る龍脈を管理し、鎮め、守る――


日本で一番大きな龍脈は富士山にあるとさているが、そこからいくつもの支流が分かれている。

これが分龍、各務の地下にはこの分龍が流れているのだという。

分龍とはいえ、龍脈のひとつであるから、それなりに強大な力を秘めており、危険だ。

思えば、戦国大名たちはこの分龍をめぐって争っていたというわけだ。

慎重な性格であった徳川家康は念を入れて、宮家を四つに分けた。

しかし、現在の今まで、四之宮が借り出されることはなかった。

四之宮は宮家でも末端であり、霊力も一之宮に比べれば微々たるもので、主に結界を張ったり、有事の際には、住民達を避難させる役割を担っていた。

その避難先というのが、四之宮が住んでいた宮神社であり、季和ときわの我が家だ。

季和の父親、四之宮季直は四之宮にはあるまじき霊力の持ち主で、一之宮に匹敵するほどだった。

季直は一之宮当主の片腕となり、龍脈の守護者として働いていたが、何年か前に龍脈を狙った一味に襲われた。一個人としてはそこまでではないが、多勢に無勢で、父は重傷を負った。命に別状は無かったが、足に後遺症が残った。日常を送るには問題ないが、龍脈の守護者は引退せざるを得なかった。


さて、問題が残った。


龍脈の守護者を後継を誰にするか。

二之宮はその時点で血が途絶えており、次点の三之宮にはめぼしい能力を持った能力者がいなかった。

というより、術の知識をまったく教えてなかったのである。

霊力があっても、知識が無ければ術を扱うのは危険すぎる。

ということで、白羽の矢が立てられたのが、前任の娘で知識も能力も問題が無かった季和だった。


四之宮季和について説明しておくと、四之宮季直の一人娘である。

母は幼い時に亡くなっているため、父1人子1人で育ってきた、生粋の父親大好きっ子である。

いつも、父親の後をついてまわり、一之宮にも小さいときは出入りしていた。

今はさすがに恐れ多くて出来ないが・・・。そのせいで、一之宮の術にも詳しい。

といっても、彼女に危険は少ない。彼女の仕事は各務のあちこちにある龍脈の封印の監視。

ほころびがあれば、術で補修をかけるだけという簡単なお仕事だ。


「バイト代も出すからね」


一之宮当主の言葉がとどめだった。

今までの生活費は当主から出ていたのかと、今になって気付いた。

生活費を得るためには仕方ない。

渋る父親に、「危険なことはしないから」と約束させ、季和は守護者職を受け継いだ。



下弦の月が空にかかっている。


「さて、いきますか」


季和が行動するのは大体夜中の1時~2時。いわゆる丑三つ時といわれる時間である。

この時間帯が一番危険で、力ある霊が龍脈に接触しようとする、

そのとき、龍脈の結界に綻びを生じることがある。

彼女の役割はその綻びを修繕することだ。

片田舎町である各務は、この時間帯は町民のほとんどが寝ているため、季和が目撃されることもなかろうという判断だった。

「今日はどこを廻ろうか」と彼女は地図を広げる。

龍脈は力が強すぎて、ひとつの結界では封印できないので、数箇所に分散して封印してある。

その数箇所はあちこちに分散してあるので、数日かけないと見回ることが出来ないのだ。

そこで、彼女はエリアを決めて、エリアごとに確認をしている。

数秒考えて、彼女は見回りの場所を決定した。そこは先日から気になっていたところだ。


あのあたり、数日前、人の出入りが激しかったからなぁ・・・、ぶつかって壊してなければいいけど・・・。


夏場ではないにしろ、心霊スポットである各務町は深夜、それを目当てにやってくる物好きな若い男女が多い。

心霊現象に慄き、結界に触れて壊してしまうことが頻発する。それを修繕するのも彼女の役割だ。


本当、面倒臭い・・・


それでも、彼女は向かう。



車より降りた数人の若い男女。


「心霊スポットというわりには普通だよな・・・」

「本当に此処なの?」

「まちがっちゃいねえよ。ダチに聞いたしさ」


彼らが見つめる先にはただ、大きな岩が転がっているだけだ。

「何か、期待して損しちゃった、帰ろうよ」

「そうだな」

くるりと踵を返した彼らの前に、ゆらりと現れた影。

それに気付いた一人が、「誰?」と聞いてみるが返事は無い。彼らの背中にぞぞっと寒気が走った。


ゆらり――


影はゆっくりと顔を上げた。


『・・・ニンゲン・・・、ミツケタ・・・』


その口から流れ出るのは、真新しき鮮血。

明らかに人間には出来ない笑み。影は、


にやりーー


と笑った。


「ぎゃあああああーーー!!!」

「で、でたぁあああああ!!!」


重なる若い男女の悲鳴。勿論、その声は季和にも届いていた。


はあ、遅かったか・・・


現場に駆けつけた彼女が目撃したのは、うずくまる若い男女数人。


「・・・か、体が・・・」

「・・・う、動かない・・・」


霊感のある彼女には、視えていた。武者鎧の亡霊が・・・。

龍脈の力を得るには、亡霊の姿より人間のほうが結界を外せるので、手っ取り早い。

しかし、


普通の人間が龍脈を扱うのがどれだけ難しいのか解っているのかな・・・。


怪我、気が狂う、最悪、体が力に耐え切れず内臓破裂で死に至る。

龍脈の力は普通の人間には毒すぎるのだ。


仕方ない、祓うか・・・。


季和は肩をすくめた。

がちゃがちゃと音を立てて近付いてくる甲冑武者。

逃げたいのに、体が動かない。こういうのを憑かれるというのだろうか。


チリン――


鈴の音が静寂を呼び寄せる。


「天神地祇――」


凛とした声が響いた。


季和の服装のイメージは、ミメイさん(知っている人いるかなぁ)。

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