17.顎
じりじりと容赦ない太陽がアスファルトを焦がす。
盆地である各務は、夏暑く冬寒い。
「あつ・・・」
ソーダ水の棒アイスをかじる。
もうすぐインターハイが始まる。インターハイが終わると3年生は引退だ。
2年生エースである明良も部長にと推薦されそうだが、断っている。
元々、守人の訓練の一環で始めたもの。手段が目的化してしまっては本末転倒である。
守人としての出動は五月の龍脈開放以来、音沙汰なしだった。
龍脈の守護者である季和に何度も同行を打診したが、彼女は首を縦に振らなかった。
『明良は部活が忙しいでしょう?』
確かに忙しいので、明良はぐうの音も出なかった。
それならと夜中、家に突撃してみたら出立した後だったり。
龍脈の結界は各務のあちこちに張り巡らされており、その詳細は守護者以外ほとんどの人が知らされていない。
つまり季和の案内なくして、龍脈の結界にたどり着くことはできない。
潔くあきらめるしかなかった。
何か釈然としない、明良は鉄紺色の鞘袋を肩にかけ直した。
「あーきーらくーん」
「・・・」
無視したかった。
「一之宮明良くーん」
ため息をひとつついて、明良は振り返る。
「何やってんすか、高井さん」
コンビニの外看板に頬杖をつくようにし、こちらに笑顔を見せる男性。
各務署刑事課のエリート警察官であり、土御門神道本庁の末端に席を連ねる術者、高井涼。
土御門神道本庁の上層部から覚えもめでたい。実際優秀な人物なのであろう。
「明良くん、おにーさんのお手伝いしない?」
「手伝い?」と明良は首をかしげる。
「ほんの2,3時間、バイト代もだすよ?」
にこにこと笑いながら、高井は応える。
有無を言わさぬその笑顔に結局、明良のほうが折れた。
さくさくと草を踏む音が響く。
背の高い草が茫々と生えている空き地にたどり着く。
目の前には立ち入り禁止の看板が掲げられた鉄格子。
「上から許可はもらっているんでね」と高井は事もなく鉄格子を開ける。
きいと不気味な金属音が響いた。
「ここって・・・」明良の背中がうすら寒くなった。
龍脈の影響もあってか、各務は心霊現象や噂などに事欠かない。
この場所はその噂が特に多い場所だった。
古戦場だったとか、各務は東西の要所で古戦場だらけなので間違いない。
旧陸軍の工場跡だとか、こちらは噂の域を出ない。
「四之宮のお嬢さんに、霊とは人のイメージだと聞いたことはない?」
空き地の中央で高井がにやっと笑って、明良に話しかけてきた。
にやっと笑うと、平凡な印象ががらりと変化する。
そこにいたのは、警察官の高井ではなく、土御門神道本庁の高井涼であった。
平凡そのものの顔と、切れ者の顔、高井はその二つの顔をうまく使い分ける。
切れ者と言われるゆえんはそこにあるのだろう。
霊とは人のイメージ、それは龍脈開放の時に季和から聞いた。
そして、幽霊駅の駅長が立つその下に龍脈の入り口を発見した。
はっとする、まさかな・・・。
高井を見ると、再びにやっと笑われた。その笑みは「肯定」だ。
「ここは龍の顎なんだ」
ああ、やはり、そうなんだと明良は自分の推測は確信に至る。
「龍脈がらみか・・・」
龍の顎、つまり龍脈の口なのだから。
明良視点。冒頭、彼がかじってたアイスは〇リ〇リくん。