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龍の哭くとき  作者: 風吹流霞
第壱章
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16.思惑


あれは起きた時、悲鳴を上げるやつだ・・・


生暖かい目で二人を見てから、視線を戻す。

現龍脈の守護者と守り人に関して、高井は問題ないと判断している。


「表向き、まだ若い二人のサポートといったところだけど」


表向き、つまり、この異動には土御門神道本庁の裏の思惑が透けて見える。

そして、それを当主たちも気づいている。


「ときちゃんの婿候補ですかね――」


高井の推測をあっさりと言葉にする一之宮明継。

その言葉に僅かに四之宮季直の肩がぴくりと反応した。


「四之宮の唯一の後継者はときちゃんです。それに見合う能力もあります」


だからこそ龍脈の守護者だ。

「しかしながら、いや、ゆえに替えがきかない」

明継の声には後悔がにじみ出ている。

数年前、龍脈を狙った者たちの戦いで二之宮当主が死亡してしまった件である。

あの時、二之宮当主に跡継ぎはおらず、残念なことに断絶という道をたどってしまった。


土御門神道本庁あちらはそれを危惧しているのでしょう」


二之宮の二の舞だけはさせたくないのだと。

「でしょうね」と高井は肯定する。だからこそ、自分なのだ。

あの組織の中で、高井は若輩者である。

龍脈の守護者のサポートだけが目的なら、自分よりも年上で力のある能力者を送り込むだろう。

「土御門神道本庁から婿をとるというのは前例がありますし・・・」

宮家は昔から土御門神道本庁と深いつながりを持ってきた。

宮家に何かあれば、土御門神道本庁から婿を取って家をつないできたのである。

四之宮当主はまだ40代であり、娘は10代。

後継ぎ問題が表面化するのはもう少し後であろうが、土御門神道本庁が高井を送り込んだのにはわけがある。


「ヴァチカンが動きはじめています――」


当主二人が息をのんだ。

キリスト教カソリックの総本山、ヴァチカン。

昔から各務の龍脈に興味をいだいていた。

戦国時代、宣教師を送り込み、龍脈を簒奪しようとしたが、龍脈自体に散々な目をあってからは表だって動きはない。

今回も恐らく、表だって動くつもりはないだろう。

各務の龍脈は宮家の龍脈の守護者以外は扱えないぐらい危険なものだ。

むしろ、彼らが狙っているのはその力のおこぼれ。

当主二人の視線が鋭くなる。

「―-貴方は季和、娘をどう思いますか――」

静かに告げる四之宮当主。言葉は少ないが、その言葉は凪のように穏やかで時に厳しい。

「面白い子ですよね」

逡巡後、高井はそう答えた。

博識で冷静、能力的にも問題なし。しかし、年頃の少女らしく、時々抜けていたり。

「ただ」と彼は続ける。


「未成年ですからねー」


困ったように頭を掻く。

「なるほど」と当主は顔を見合わせ、「ヴァチカンもそれが目的か――」と理解したようだ。

今は問題ない、問題となれば、彼女が成人後だ。


じーと虫が鳴いた。季節は虫の季節へと移り変わっていた。


「そうならないように、幼い頃から気を遣ってきたのに、ヘタレだから、うちの子」


明継の妻春香である。「お茶を出すのを忘れていました」と高井の前に麦茶を出す。

「ときちゃんをひとりでお留守番させるのがかわいそうというのが発端でしたけど」

春香が苦笑する。

その頃、季和の父親は現役の龍脈の守護者であったため、家を空けることが多かった。

その間、彼女を預かっていたのが一之宮家である。

「龍脈を狙う者たちの襲撃や誘拐も警戒していましたからね」

季直がすまなさそうにうなだれる。

「龍脈を狙う者だけではなく、色んな意味で宮家を狙う者たちにとってもときちゃんは格好の標的になりえましたから」

こうして一之宮の庇護を受け、四之宮の一人娘は何事もなく、一之宮の兄弟とともにすくすくと成長したのである。

「幸いにも一之宮うちは、後継者に恵まれました」

それはすなわち、兄弟全員が力を持っているということ。

「ですので、四之宮に婿に入ることも考えていたのですよ」

季直もこくりとうなずく。なるほど四之宮当主に了承済みだったか。

「ときちゃんが比較的一緒にいたのが同い年の明良だったからいずれと思ったのに・・・」

預かり知らぬところで外堀を埋められていたようだが、当の本人たちが幼なじみ以外何もないという。


「ほんとにヘタレなんだから」


そう言う春香は満面の笑みだ。


怖い、怖いです・・・


たらりと冷や汗が背中に流れた気がする。

外見ふわふわな癒し系美女春香は何気に、当主と同じく稀代の策士でもあったようだ。


高井の予想通り、熟睡から目覚めた現龍脈の守護者と守り人は、お互いを見て悲鳴をあげたのは言うまでもない。

タイトルはおもわくよりしわくのほうが的確かもしれない。

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