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龍の哭くとき  作者: 風吹流霞
第壱章
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10.洞


待合室を通り過ぎ、プラットホームに降り立つ。

すたすたと迷いも無く、季和はプラットホームを歩く。

彼女を追いかけるように、同様にプラットホームに降り立った明良は、彼女が向かう先について嫌な予感がして、足を止めた。


まさか・・・な・・・


冷ややかな汗が背筋を濡らす。

能力者の家系に生まれ、自身も類稀なる霊感を保持している明良は、霊とは幼少時よりの付き合いであるが、いまだに恐怖が先立つ。


怖いものは怖いんだから、仕方が無いだろう・・・


そのことに関してはよく両親にからかわれるが、いつも彼はぶっすりとした表情で呟くのだ。

そんな彼だからこそ、早々とその場所に気付いた途端、恐怖が先立ち、足が止まったのも無理は無かろう。

明良のそんな気配に気付いたのか、季和がくるりと振り返る。

「どうしたの?」とばかりに首をかしげた。彼女が親しい人間だけには無意識に行う行為だ。

「ちょ、ちょっと待てっ・・・、そ、その場所は・・・、あ、あれだろう・・・!」

口に出すのも恐ろしいのか、彼は最後までその言葉を告げられなかった。

季和はきょとんとしながら、爆弾発言を口にした。


「怖い・・・?」


その対象はぼかしているが、言わずもがなだ。

「な、な、何いってんだよっ!お、俺は、ゆ、幽霊なんて怖くねぇからな・・・!」

慌てて否定したが、我ながらわざとらしい。「本当に?」と彼女が問う。

自分よりはるかに霊感が強くて、不思議な力を使う彼女の鳶色の瞳は、不思議な色を携えている。

その双眸に真摯に見つめられると、嘘すらも見透かされるような気がして、明良は季和の前では嘘をつくことができない。そのときも、嘘を貫き通すことは出来なかった。


「すいません、嘘つきました」


即座に発言を撤廃する。

「怖いです、俺、幽霊、苦手です、はい」

「・・・」

季和は何も言わず首をかしげた。嘘をついたことに関して咎めているわけではなさそうだ。

付き合いが長い明良は、彼女が怒っている時、咎める時の初動作は何となく解る。


「明良」


名を呼ばれた。彼女の澄んだ声は、耳に心地よく残る。


「幽霊って、記憶の寄せ集めだと思ったりしない?」


「えっ?」と思わず聞き返す。

「土地の記憶、人の記憶、幽霊には記憶が詰まっている・・・と思う・・・」

訥々と彼女は口にした。

「確かにそういう考え方も出来るな・・・」

何故か、心霊スポットと呼ばれる場所は、その土地に由来する幽霊しか出ない。

その土地、もしくはその土地の出来事を知りえた人間の思いが具現化したのではないか、そう考えると彼女の推論もあながち的外れではないのかもしれない。

だからといって、霊への恐怖心が急になくなるわけではない。

こればっかりは幼い頃のトラウマに由来するもので、どうしようもなかった。

「閉じこめられていた記憶は、外から何かの”干渉”を受けて、現世に現れる。でも、イメージだから実体はない」

「その干渉が”力”なのか・・・」

力の干渉により現世に現れた記憶は、人のイメージにより実体を持つ。

実体を持ったとはいえ、そこはただの記憶。生前の記憶を反芻するだけ。

大地にしがみつく自縛霊が出来上がる。

各務における力の干渉の正体、それは宮家生まれである明良にはすぐに理解できた。


「龍脈――!!」


言うが早いか、彼は駆け出した。今まで怖がっていたのが嘘のようだ。

車掌の幽霊が現れる場所、それはすなわち力の干渉を受けている場所であり、龍脈に繋がる何か仕掛けが隠されている可能性が高い。

プラットホーム自体は何の変哲も無いコンクリートだった。

特別な仕掛けも無ければ、霊的なものも感じられない。

「おかしいな」と彼が呟けば、一足先に線路に降り立っていた季和が、「こっち」と手招きをする。

彼女に促され、プラットホームを降り、線路を踏む。

季和の視線を辿れば、その視線の先はプラットホームの下に向いていた。

大人1人、かがんで歩けるぐらいの空間が広がっている。向かって右側は岩盤がむき出しになっていた。

恐らく、各務の特産であった花崗岩だ。

幽霊が出るという場所のちょうど真下は、でこぼこと岩盤が他の場所より盛り上がっている。

怪訝に思ってよく観察してみると、その岩盤にマンホールの蓋が取り付けられていた。

確認を取るために後ろを振り向くと、「あれが封印の入り口だよ」と彼女はこっくりと頷いた。


なれたもので、かがんでプラットホームの下を進む季和の後を追って、明良も進む。

時々、頭をぶつけてしまうというアクシデントも発生したが、概ね、怪我なくマンホールの蓋まで辿り着いた。

率先して、マンホールの蓋を開けようと力いっぱい持ち上げようとしたが、蓋はびくともせず、逆に持ち上げた勢いを殺しきれず思わず頭をぶつけてしまった。

「あいたっ!」と明良は悲鳴を上げ、ぶつけた頭を押さえる。

「何だよ、これ」と悪態をつく彼に対し、季和は地面に片手をつくと、「えいやっ!」とマンホールめがけ、蹴りを繰り出した。

彼女の蹴りは見事にマンホールの蓋に命中し、反動で押されたマンホールの蓋がゆっくりと横にスライドしていく。


「えええっ!!そういう仕掛けっ!!?」


ぽっかりと口を開ける空洞を見て、明良は驚きの声をあげる。

まさか、持ち上げるのではなく押す仕掛けだったとは思いもしなかった。

薄暗い横穴は、ペンライトをかざしてみても先の様子はうかがい知れない。


「洞窟・・・?」

「間違ってはいないけど、ほらと呼んで欲しかったな・・・」


季和は苦笑した。宮家に残る文献では、洞窟ではなくほらの名称で残されているからだ。

その中を、季和は勝手知りたるや、迷わず進む。

花崗岩をくり貫いて作られたらしい洞をしばらく歩くと、急に目の前が開けた。

広間のような空間で天井が高い。横幅も数人並べるほどの広さがある。

奥に、注連縄が祭られている大きな岩が置かれていた。

一目見ただけでそれが封印だとわかった。その理由は簡単だ。


「あっち側、すごい力がぐるぐると渦巻いている気配がする・・・」


明良の背中を冷たいものがすべりおちた。「危険だ」と彼の本能が叫んでいる。

「あんな処、人が入れるわけがない」

人の手に余る力は、その人を滅ぼすだろう。

直に感じることで彼は、龍脈の恐ろしさを肌で感じることが出来た。


「そう、だから、ここが境界線、人と人ではないモノが守るべく境目さかいめ


それは、能力者たちにとっては暗黙の了解だった。

しかし、龍脈について知っていた昔ならいざ知らず、知識の無い現在、能力者ではない一般人にはそのルールが通用しない。

故に、この各務を守るために、宮家が動いているのだ。

この各務を守ること、それが現世における守護者たる自分の使命でもあると、季和は理解していた。

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