夢を奪わないで
ずっと、ずっと
夢を見ていたい。
眠っていたい。
幸せな夢を、一生涯見ていたい。
朝起きると、
こぼれる涙が、
それは溢れんばかりに頬を伝う。
無視する意味もないし、
止まるのを待っておく時間もない。
朝、支度をしたら
電車に乗って会社へ向かう。
私はこの四月に上京をして
一人暮らしをしている。
初めての一人暮らしに
心が躍った。
胸が高鳴った。
でも、それから数か月して、
私はもう
働かなくてはここにいる権利さえも
もらえないとわかってしまってから
狂ったように眠っていた。
疲れとか
いろいろあったけれど
本当に眠たかったわけでもなくて
私は
私を慰めるために
寝ていた。
昔から
毎日のように夢を見るから
夢の中では
すべてを忘れて
幸せでいられる。
盲目でいいと思える。
それでも朝はやってきて
目は覚める。
間違った人生ではなかった。
これまでも
今もそうで
私は正しい社会の循環に
身を置いて
身を削りながら生きている。
みんなも
そうしているから
言い訳もできない。
私は出来損ないの私を
どうあがいても
認めなくてはいけない。
それはとても苦しいものだった。
けど
もう慣れた。
もう私は
自分が醜くて
不細工な生き物だと
思うことに慣れた。
だからこれからも
夢だけに安らぎを求めて
生きていくのだろう。
ずっと
この先も。
そんなある日
異常が起こった。
夢を
見なくなったのだ。
起きた私は、とても動揺した。
最初は、ただの偶然だと思った。
疲れたので、夢を見る暇もなかったのだと。
それから何日も、
何週間も、
夢を見ない生活が続いた。
吐き気がして、
内臓が痙攣するのを感じた。
実際に、何回か吐いた。
人生のいちばんの楽しみが、
当たり前みたいに消える気持ちがわかるだろうか。
求めても求めても
掴むことができなくなった生活を
理解できるだろうか。
絶望。
それでしかない。
夢は私のパートナーで、
拠り所だった。
夢なくては生きていけなかった。
ずっとそうだった。
それなのに、
見られないということは、
私は現実と向き合うことしか
できなくなった。
朝、ドアを開けることに
数分を要した。
鏡を見られなくなった。
人の顔を直視できなくなった。
変化は
私を私でなくした。
暇があれば眠った。
夢をまた見られるように。
そんなある日、
眠ると
知らない場所に立っていた。
夢を見た。
私は歓喜する気持ちを抑えていると
声をかけられた。
振り返ると
知らない人が立っていた。
こう言う。
「申し訳ないが、ここは満員で、
あなたぶんの席はもう確保できない。
夢に依存する人が増えすぎたからだ。
あなたは夢を諦めて」
起きた。
ああ、
ああそうか。
みんな、そうか。




