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7:酒場にて

 昼間だというのに酒場は盛況だった。

 見たところ護衛者が多いが、他にも身なりの整った者も数人でテーブルを囲んでいる場所もある。彼らは一様に真っ赤な顔をして、ガハハと室内に響き渡るほどの大きな笑い声を上げていた。


 ファビアンはそんな酒場の奥のテーブルへと進むと、さらに奥の椅子を引いてドカッと腰を下ろした。遅れてオリヴァーとエステルも彼の向かいに座る。同時に店員が注文を聞きにきたので適当に軽食をと頼んだ。

 そして店員が離れていくのをじろりと確認したのち、


「グーベルクから東に向かう途中に村がある」


 突然ファビアンが口を開いた。


「村?」

「そこを根城にしてる魔人がいる」


 ごくりとオリヴァーは思わず生唾を飲み込んだ。

 ファビアンの視線は変わらず鋭く、到底冗談を言っているようには見えなかった。


「護衛者の付いている旅人は襲わねえし、対魔軍が近づいたら隠れちまう。村人たちも支配されているから本当のことは言わない。でも単独の旅人は襲うんだ。実際この街でも何人か犠牲になってる」

「だから魔人に襲われたという証拠が出てこないのですね」


 エステルが納得した様子でつぶやく。それから一度大きく息を吸ったファビアンはちょうど運ばれてきた果実酒を一気にあおった。

 ついで彼がドンと木製の杯を置き、その音にエステルの問いかけが被さる。


「ところで、あなたはなぜそんな魔人に気がつけたのですか」


 つまみに手を伸ばしたファビアンが一瞬動きを止めた。

 視線が泳ぐ。しかし彼はすぐさま何事もなかったかのように「村から逃げ出した奴がいたんだよ」とぶっきらぼうに言った。


「その逃げ出した村人というのは?」

「もう死んじまったよ」

「死んだ?」

「ああ。そうだ。あんな弱いやつは死んでよかった」


 吐き捨てるようにファビアンが言う。それから彼は順番に二人を睨みつけると、途端に何かを諦めた様子で大きく溜め息を吐いた。


「……魔人を仕留めきれなくて、怖くなって逃げ出したような奴はな」


 オリヴァーの息が詰まった。

『死んじまった』

 そう言ったファビアンは粗暴な口調で、まるで恨むような声音をしていた。

 そしてオリヴァーには彼の感情に思い当たるものがあった。

 ――もしあの時、エステルが助けに来ず、何らかの奇跡が起こって自分一人だけが赤毛の魔人から逃げ延びたとしたら。


(似てる、な)


 オリヴァーはふとファビアンを見つめた。下唇をぎゅうっと噛んで、視線は合わず、わずかに呼吸も荒くなっている。そんなファビアンはエステルの問いかけにそっと鋭いまなざしで顔を上げた。


「あなたが、その村の住人だったのですね」

「そうだよ」

「それでグーベルクの対魔軍を頼ったのですか。自分一人では魔人には敵わないから」


 その言葉にファビアンの眼差しが変わった。

 元々鋭い視線だったのがさらに険しいものになって、怒りすらこもったような目でエステルを睨みつける。それでも彼女は背筋を伸ばしたままファビアンから一切目を逸らさなかった。


「何が言いてえんだよ」

「あなたの選択は半分正解で半分間違っているということです」

「それはどういう……?」


 オリヴァーが尋ねると、エステルは小さくうなずいて口を開く。


「一人では魔人に敵わないゆえに助けを求める。これは正しい選択です。実力差のある相手に挑んでも無駄死にするだけですから。ですが助けを求めた相手が悪かった。いえ、どちらかといえば『方法を誤った』というべきかもしれません。これは私の思い過ごしかもしれませんが……」


 言い終えると同時にエステルが目を伏せる。それから彼女は「何にせよ」と何かを振り切った様子でファビアンを見据えた。


「あなたの村の魔人を倒すのが先決ではありますが、もし霊質魔法を使えるなら私たちの仲間になって欲しいんです」

「仲間? なんの?」

「魔王を倒すための旅です」


 凛としたエステルの声が三人の間にこだました。

 一瞬の無言が広がる。それからファビアンはこぼれそうなほどに大きく目を見開き、ついで何かが破裂したかのように声を上げて笑い出した。


「『魔王を倒す』だって!? アンタたちの方がよっぽどホラ吹きじゃねえか!」


 そうやってひとしきり笑ってから、ファビアンが不意に真面目な顔をして、


「俺のレイシツは金だ」


 とぼそりと告げた。


「金?」

「古くは石と呼ばれ、使える魔法は武器に関わるものが多く、珍しい霊質です」


 オリヴァーのつぶやきにエステルが補足する。なるほど、とうなずいたオリヴァーに対し、ファビアンは「アンタらは?」と値踏みするような口調で問いかけた。


「私は土。彼はまだわかりません」

「『わからない』?」

「残念ですが、私は他人の霊質を見ることは出来ませんので。おそらく火だと思われますが」


 エステルが残念そうに目を伏せる。するとファビアンは少し考え込んだのちに腕を組み、


「見れる奴なら知ってるぞ」

「本当ですか?」

「ああ。金をくれるなら案内してやってもいい。嘘は吐かねえよ」

「嘘だなんて思っていませんよ」


 言ってから、エステルは懐から硬貨を何枚か取り出してテーブルの上に置いた。そのうちの半分ほどを拾い上げたファビアンがにやりと笑って、手に取った硬貨の中から二枚をエステルに返した。


「まあ、魔王討伐を掲げる奴のレイシツにも興味があるからな。まけといてやる」

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