鍛冶屋と師匠の行方
サンクリア地方南東の街サリストリア。
このあたりは活気もあり、急な坂が多い町並みが広がる。
そういった街なのに老人が多く。整備などでいつも大変な思いをしている地方だ。
話を聞いて回ることにした一行は早くも賢者の話を耳にする。
「ああ。エドヴァルドさんは賢者だって言われてる。彼自身が名乗ったわけじゃないんだが、結構賢者ウォレン・エドヴァルドと言えば有名さ。病でも何でも治してくれた素晴らしいお方さ。ここから南の地に行くと言っていた」
「ありがとう。あと、このあたりの十二の剣にまつわることとか知ってたら教えてくれないか?」
「ああ。十二の剣の話は有名さ。まぁ、当事者に話を聞くほうが早いだろ?」
「当事者?」
「その鍛冶屋にさ」
「え? 鍛冶屋はもう亡くなってるかなにかしてるんじゃ?」
「生きてるんだ。彼は精霊樹の子孫の家系でね。かれこれ2000年程生きている」
アッシュとリグドーは顔を見合わせた。
2000年。どれだけの月日か……。想像も出来ない。
「場所は案内できるけど、どうする?」
「お願いしたいです」
リグドーが言うので、頷いた。
きっとリグドーは自身の剣について知りたいのだろう。
「ついて来な」
男は親切だったが、家並みから遠ざかる風景に不信感も少し湧いた。
「何処に住んでるんだ?」
「ここの森の奥さ。一人で家を建てて、鍛冶屋兼家屋の少し大きな家に住んでる」
「もうすぐか?」
「ああ。もう見えるよ」
赤い屋根が見えた。
森の木と同じくらいの塔だった。
「ラフェルの塔だ。ラフェルは頑固者だから気をつけろよ」
「ああ。ありがとう」
「じゃあ、俺は行くよ!しっかりな〜」
リーランドが笑った。
「頑固者というか変わり者じゃないか?」
「それは会ってみないとな」
玄関ベルを鳴らす。
暫く待つこと20分
「誰だ?」
「アッシュ・スティングレイ・オルベルスと言う。貴方の剣の伝説について聞きたい」
「アッシュ……」
その名は言ってはならないと言ったのにと呆れ顔の面々だったが、ラフェルにとってはそうではなかったらしい。
「ウォレンの奴の弟子か。良い名だったからな覚えていた。入んな。色々と話もしたい」
皆でぞろぞろ入ると、リグドーの剣を見て笑った。
「よく使い込んでくれて。ありがとよ」
「わかりますか。使い込んでるの」
「一目見ればそれなりにな」
「この剣、名前ありますか?」
「力理の剣という。十二聖剣の一つだ。あれは俺が打った剣だ」
「はい」
「その話を聞きに来たんだろう? 普段使ってない椅子だが、埃を払えば使えるだろう?」
「はい。ありがとうございます」
埃はそんなに積もってないから、定期的に誰かが掃除している様な気がした。
「何から話したもんか……。そうだな。俺についてなにか聞いたか?」
「かれこれ2000年生きていると」
「俺の先祖は精霊樹という樹の精霊でな。人が混じったり、エルフが混じったりしたせいで寿命は短くなっていったが、歳は取らんらしい。突然寿命が来て死ぬと言う。まぁ、娘も息子も歳を取らなさ過ぎてかなり困ってるらしいから皆おんなじようなもんだな。俺が生まれた時は街なんてものはなくて、皆点々と家を構えて生きていた。ここ数十年で街が出来たが、それも一時だろ。俺の家だけが変わらずここにあるのさ。爺になると話が長くなっていけねぇな。本題に入ろう」
そして、ラフェルは語り始めた。その剣の物語を。
「俺の剣だがな。いつも今の街のある所から少し北に行くと寺院が在ってな。そこでお参りをするのが日課になってた。その頃は戦争が多くてな。収まると良いと思ってしていたことだったが、神様はそうじゃなかったらしい。俺に剣を作れと言ってきた。十二の剣を全て効力の違う剣を作れと。人の命を奪うものを作れと俺は心底冷えた思いだった。でもな。作らなければならないと思った。戦争を終わらせる剣を作ろうと思った。魔力もその時に開花した。火を出してみたら出せてな驚いた。息子が凄いと嬉しそうに言うもんで、水を出したり火を出したり遊んだもんだ」
それにすこしほっこり聞いていたアッシュの顔を見て言った。
「剣は一振り一振り丹念に造った。俺の傑作にしてやろうとその時は思ったもんだ。一振り目は炎舞の剣。焔を宿す剣だ。二振り目は水連の剣。水を宿す剣。三振り目は土力の剣。地面を操る剣。四振り目は木華の剣。木や花を操る剣。五振り目は雷鳴の剣。天の気候を操る剣。六振り目は斬撃波の剣。斬撃を飛ばす剣。七振り目は波動の剣。振動を操る。八振り目は惑わう剣。言葉通り、人を惑わせる剣。九振り目は力理の剣。力を強化し、属性をも操る剣。十振り目は万力の剣。身体強化改良型、魔属性強化、斬撃強化の力自慢な剣。十一振り目は防御の剣。防御強化、身体強化、完全防御魔法付与の防御の為の剣。十二振り目は不戦の剣。絶対に負けない、戦をしない剣。全て作り終えた時、俺にまた夢でお告げがあった。剣を皆に配れとその通りにしたのさ。そしたら、戦争が終わった。俺は夢を叶えたのさ」
「そういう事だったのか」
「アッシュ納得しました?」
「リグドーは?」
「納得しました。これは戦争を終わらせるための剣だったんだと」
「俺の私利私欲の為の剣さ。お前らが思うような物じゃない」
「それでも、すべての戦いが終わる剣です」
「ははは。そんな大層なもんじゃねぇよ。さて、アッシュだったな。ウォレンがもし来たら言ってくれって言ってた事を伝える」
「師匠が?」
「仕事を放棄してまで私を探すことはありません。それでも探したければ、キルディスの村に来なさい。そこで待っていますとな」
「キルディス。南の崖の上にあるというあの辺境の村ですか」
ウェルが言う。地図を広げた。
「ここだ」
この国の端の村を見た。
確かに村の名前がある。
此処に師匠がいる。
「行きますか?」
「勿論。行く。その為に全て任せて来たのだから」
旅に出てから、十月が過ぎようとしていた頃だった。