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リーランドの過去



俺達、アッシュ一行は馬を借りて走らせていたら、オースティンに追いかけられた。

オースティンとは馬の下半身に太い首、細いロバの様な顔の魔獣だ。

鋭い牙と強い脚を持つ。


「ウェル、どうしたらいいと思う?!」


「こんな状況に陥ったことないですからわかりませんが、あの岩場に隠れましょう」


「わかった!」


皆で岩場の影に馬を落ち着けて隠れた。

すると、まっすぐに走り去り、オースティンは居なくなった。


「行ったか」


「大変だったっすね」


「全くだな」


皆口々に文句を言いながら、岩陰で少し休んだ。

川があり、そこで馬に水を飲ませ、この先の村に馬を置いてくる約束なのだ。


「リーランド、何だそれ?」


「ああ。お守りだ」


そう言って服の中にチェーンを入れて仕舞った。

指輪とロケットが付いてるようだった。

しかし、それ以上は何も話してくれないらしく違うことを始めてしまったので聞かなかった。


「リグドー、食料はあと何日持ちそうだ?」


「あと5日ですかね。それ以上は無理ですね」


「やっぱり村で何か買わねばならないな」


「ああ20日間持たせなければここから、街まで保たないですから」


皆でそんな話をしながら、馬と一緒に歩き始めた。


「そういえば、ウェルの一件で思ったんだが、故郷や何処かに残してきたものがいる者が大半なんだろうか?」


「アッシュ、俺は父母も故郷にいるぞ」


「そうか。他はどうなんだ?」


「俺は孤児なので、両親とかはいないんすけど幼馴染の兄弟みたいな弟達が5人いるっす。仕送りだけはしてるんすけどね」


「リグドーは弟が5人もいるのか。孤児院の支援もせねばならんな」


そう言うと周りが笑って居た。


「リーランドはどうなんだ?」


「ああ。いるよ。血の繋がらない姉がね一人。父と母は先の戦いで亡くなってるけどね。それと会いたい人が一人ね」


その話を何となく気軽に聞き返せずに返事に困ると、リーランドが言った。


「どうせ、こういう話はいずれするだろうから、話しておくよ」


そう笑ったのだ。

本当は話したくないだろうその話は俺達に何を齎すのか、その時は解らなかった。


「僕の故郷は西の国アザランティアにある。小さな村だった」


過疎化の進んだ村はあまり人もおらず長閑な新緑の地だった。

大きな灯台が東の海岸にあって、そこに船が行きつくことが多かったが、ほとんどが幽霊船だ。遺体ばかりが乗っているその船を燃やして弔うのがうちの村の習慣のようなものになっていた。

小さい頃は平和で父と母、姉と幸せに暮らしていたよ。

そのうちに東の国イースタンとの戦争が始まり、戦火に包まれ、父と母は戦場から僕達を守るためにいろんな策を講じてくれた。

もちろん、僕たちが戦争に行かなくて良いように取り計らってくれたのも父と母だ。

苦しい時期を過ごすうちに怒りが湧いてきた。

僕は敵を殺すことを厭わなくなった。

結局、戦争に加担したのさ。

そして、姉を母を父を守ったつもりになってた。

実際は護られていたのに、それにも気づかず、敵兵を減らすことを考えた。

そして、家に戻ると生き残っていた、僕の敵だった男が父と母を殺し、姉を手に掛けようとしていた。

僕は怒りに身を任せてその男を殺した。

姉に言われたんだ。


「リーランドの手はそんな事のために使うものじゃない。絶対、もうしないで。二人で逃げましょう」


そう泣いて縋られたんだ。

だから、もうしないと約束をしたんだ。

それからは平和なところへ移民として旅をして旅芸人のようなことをするようになり。

歌を覚えた。自分の歌を作ったりもした。

そうして、旅芸人として生活することに慣れていった頃、一人の男と知り合った。

ラディアス・トリスタン。剣士をしている。今も健在だぞ。

彼は道中護衛をしようと言ってくれて、僕に剣を教えてくれた。

強くなるために必要なことは全部くれたんだ。

そうして、姉と僕はこの南方の国オルベウスへと行き着いたんだ。

その端の村で暫く世話になった時に彼女と出会った。


「大切な人か?」


「ああ。今でも唯一、忘れられない人だ」


綺麗な人だと思った。

話すうちに仲良くなって、そのうちに姉とも仲良くなって。姉弟揃って世話になった。

そうして行くうちに恋に落ちた。

でも、彼女には想い人が居た。

船で北方の国へと旅立ってから連絡がない。

まさかと思って、容姿を聞くと、前に灯台のところに来た難破船の死にかけてた乗組員が居て、その人が手紙を渡して来たので持っていた。村で看取ったその男の手紙を渡した。

涙を流して手紙を読んでたよ。

彼女は言ったよ。


「私はこの先、これ以上愛することは無いでしょう。だから、歳を取ってお婆さんになるまで、一人でいます」


そんな事があっても僕はずっと彼女が好きだった。愛していたんだ。

だから、王城に行くことになったとき、お揃いの指輪とロケットを贈ったんだ。


「僕はこれから一生貴女を忘れることは出来ないでしょう。もし、この先、貴女が結婚しても好きでいます。ですがこの気持ちだけは知っててほしい。僕は貴方だけを愛しています」


そう言ったんだ。こんなところで、話すと照れるけどね。

そうして旅に出たんだよ。


「じゃあ、彼女とはそれきり?」


「ああ。会ってない。それでも良いと思ったんだ」


「良くないだろ! 会いに行けよ」


「リグドー泣いてんのかお前」


リーランドは思わず笑った。


「もう過ぎたことなんだ。だが、もし、次に会えたなら。その時はな」


リグドーにウェルがハンカチを渡した。

アッシュは言った。


「これから行く方にその村はあるのか?」


「ああ。ある。行くことになるだろう。だから話した。この話題はこれでおしまいだ。僕はこれ以上話す気はないからな」


「会ってみたいな。リーランドの想い人に」


「惚れるなよ」


「俺には心に決めた人がいますから問題ありません」


「ウェルはな〜!」


「リグドーはどうなんだ?」


「まだ恋とか愛とかはわからないっす」


そのうちに、村へついた。


「お、馬届けに来てくれたんだろ?!」


「そうです!宜しくお願いします」


「ありがとな。作物以外なんにもないとこだけどゆっくりしていってくれ」


そうこうして、作物や食べ物を分けてもらい、宿を取りゆっくりとした。

その間に思いを馳せるのはきっとあの人のことなのだろう。

この吟遊詩人はこの先ずっと一途な愛を忘れられずにいるのだろう。









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