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アーウェル・ウォーウェンという男



次の街の近くの森を抜けるために一行は歩いていた。

そんなときに女性の叫び声がして、そちらの方向へと走り出した。

少し走ったところで、ベアに襲われる女性が居た。


好きだった。そんなふうに思ってたことは相手は露も知らないだろう。

だから、そうじゃなきゃいいって願っていた。

そう願っていた。

ベアが手を振りかぶったところで隙間に入ったウェルは女性の顔を見た。

思っていた女性で愕然とした。


「システィア!!!」


「ウェル!!」


驚いて居たが、ウェルがベアを切り払ったところでベアが逃げていった。それから、システィアをまっすぐ見た。


「久し振りだね。ウェル」


「ああ。あれからもう5年になる」


「でも、こんなところにどうして?」


「今、旅をしているんだ」


そう少し目が泳いだ。

助け舟を出すつもりでアッシュが言った。


「ウェルの知り合いか?」


「はい。幼馴染のシスティア・レインヤード嬢です。とても、良い女性です」


「アッシュだ。ウェルと知り合ってから少し長いかな。今は皆でとある人を探して旅をしている」


「システィアです。こんなところで会えると思ってなかったのでびっくりしちゃって、ごめんなさい。ウェルとは小さい頃から一緒に居たから、なんだか不思議な感じ。えっとそちらの二人は?」


「リグドー・ティレスです」


「リーランドだ。よろしく頼むよお嬢さん」


そう手に口付けるとウェルが払って睨みつけていた。


「おーこわこわ」


「リーランドには近づけませんからね」


「あはは」


「からかうのも大概にな、リーランド」


「そうだな。馬に蹴られない程度にしとくよ」


ふっと笑ってそう言った。

3人は前を歩き、ウェルとシスティアを後ろでゆっくり歩かせていた。


「街から近いから、きのこと木の実取りに来てて。そしたら、襲われちゃったのよ」


「災難というか、無用心というか、男手は居なかったのか?」


「ええ。仲のいい男性が余りいないから仕方ないのよ」


「そうか」


ほっとしたような、心配なような不思議な気持ちになっていたウェルは頭を撫でた。


「ウェルの手、大きくなったね。まだ17の頃に王都に行って騎士になるって飛び出してそれから5年。手紙は送ってくれてたから、どんな仕事してるかは知ってたけど、まさか旅に出てるとは思わなかったよ」


「ああ。俺も旅に出るとは思ってなかった」


「そんなに大切な人なの? 探してる人は」


「アッシュに取っては一番で俺達にとっても大切な人だよ。金髪の碧眼で古い杖を持ってるウォレン・エドヴァルドという魔術師だよ」


それを聞いたシスティアが驚いた。


「うちの宿に泊まってた魔術師様! 勇者パーティーにいた方だろ?って父さんが言ってた」


「勇者パーティー?!」


ウェルの声にアッシュが反応した。


「勇者パーティーにいらっしゃったのか師匠は」


「みたいですね。それ、詳しく聞けないか?」


「うちに泊まってくれるならね!」


「良いですか?アッシュ」


「いいさ。楽しみだ」


暫く歩くと森を抜けて、街が広がっていた。


「システィア、疲れてないか?」


「ウェル達程じゃないよ。皆の疲れが落とせるように綺麗な部屋用意するよ」


笑った顔が正直、可愛いとウェルは照れ隠しで前を見た。

ふふふと隣で笑うシスティアも楽しげだった。

二人はとてもいい雰囲気で、三人はそれを眺めて少し笑った。


「いいな。ああいう関係の女性がそばに欲しかったな」


「アッシュ様もそんなこと思うんですね」


「そりゃあな。幼い頃から知り合ってた女性が居たらとても楽しそうだ」


これは男女関係のことを言ってないなとリグドーは呆気に取られていた。

それを見てリーランドが笑っていた。


「あのですね、恋人とかの話をですね」


「それはやめといた方がいいこいつは天然バカだから、真っすぐにしか考えられないしな」


「ですが、リーランド。王子も知らねばならぬことが」


「あっ!!」


「いやななんでもありません」


「システィア、何か聞いたか?」


それに笑ってシスティアが言った。


「そんなことだろうと思ってたから。気にしてないよ」


「内密にな」


「はい。肝に銘じますね」


そうシスティアが笑って居た。

街に入って暫くしてから、システィアの横にガラの悪い大柄の男達がすれ違おうとしたので、ウェルがシスティアを自分の側に歩かせ、そちらに自分が歩き出す。

すると、男が一人、ウェルにぶつかってきた。


「いってぇー!何だてめぇ、ぶつかってきやがって」


そんなことを言いつつ、こっちを睨む。


「ぶつかって来たのはお前だろ」


「頭聞いてくださせぇよ」


「まぁ、今はいいだろ。取り敢えず行くぞ」


そう頭と言われた男が言うので、その場は収まり何処かへ行った。


「ウェル大丈夫?」


「ああ。大丈夫だ」


そう応えて歩き出した。

ウェルはなんだか嫌な予感がしていた。


「ここがうちの宿! さ、入って」


「お邪魔します」


「お世話になる」


「お世話になりまーす」


「邪魔するよ」


それぞれ口にしてから、入るとおじさんとおばさんが掃除していた。


「お母さん、お父さん、ウェル連れてきた」


「あれ?!アーウェルくん!アーウェルくんじゃないか!!母さん!」


「まぁ!アーウェルちゃん!」


それに眉をハの字にして困るウェルの姿があった。


「おじさん、おばさん。お久しぶりです」


頭を掻いてすこし頭を下げた。


「本当に大きくなって、さぁ、みなさんも部屋に案内しましょう」


「あのその前に聞きたいことがあって。魔術師様と呼んでいる方のことなのですが」


「おや、勇者パーティーのあの方の事かな?」


「そうなのよ。この間の話してあげて」


それを聞いて、こっちの椅子と机を使ってくださいと案内された。

おじさんは何かを探していた。


「あった!これだね」


そう差し出した切り抜きのファイルを差し出されて見てみるとそこには確かにウォレン・エドヴァルドが映された写真があった。


「師匠だ。若い」


「二十歳の頃の写真ですからね。今から二十年か三十年か前です」


「師匠は五十そこそこと言うことになるのか。あの見た目で?」


「そうでしょうね。幾つかわからないのがあの人の美徳でもありましたから」


「エルフの血が混じってる筈ですから、若くて当たり前ですよ」


そうシスティアの父が言う。

それに驚いて、口を揃えて言った。


『エルフ?!』


「はい。先祖にエルフが居たとの話は昔よく話されてた話です」


「耳は尖って無かったぞ」


「見た目は変わりないでしょうが祖父がエルフのはずです。勇者を助ける要となる魔術師でしたから。今では大魔術師と呼ばれております。銅像も何処かに建ってるとか言われてますので、探してみるのも良いかもしれませんね」


驚いてよく見ていると勇者の切り抜きがあった。


「この方は茶髪か?」


「はい。勇者バルドは茶髪の金の瞳の方でした」


その言葉にアッシュがウォレンの言葉を思い出していた。


“いいですか?友人は大切にせねばなりません。ひょんな事で諍いを起こし、そのまま死に別れる事もあります。私も若い頃、茶色の髪の男とよく喧嘩しましたが、あの諍いで私は彼が死ぬまで会わずに別れて、後悔をしました。そんなことが起こってはいけないのですよ”


「彼は師匠と喧嘩別れした方だ。よく話してくださった」


「そうか。エドヴァルド様はこの方の話をしていたのか」


「詳しいのですね大魔術師様に」


「私達よりも貴方のほうがよくご存知の様で、お話が聞けて嬉しかったです」


「いえ、その当時、書かれてたり噂された事しかわかりませんから。お力になれて良かったですアッシュ王子」


バレていたかと少し笑って、人差し指を口に当てた。


「内密にな」


「はい。肝に銘じましょう」


「親子揃ってそっくりだな」


そうリーランドが笑った。

それに頷くリグドーとアッシュ。


「じゃあ、話も終わったし部屋に案内します!」


部屋は2階の端の大部屋でベッドが四つおいてあるところだった。


「あまり使われない部屋だけど綺麗に掃除してるから大丈夫よ」


部屋を使用中の札を下げて去っていった。

ベッドを決めてから、話していると誰かからお腹がなった。


「すみません、俺ですね」


ウェルだった。そんな時、下からガシャーンと酷い音がして、下に降りる。


「止めて頂戴!!システィア!!」


システィアが男に人質に取られて居た。

ウェルは剣を持ち、気づかれる前に剣の鞘で打ち込み、システィアを開放した。


「何が目的だ?」


システィアの前に立ち、剣を突きつけた。


「昼間のお礼に来たんだよ。俺達に逆らいやがって!ただじゃ置かねぇぞってな」


「何それ!逆恨みじゃない!!ただの肩ぶつかっただけなのにウェルにそんなことで絡まないで!」


「嬢ちゃん、この世には逆らっていい人とそうじゃない人がいるんだよ~」


システィアは怒りに震えた。


「リーランドどうした?」


「いや、こいつら手配犯だなって気づいただけだよ」


「じゃあ、突き出すか」


「そうだな。治安騎士の負担が減って助かるだろ」


「ちっ!頭!!」


「付き出すたぁ、情けも容赦もねぇな」


そんな事を言いつつ剣を突きつけた。


「三対一とはどちらが情けも容赦もないんだかわからないな助太刀しよう」


「じゃあ、俺も」


リーランドとリグドーが前に出た。

その途端、鎖鎌の鎖の部分がリグドーの剣に絡まった。


「外に出ます!」


リグドーがそれをうまく使い外へと投げ出した。


「うわぁぁ!」


そのまま、戦闘になる。体勢を立て直した鎖鎌の男と対峙した。


「さて、俺は君とかな?」


そう、後ろに回り込んで居たリーランドが足蹴にして外へと出した。


「あとは頼むわ〜」


「任せろ」


そう言ったウェルが頭と呼ばれてた男に向き直った。


「俺の相手はお前か」


「ああ。あんたを倒す相手だ。よく覚えろ」



          ○



リグドーは鎖鎌を盾で跳ね返しながら切りかかっていた。

暫く鎖鎌が飛んできて居たが、それも無くなり、攻撃を激化させた。


「なんだコイツ!!ずりぃだろ」


「なんだもクソもありませんよ。俺はこういう戦い方しか知らないものでねっ!と」


背中を完全に斬りつけて、そのまま倒れたまま気絶したので、ポーションで一応治して縄で外れないように括った。その時、隠し武器も全て押収した。


「まっこんなもんだよね!」


後ろのリーランドを見るともう終わって縄を縛っていた。


「ちょっとリーランド早くない?」


「そりゃあ、僕は優秀だからね」


「でた!リーランドの優秀だからね」


「あはは。まぁ冗談はさておき、騎士様は大丈夫かね?」


「ウェルのことだからね。何とかなると思うよ」


「だな」


そう二人で、笑いあった。



         ○


「何処の馬の骨か知らねぇけど、俺のシマで女引っ掛けてんじゃねぇぞ。その女は俺がもらってやるよ」


「馬鹿言え。俺に勝てもしないやつがそんな変なこと言ってるんじゃない」


「なんだとー!!」


そう斧を振り下ろしてきた。それを弾き返して腹を突き刺す。そのあと剣を振り下ろした。


「てめぇ、何でこんなに」


「鈍くていけないな。そんな口効きたいなら、俺を倒せるようになってから言うんだな」


そう言って首元を強く殴った。

気絶したのでポーションで回復させといて武器を奪い、縄に括っていく。


「ところでアッシュは?」


探していると、遠くから騎士をぞろぞろ連れたアッシュが来た。


「治安騎士呼んでくれたのか?」


「ああ。必要だろ?」


「ああ」


そう笑い、拳を突き合わせた。

外に居た二人も拳を突き合わせた。


「ウェル。ありがとう」


「いや、礼を言われることは何一つやってないよ。システィア」


「ううん。そんなことないよ。あのときだって私を外側の道から安全な方を歩かせてくれた。それに今だって助けてくれたじゃない」


「助けられて良かったよ」


「私は貴方のそういうところ好きよ」


それに真っ赤になったウェルを見てひゅーとかやるねーとか笑う三人。

おじさん、おばさんはそれを穏やかに見守っていた。


「俺もシスティアが好きだよ」


「ありがとう」


嬉しそうに笑うシスティアにウェルが口づけて、その瞬間ひゅーと口笛一つ吹いたリーランドにウェルが怒った。


「皆で人の恋路を楽しまんでくださいよ!!」


「わ~怒った〜隠れろ〜」


「こら!!」


それを見ていたシスティアが父と母に言った。


「ウェルも良い仲間が出来たのね」


「そうねぇ」


「本当に」


壊されたところを布で覆い、近場の酒場で今後を検討しながら、夜はここの宿の二階で仲間たちは眠った。

明日には旅立つこの場所を惜しむようにウェルは一人、屋根で夜の外を見上げた。


「ウェル」


「システィア。危ないよ」


「大丈夫よ。慣れてるもの」


そう笑うシスティアにウェルは何か言おうと考えた。

しかし、何も言えずにいた。


「帰りを待ってる。城で侍女しながら居れば帰ってきてすぐ会えるよね?」


システィアがそう言うと驚いてから、肩を持った。


「侍女は大変だぞ?」


「大丈夫よ。私は何処へでも働けるし、頭だって悪くないから女学院に行ったことだってあるんだから」


「そうか」


「ウェルには他に女の人居ないもんね?」


「居るわけ無いだろ。ずっとお前のことが頭に付いて離れなかったんだから」


それにシスティアは笑顔だった。

嬉しそうに自分のしていたロケットを渡した。


「大事なものじゃないのか?」


「そうよ。でも私、まだ同じ写真を持ってるからいいの。持って行って私だと思って大事にして」


ロケットを開けると小さい頃のウェルとシスティアだった。


「行く時、また写真を撮ろう。その写真を身に着けてくれるか? 必ず迎えに行く」


「うん。ありがとう。嬉しい。じゃあ、行くね」


そう言って隣の部屋の窓から中へ入っていった。


「あ~熱い熱い。本当に上が熱くてたまらないね」


リーランドの言葉に頷く二人。

そして、その言葉が聞こえたウェルで、枕投げ大戦争が巻き起こったのは言わずもがなだ。

そうして夜は過ぎていった。


準備も終わり、行く間際になり皆で写真を撮った。

そして、ウェルとシスティア二人でも撮り、アッシュ一行は去っていったのだった。


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