師匠と会えたら
森を抜けてから暫くは野原を歩いていた。
小さいラビ達が歩いているが害はないので放置しておく。
街が見えてきているので、そこで一旦聞き込み調査しようと思う。
「ウェル、リーランド、リグドー、あそこの街で聞き込みしよう。まぁ、目撃情報のところまであと一ヶ月はかかるし、何か知っている人がいるかもしれない」
「はい、そうしましょうか」
「急ぐ旅でもないしな」
「分かりました! では、それで」
城を出てから、随分経ったような感覚にあったのは多分自分だけだろうなとアッシュは思っていた。
第一王子という身分で外を出歩くことはあっても護衛や衛兵と一緒だった。
こんな仲間達と数人でというのは無い。
しかも、父上は子をあまり作らなかったというか、私の他に妹が居るきりで、他は居ないのだ。
だから、余計に庇護下に置かれていたというのはある。
こんな機会は、この先、もう無いだろう。
絶対、師匠を見つけて帰ってこなければならない。
それはプレッシャーでもある。
「アッシュ、どうしました?」
「いや、絶対、師匠と会わなければなと思っていたところだ」
「必ず、お会いして、連れて戻りましょう」
暫くして、街へと入った。
栄えている街に少し安堵する。
父上の政権は安全な治安を齎しているのだと思わせてくれる。
道行く女性に声をかけた。
「すみません。この辺で魔術師で古びた魔石の付いた杖を持った男を見ませんでしたか? 長い金髪の碧眼の男なのですが……」
女性はそれに驚いてから、笑って答えてくれた。
「あれ?魔術師様の知り合いなの? この辺じゃ、あの人の事は知れ渡ってるよ。今の状況でもありがたい魔術を使って、私達農民の傷や病気も治してってくれる凄い人さ。薬も作り方を教えてってくれるし、感謝しない人は居ないよ」
師匠はここでも色々と民に与えて下さっていた。
いつも、民の事や私のことを考えてくれる。
その姿を見るたび、憧れる。
こういう人になりたいと思わせてくれる。
「その人はここから何処へ行ったか知りませんか?」
「故郷に帰ると言っていたとか。私も人伝に聞いただけだから、解らないけどね」
「やはり故郷に」
「アッシュ様、もう少し聞き込みしたら、準備を整えて街を出ましょう」
「ああ」
一旦アッシュとリーランドは共に聞き込みして、ウェルとリグドーは聞き込みと物資調達へと行った。
別れてから5、6人に話を聞いたが、皆、師匠の事を知っていた。
中には名前を知っている人も居た。
きっと色々と話していたのだろうとリーランドは笑った。
「早く会いたいな」
「ああ。早く会わせてやりたいと思うがな。きっと目撃情報の場所からするとちと遠いな」
「そうだな」
「おーい!アッシュ、リーランド!」
「ウェル!リグドーは?」
「まだ調達するものがあるとかで、おいてきました」
「そっか」
「エドヴァルド様は凄いですねこんなに大きな街なのに知らない人があまり居ませんでした」
それに頷く。何もしていないと師匠は言うのだろうけど、多くの事をしている。
その痕跡だけがあちこちで残っていく。
「そういえば、先程行ってきた冒険者ギルドで奇妙な事を聞きました」
「どうした?」
「どうやらこの先の山を越える為の洞窟でティルスが大量にいるらしいのです。大繁殖したのは最近で、冒険者達も引っ切り無しに駆り出されてるとか」
ティルス。光る角を持ち、大きな顎で敵を噛み砕く。厚い皮膚が特徴的。
油断すれば命を取られかねない厄介な魔物だ。
魔法は有効的なので、そこは有り難いが。
「おーい!皆さん!」
「リグドー、荷物が大変なことになってるな。台車は要るか?」
「要りません!俺は体力だけが取り柄ですから」
それに皆すくすくと笑った。
「ちょっと皆さん……!!」
「良いんじゃないか。リグドーだからな」
「そうだなリグドーだもんな」
「ちょっと、貶してます? 褒めてます?」
「褒めてる褒めてる」
物資も揃い、皆で日のあるうちに街を出た。
野営する場所はもう決めてあったので、先を少し急いでいた。
「アッシュ、野原といえ、魔獣は出ますから野営のときは見張りを交代して行きましょう」
「ああ。分かった。見張りだが、一番最初の者と最初は共に見張りしてもいいか? そのあと自分の順番の時にも出るから」
「そうですね、最初は誰かと見張りして見るのはいいかもしれませんね」
「僕もそれがいいと思う」
ウェルの言葉にリーランドも頷いた。
王子というのはものを知らなすぎるとアッシュは自分で思っていた。
それを周りも解ってくれている。
それに甘んじる自分も少し申し訳ないのだけれど、今はそれに甘える他ない。
「じゃあ、それで頼む」
そう笑うと周りも少し微笑んだ。
「じゃあ、俺と最初、見張りしましょうか」
ウェルがそう言ってくれたので、お願いしておいた。
「ああ、宜しくお願いします」
そうして、野営地に着き、日が明るいうちに野営準備を整える。
習うことばかりだが、アッシュはそれが新鮮で好きだった。
なんとかテントも立てられて、男四人で2つのテントを作った。
他からは見えないように魔法も掛けておく。
「イリュージョン」
「細い魔法まで覚えて下さってて助かります」
「そりゃあ、師匠が良いからね」
そう笑うと皆笑っていた。
こういう時間が私達には必要だ。
各々の事を知る、その時間が大切だと思う。
「さて、寝るにはまだ早いかな」
リーランドが笑った。
「その割には夜が更けてきているけどな」
私がそう笑うとリーランドがおちゃめな仕草で言った。
「じゃあ、見張りについて皆で説明することにしよう」
「見張りはですね。魔物の侵入を知らせるものが殆どですが、野盗や盗賊の侵入も気をつけなくてはなりません。ちょっとでも違和感があったら、仲間に知らせてください」
「分かった」
「後は好きにしてていいです。周りを気にしながら日記を付けるのも悪く無いでしょう」
「それはなんだか難しいな」
「高度な技術ではありますね」
それは多分しないなと苦笑いした。
「さて、じゃあ、大型の魔物が出たときは急を要するし、盗賊の時もそうだ。その時はどう呼ぶ?」
「呼びに行く暇は無いな」
「そうですね。無いでしょうね」
「その時はどうしたらいい?」
「僕達でも使える魔法がある。呼び出し笛という」
リーランドに笛を渡されて、そう笑った。
「これを吹くのか?」
「ええ。吹いても仲間にしか聞こえない様に魔法がかかってます。これで呼びます」
「リーランド吹いて聞かせた方がいい」
ウェルがそう言うので自分の分を出した。
「じゃあ、吹いてみせよう」
ピーと勢いの良い音が大きく聞こえる。
皆聞こえているらしく、私を見て頷いていた。
「王子の分は俺が用意したのを先程リーランドに渡してましたから、それは持ってていいです」
リグドーが笑ってそう言った。
「分かった。これを要事の際は吹く」
「さて、じゃあ、説明も終わったし、リーランドとリグドーは休んでくれ」
「はいはい、ゆっくりしようかね」
「ああ。有り難く休むかな」
ウェルの一声でテントへと解散した。
ウェルと二人でそこからは色々な話をした。
その日は、ウェルが寝る頃に見張りをそのまま引き続きやり、次のリーランドに引き渡すまで、星を見て過ごした。
師匠は今頃、この星を見ているだろうか?
考えてしまう。
師匠は私をまた教えてくださるだろうか?
そんな解らない事を考えてしまうのだ。
私は会える日を楽しみにしている。
きっと、すぐ会えると自分に言い聞かせて、今日も眠る。