師匠と呼ぶ男の事を知らない。
設定ちぐはぐですみません。
その男を私は師匠と呼んでいた。
第一王子という肩書も気にせずに、懸命に魔術を教えてくれて、知らない国の話をよく聞かせてくれた。
今はここに居ないその男に、私はお礼をただ述べたくて探している。
何処に居るのか、直接探しに出向く事すらある。
私が彼を知っているのは容姿と名前くらいだ。
長い金髪の碧眼。
ウォレン・エドヴァルド。
ただそれだけだ。
荒野に居たと聞けば動ける兵を送り、結局無駄足。
森へ向かったと聞けば、自ら出向き、やはり無駄足。
それでも、諦めきれずに探している。
そして今日、公表することにした。
探し人を見つけたら第一王子の元に情報をと。
○
彼と出会ったのは、5歳の誕生日。
父である、オディール・ロパーナード・オルベウス3世が連れてきた、魔術の師であった。
彼ならば如何なる術でも教えてくれようぞと嬉しそうに話したのだ。
それを聞いて頷いてよろしくおねがいします師匠と言ったのは記憶に残っている。
その後の師匠の言葉は忘れられない。
「貴方の師匠になれるように努力しますから、貴方も良い弟子であれるよう努力を惜しまないでください。必ず、良き魔術師にしてみせましょう」
「私、魔術師になります!」
それにこらこらと父は王様になるんだよと言っていたけれど、私は魔術師が羨ましかった。
師匠がとても素敵な人に見えたからだ。
初めての憧れだった。
こんな大人になりたいと心から思うようになるまで、時間は掛からなかった。
師匠は何から何まで教えてくれた。
薬草の種類から魔術の根本に隠された基礎の理。
そして、優しさの使い方。
そして、くだらない話もたくさんした。
好きな女性のタイプやらおじさんになったらどうあるべきかなど、変な話ばかりだ。
「師匠。明日、森に連れてってくれて、実践するって聞きましたが、私はそこそこ戦えるんでしょうか?」
「それはやってみなくてはわかりませんね。実践ほどわからないものは無いので。実践は感覚とインスピレーション。そして、自分の努力次第です。何かをするには、相当の覚悟が必要です。その覚悟も試されるでしょう」
覚悟か……と、己を振り返る。
火の魔術が使えるようになった時を思い出す。
最初の何も使えなかった頃、師匠は一緒になって考えてくれた。
ようやく少し灯す事が出来た時、これ以上ないほど師匠を喜ばせて見せると覚悟した。
きっと小さな覚悟だったが、結果、師匠は大喜びしてくれたので、あの事を思い出すのは今までの行いの中で唯一の覚悟だったからだろう。
だが、今はもう外で魔獣相手にする覚悟をしなくてはならない。
「頑張ります。それしかできないから」
「はい。僕も君が危険にならないよう努力しますね」
二人で頷き合って、その日は授業を終えた。
その夜は眠れなかった。
楽しみと不安と入り混じり、心から、無事に終えられるようにと祈った。
次の日は寝不足だが、護衛やら何やらの付いた馬車に師匠と乗り込む。
「酷い顔ですね。そんなに楽しみでしたか?」
「はい。とても楽しみで、不安でした」
「たまにはそういう日もある方がいいと思いますが、睡眠不足は不注意の元ですから、あまり良いこととは言えませんね」
「すみません」
「まだ掛かりますから、少しお眠りなさい」
ゆっくりと目を閉じて、揺られるままに身を預けた。
それから何時間か経った頃、師匠に起こされた。
「おはようございます。着きましたよ」
「すっかり寝てしまいました。おはようございます」
森は茂り。奥は暗く見えない。
日は当たっているのに奥は暗い。
護衛も2人付いてくる様子で、4人で奥へと足を踏み込んだ。
「師匠。ここはどんな魔獣が出るのでしょうか?」
「そうですね。小物が多いですが、大きいものだとベアが出ますね」
「ドラゴンはいませんか?」
「ここには出ないと思いますよ。警戒心の強い魔獣ですから大体が荒廃した荒れ地や断崖絶壁の崖なんかに住み着いて、子育てしますから、食料を探す時以外は降りてきません」
「そうですか」
それに微笑んで、師匠は期待しました?と笑った。
「少し見てみたかったです」
「そうですね。もう少し大人になったら、見れるどこまで連れてってあげますよ」
「それは嬉しいです。お願いします」
そうこうしてるうちに、ラビと呼ばれる兎の魔獣が現れた。
「彼らは襲ってくることはあまりありませんが、魔術の授業には絶好の魔物ですね。ファイアーアローで仕留めて下さい」
言われた通りの魔術でラビを撃ち抜く。
しっかりと当たり、ラビは倒れた。
「良くできました。しかし、少し重心がずれた気がしますね。次はしっかりと狙い通りの場所に当たるよう注意してください」
燃え尽きたラビに土を被せてやり、次は薬草を見つけた。
「確か、この薬草は解毒作用がありましたよね?」
「はい。しかし、スキュラの毒には効果が期待できません。この薬草が聞くのはビーやクラムの毒程度です」
頷き、更に奥へと入っていく。
「奥は瘴気が濃い場所が多くなります。魔獣も強く大きくなりますから気をつけましょう」
注意を促していく師匠に前に居るように言われて前に出て歩いているとベアの手が見えた。
「ベアですね。ボムで応戦してください。すぐ襲いかかって来ます」
ボムを2回打ったが効いてないと思い、少し離れた。
「いい判断です。そのままファイアーアロー、サンダーの連撃」
師匠は手出ししないとこを見ると自分だけでなんとかできるのだと、少し自信になった。
バッチリあたった所でベアが怯んで倒れ込んだ。
「今です。サンダー」
打ち込んだあと、息を引き取ったのが分かった。
気を揉んでいた護衛の2人も安心したようだった。
「良くできました。今日はこのくらいで帰りましょう」
薬草を持ち帰り、馬車へとたどり着き、帰路を馬車が走り出した。
その後だった。師匠の様子が変だったのは。
このとき、理由を確かめていれば、私はあんな思いをしなかったかもしれない。
○
次の日の晩餐会。
師匠のいる前で、護衛だった男が言ったのだ。
「王、この男の教えでは王子は駄目になります。もっと違う方を入れてはどうか?」
それに王は首を振り、この男が一番だと言った。
その場はそれで過ぎたのだが、次の授業の時、師匠は言った。
「私の授業は今日までにします。今までありがとう。君が良い弟子で本当に良かったです」
「師匠、この前のドラゴンを見せてくれるという話は?!どうして、そんな急に?!」
「すみません。約束は守れそうにありません。急では無いのですよ。以前から考えていて」
「しかし!!あんな事を言われたからでしょう?!でなければ、師匠は離れていきません」
「人のせいは良くありません。これは私の考えたことです。お別れまで少しあります。お話しましょう」
涙が出てきた私に微笑んで涙を拭いてくれる師匠は何処までも優しい人だった。
「僕は辺境の地の出身でして、そろそろ帰らねばと思っているのです」
「遠いところなのですね」
「そんなに落ち込まないでください。私も別れ難く思っているのですから」
そこの地にはドラゴンが多く生息しており、神として信仰されていることなど色々と話してくれた。
民族衣装が暑い事が一番困ると彼は笑いました。
このとき、師匠は師匠では無くなっていました。
「では、そろそろお別れです。王にはもう言ってありますから、また会いましょう。アッシャー」
愛称で呼ばれてまた涙が溢れた。
その夜は泣き、暫くは呆然として過ごした。
そして、新しい魔術の先生が来た。
その先生は私よりも魔術を使えない気がした。
一年はその先生に教えてもらったが、何でもできてしまうと辞めていった。
私は師匠が良いと父上に言うと、探させようとお触れを出した。
しかし、師匠は見つからない。
私が17になるまで、消息は摑めなかった。
そして、誕生日の日に父上がこう言った。
「彼が見つかった。南の辺境の地サーリスにて、古の杖を持ち歩く人相の似てる人を見たという」
「父上。行かせてください。私には師が必要です」
そうして、私は師匠を探す旅に出た。
一人の男と王子の話始まります。