3年生
始業式。これから最後の高校生活、3年生が始まる。
ヌキナ「私たち同じクラスね。」
サエキ「よろしく。ヌキナさん。」
張り出された組の名簿にはサエキとヌキナ、そしてワカマツの3人の名前が同じクラスになっていた。
担任には、
サエキ「フシミ先生……!」
サエキは胸の高鳴りを覚えた。先生の香水の香りを思い出しただけでもサエキは前かがみになった。
それとは逆にワカマツは浮かない顔をしていた。それもそのはずで、ワカマツグループの社長、ワカマツの父の不倫スキャンダルで学校中の噂になっていたからだ。
春休みの最終日にネットSNSを通して炎上したそのスキャンダルに富裕層に反感を持つ層やワカマツグループに不満がある人物達からワカマツグループの社員達も叩かれ、生徒の一部もその世論に引きずられてワカマツに陰口を叩いていた。
サエキ「ワカマツ。元気出せよ。」
ヌキナ「そーよ。いつも、斜に構えてるワカマツ君のほうが素敵よ。」
ワカマツ「ほっといてくれ!」
ワカマツは席に突っ伏した。授業中ずっと悩み顔だったワカマツを励まそうと休み時間ワカマツの周囲の開いた席に座ってサエキ、ヌキナは集まっていた。
フシミ「どうしたの?」
サエキは後ろから声をかけてきた担任にも相談した。
フシミ「……なるほど、お父さんとワカマツ君の人生は違うものよ。アナタはアナタの人生を送りなさい。」
ワカマツ「そう、言っても……この前、街で俺によく似た子を見てしまって。もしかすると、父の子は他にもたくさんいるんじゃないかって思えて。なんだか自分まで不貞を働いたような気分です。」
それだけでは済まなかった。
インディーズロックバンド、ダシャブーミカのボーカルベースが脱退したのだ。
サエキ「ワカマツ……」かける言葉がなかった。
ワカマツは会社のCMソングも手がけようと夢を語っていたからだ。
ワカマツ「もう、いいんだ。これ以上、他のメンバーに迷惑はかけれない。」
進路指導室のシッダー博士もこのスキャンダルで頭を抱える一人だ。
シッダー博士「私の研究が……」
ワカマツグループの株価急落を受け、急遽、株主総会が開かれ、その中の研究費が高すぎるとやり玉に挙がったのだ。研究費の削減はナンマイダーの活動費にも及んだ。
ヌキナ「えー?!日当減らされるのー?!」
金にうるさいヌキナのモチベーションはだだ下がりである。
ワカマツ「日当5万を、これからは3万になる。コレでも努力して下げ幅を抑えたんだぞ?」
ヌキナ「うーん、まぁ、おいしいっちゃ、おいしい話ではあるんだけど、身の危険を冒してまでとなるとねぇ。」
シッダー博士「うむむ、釈迦如来の頼みとは言え。先立つものがないとなるとなぁ。」
ナンマイダーは消滅の危機にあった。
秘密結社ソッカー
幹部の集まる中、オウムの顔をした怪人が拝殿で高らかに笑っていた。
オウムマン「みたか!モーゴ、キーゴの怪人達の作戦!うまくいっただろう!」
モノアイのサイボーグは唸った。
PL伯爵「うーむ、見事だ。」
WM老師「力技では奴らには勝てんが、こんなに効果があるとはな……」
LT卿「ネット社会恐るべし、だな。」
それを見ていたイケダ尊師もご満悦であった。
イケダ尊師「オウムマン!よくやったこれでナンマイダー達も出てこれなくなるだろうな。」
イケダ尊師の玉座の横に控えるホワイティ博士も満足そうにしていた。
ホワイティ博士「シッダーの名が出たときはまさかと思いましたが……。クックック……。」
LT卿「奴らは顔を知られすぎている。これからうちの怪人ジャーインで一人づつひねり潰してくれる!」
イケダ尊師「よし、行けぃ!LT卿!この期にナンマイダーを倒すのだ!」
LT卿「ははぁ!」タコ足の怪人の後ろにはクラゲの怪人が控えていた。
サエキ「コイツを?!」
ワカマツ「人に似せる予定だったが予算が削られたんでな。」
ワカマツはバイト先のコンビニに全身青っぽいロボットを連れてきた。簡単に服を着せている、ゴツゴツしてるが、さながら、地藏に似てなくもない。
ワカマツ「名前はボサッツーだ。」
オーナーもそれを見て変な顔をした。
オーナー「人手不足は解消できるけども……」
ワカマツ「手先は器用だし、演算はサエキよりもボサッツーのほうが優れてるし、何より店のマスコットになる。」
サエキは変なロボットと比べられて嫌な顔をしたが、オーナーはまんざらでもなかった。
オーナー「分かった。試用してみよう。コイツの給料は要るのかい?」
オーナーはワカマツに聞いた。
ワカマツ「あー、ボサッツーなんかいるものあるか?」
ボサッツーは初めて口を開いた。
ボサッツー「どら焼きでいいぜ!メーン!」
サエキ『コイツ、食べれるんだ?!』
サエキは耳を疑ったが、店の雰囲気が陽気になるかもとオーナーはゴーサインを出した。
閉店後の地下のバーでバーテンダーとフォックスがカウンターを挟んで今後の相談をしていた。
フォックス「まずいわねぇ。ナンマイダーが日本をヤツらから守る唯一の手段なのに。」
初老のバーテンダーはタバコの煙を天井に吹いた。
バーテンダー「唯一か?」
その言葉にフォックスは顔を曇らせる。
フォックス「いやよ、古巣に頭を下げろっての?」
バーテンダー「そうも言ってられんだろ?」
フォックスは酒に浮かぶ氷をカラカラと回した。
フォックス「そうだけど。どのツラ下げて帰れって言うのよ。」
バーテンダー「俺も行ってやるさ。」
フォックスが酒をあおると2人はそろって店を出た。
ヌキナは学校の女子トイレの鏡に怪人が映り込むという変な噂の真相を究明すべく他の女子と共にトイレの鏡を調べていた。
ヌキナ「特に何もないじゃない?」
女子生徒「何人も見たって言うから何かあるのよ!おちおちトイレにも行けないって。」
ヌキナは少し霊感がある。他の女子から何かと頼りにされていた。下にたくさん兄弟がいるから面倒見がいいのかもしれない。彼女も頼られることに悪い気はしなかった。
ヌキナ『ん?』
鏡の隅、女子生徒の肩に小さな口だけの怪人らしきモノが乗って耳打ちしてるのが見えた。すかさず、それを捕まえてみる。
口だけの怪人「ぎゃあ!く、苦しい!」
女子生徒は尻餅をついた。お尻の方のパンツが見える。
口だけの怪人「おほー。ぐえ!」
ヌキナはパンツに奇声をあげる怪人を握る手に力を込めた。
ヌキナ「なんなのこいつ。」
口だけの怪人「けけ!モーゴとか名乗るもんかよ。」
ヌキナ「もう名乗ってるわよ、バカ怪人。」(ぎゅ!)
モーゴ「ぐぇー!キーゴ助けてくれ!」
ヌキナ「仲間がいるの!?」
ヌキナがトイレを見渡すと窓から逃げ出そうとする、これまた小さな鉛筆の怪人を見つけた。
キーゴ「うわ!しまった!」
ヌキナは両手に怪人を持った。
ヌキナ「私このままシッダー博士のところに行くから!」
女子生徒「うん!」女子生徒がトイレの扉を開けてヌキナは進路指導室に走った。