マカル返し
看護師A「血圧降下していきます!」
医師「今ある血清を投与したのにか?!」
ワカマツグループの急性期病院にヘリ輸送されたサエキ、救命グループが懸命に治療に当たっている。
ワカマツ「外国の蛇だったのか?一通りの血清は揃えてあるのに……」
ワカマツも冷や汗をかいた。もし、ヘビがたくさんいたら、サエキの隣にいた自分ももやられていたかもしれない。
フシミは一心に祓詞を唱えていた。
ヌキナ「コイツを!サエキ君、これに噛まれたんです!」
ヌキナが透明なビニール袋に詰めたヘビを医師に見せた。
医師「でかした!これで血清を!」
ピーッ
看護師A「バイタルサイン!フラット!」
処置台に意識なく横たわるサエキに繋がれた機器類が、
けたたましく、アラート音をたてる。
医師「電マ!」
看護師B「チャージできてます!どいて下さい!」
バコン!
医師「もう一度!」
看護師B「チャージ、完了!」
バコン!
医師「早く、血清を!」
看護師A「今、持っていったところです!」
尚も、続く電気マッサージでもサエキのバイタルは
戻ることがなかった。
ヌキナ「そんな、うそ?!うそ、うそ!」
取り乱すヌキナをワカマツが抱き寄せた。
フシミ「リョータ!起きて!目を覚まして!」
フシミはその場に泣き崩れた。
暗闇。ここは山の中腹の山道だろうか?
どこからか、かすかにフシミの泣き声が聞こえる。
フシミ『行っちゃダメ!戻って!』
サエキ「そうだ、俺、皆のとこへ帰らないと。」
サエキはボーっとする頭を片手で押さえながら、山道を下っていった。
夜空には星も月もなかった。だが、不思議と、自分の周りだけ見え、景色も薄っすらと輪郭だけが見えた。
サエキ「うわ、川だ。」
麓に着くと、そこには広くて浅い川が右から左へ流れていた。向こう岸には壁に覆われた街が見えた。どれも背の低い一軒家だが、人が住んでいるのだろう。帰り道をそこで聞こう。サエキはそう思った。
サエキ『これなら向こうまで渡れるんじゃないか?』
深くても、たぶん腰のあたりもないだろう、サエキはジャブジャブ音を立てて川に入っていった。
フシミ『だめ、戻って!』
小さな声がしている。しかし、川の音でサエキには届かなかった。
すると、向こう岸から川の上を滑るように歩く十二単の長いストレートの美しい姫がコチラにやってきた。
サエキ『だれ?平安?』
その時、サエキは足を踏み外し、深みにはまった。
サエキ『うわ!結構、深かった!』
頭が沈んでも足はつかない。
マズイ。
と思った矢先に、川の上に出した手をその姫につかまれ、サエキの体は川の上に救い出された。
ゲホッゲホッ……助かった。
姫「アナタは、」
姫はずぶ濡れのサエキを見て語りだした。きれいな声だ。
サエキ「え?」
姫「まだここにはこれないようですね。」
スッ
姫はサエキの胸を指し示した。サエキも胸を見やるとそこに4つの玉が浮かんで、くるくる回っていた。
サエキ「なんだこれ?!」
姫「それ、イクタマ、タルタマ、地返しの玉、それと、」
マカル返しの玉
サエキの頭になぜかその言葉が浮かんできた。
サエキ『授業で習ったっけな?』
姫「参りましょう。」
サエキは姫に手を引かれて川の上を元来た方へと連れて行かれた。
サエキ「待ってくれ、都は反対にあるぞ?」
姫「アナタはあそこには入れませんよ。」
姫は呼吸を乱すことなくスーッと滑るように山道を登っていく。
サエキ『ちょっと、ペース早いかも。』
サエキがそう思うと姫もペースを落とした。ありがとう。助かるよ。
サエキ「山頂まで行くのかい?」
後ろ手にサエキを引っ張って連れる姫は頷いた。
サエキはなぜか姫にタメ口だった。昔からこの人を知っている。そう思えた。
誰だ?こんな知り合いいたかな?
山頂につくとパッと目の前が眩く光りだした。
姫「また、いらしてくださいね?」
そう言われるとサエキは姫とともに光の中に包まれた。
フッ
とサエキは顔にかけられていた白い布を吹き払った。
サエキはベッドから上体を起こすと、ベッド脇で涙でメイクが落ちてグシャグシャの顔のフシミと、その後ろの驚愕の顔をしたワカマツとヌキナを見た。
ヌキナ「ぎゃー!」
ワカマツ「サエキ!お前!死んだんじゃ!?」
サエキ「え?なに?」
フシミはサエキに抱きついて大声で泣いている。
スンスン。キョーコのいい匂い。
サエキ『これだな。』生きる醍醐味は。
そこへ、両親も駆けつけ、部屋に入ってきた看護師も大声で叫んで医師を呼びに戻った。
サエキ『何が何やら?とりあえず、神社に行きたい。』
クウカイレッドが息を吹き返した。その報告をソッカーの拝殿にやってきたケンドーンに聞かされたオウムマンは驚愕し、地団駄を踏んで悔しがった。
オウムマン「完璧な計画だった!なんでいつも、やつに奇跡が降り注ぐんだ!銃の時もすぐ退院しやがったし!」
ケンドーン「電話口のやつも驚いてたよ、俺が奴の葬式を挙げてやろうと思ったんだがな。残念だ。」
ドン!ドン!
オウムマンは玉座の肘置きをヒビが入るほど激しく叩きつけた。
オウムマン「ファンタズ魔!ファフニール!」
ファフニール「ここに!」
扉に控えていたのか、すぐさま龍の頭をした怪人が拝殿に入ってきた。
オウムマン「クウカイレッド、サエキリョータを始末してこい!」
ファフニール「しかし、学生の洗脳が軌道に乗りだしたばかりでは?あちらはどうするのです?」
オウムマン「アルミハットなど奴らが勝手に作りよるわ!先にクウカイレッドだ!ナンマイダーがいる限り我らに太陽は昇らない!」
ファフニールは短く返事をすると踵を返して拝殿を後にした。
ケンドーン「ふむ、ハカイソーに割く予算を怪人に集中させてるのか、考えたなオウムマン。」
オウムマン「与党からの闇献金にも限りがある、今作ってるヴァスキで当分の予算がなくなる。」
ケンドーン「信者の稼ぎじゃやってられんか。」
オウムマンは苦い顔で頷いた。
オウムマン「それもここまでだ。ナンマイダー、クウカイレッドさえ居なくなれば!」
オウムマンは手に持っていたマタタビの棒をかじっている。
ケンドーン「……。」
フシミ「私、赤ちゃんほしい。」
サエキ「えぇ!?」
退院して稲荷神社に2人で参拝に来て、拝殿に手を合わせてる時にフシミが顔を赤くしてポツリと言った。
サエキ「けど、俺、受験もまだだし……。」
フシミ「ダメ?」
フシミの懇願にサエキは躊躇した。頭に兄の言葉がよぎる。
『一本に絞れ。』
ソレはサエキの思い描いたレールからの逸脱を意味していた。そして今、別の形の人生の分岐点が目の前に迫っていた。
サエキ『こんな時、ヌキナさんなら?』
未来のカタチは変わっても構わず、自分の信じた道を向かっていくのだろう。サエキはフシミの肩を両手で抱いた。
サエキ「ホントにいいの?」
サエキはフシミの目を見てその心に聞いた。
フシミはサエキを見つめながら頷いた。2人は軽くキスをすると、手をつないで笑顔で参道を歩いていった。




