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成金怪人 ケンドーン!

夕食を済ませ、自分の部屋に戻って、妖怪たちと警察、大学の受験勉強を今日も開始する。雪が振り始める季節、サエキは綿入りはんてんの前紐を締めた。

サエキ「いよいよか……」

模試では合格ラインまであと少しだった。追い込みをかける。サエキは気合を入れた。

その時、スマホの無料通話アプリが起動する。

サエキ「なんだ?珍しい。」ワカマツは同じく受験勉強で忙しいのか、ほとんどかかってこない。そして、一時期、鬼電してきてたヌキナからも音楽番組で顔を見るようになってからというもの使われることがなくなったアプリ。

サエキはその存在自体も忘れかけていた。

サエキ「もしもし?あ、ワカマツ?どうしたんだよ?」

電話口のワカマツは何やら心底、思い詰めた様子だった。

ワカマツ『なぁ、相談があるんだ。今から会えないか?』

サエキ「今から?どこで?」

ワカマツ『駅前のファミレスにいる。そこまで来れるか?』

遠いなぁ、ここからだと自転車で20分といったところか?サエキは躊躇した。明日にならないのかと。

ワカマツ『大事な話だ。頼む。今じゃなきゃダメなんだ。』

頼ってきている。その言葉にサエキも義侠心にかられた。俺が何とかしてやらなくちゃ。

サエキ「わかった。ちょっと待ってろ。」

ワカマツ『すまん。』通話を終了します。(ピロン)

サエキは着替えもせずに外に出た。しかし、冬の夜風が突き刺さった。

サエキ「うわっ!さっむ!」

風神『私にお任せあれ!』体の底から風神の声がすると

冷たい風が和らいで、サエキの周りだけ、春の陽気のように感じられた。

サエキ『すげぇ……』

風神『自転車も私が!』自転車をいつもの数倍のスピードで駆る。いつもなら20分以上はかかる行程も、サエキは5分以上短縮してファミレスについた。

反動で急激に腹が減る。

サエキ『ワカマツになんか奢ってもらおう。』

サエキはファミレスに入って行った。


ワカマツは店の端の方のテーブル席にいた。

ワカマツ「ワリィな。」

サエキ「あれ?ヌキナ、さんも一緒じゃん?」

ワカマツの向かいの席にヌキナが座っていて、ヌキナはワカマツより更に暗い顔をしていた。

何があったんだ?聞いてもヌキナはメソメソ泣き出すばかりで答えにならない。サエキはとりあえず、ワカマツの隣に座った。

ワカマツ「……実は、ヌキナのお父さんが入院したんだ。」

サエキ「!どうしてまた!」

ワカマツ「ヌキナのお父さんは、うちの惣菜工場の主任やってたんだけど、職場のストレスや、夜勤とかで毎日、深酒してたらしくてな。」

ヌキナ「もうやだ!逃げたい!私じゃ無理だよぉ!」

ヌキナが机に突っ伏して大声で泣き出した。

ワカマツが必死で落ち着かせる。

サエキ『こりゃ、思ってたより深刻だぞ。』

風神『ですね。』

ワカマツ「俺が掛け合って、治療費はワカマツグループのほうでみるようにするけど、問題はここからさ。」

サエキはワカマツの次の言葉を待った。ヌキナの悔しそうな歯ぎしりが聞こえる。

ワカマツ「プロデューサーに治療費のことを相談したら、陰毛を剃るのを撮らせてほしいと言ってきてな。今日がその約束の日らしい。」

ワカマツはサエキに向き直った。

ワカマツ「俺はヌキナタエが好きだ。サエキ、お前は剃り毛だけでことが済むと思うか?」

サエキはワカマツのその真剣な眼差しに心を打たれた。コイツラは真剣にお付き合いをしている。そう感じ取れた。サエキも握りこぶしに力が入った。

ワカマツ「俺はこれから、ヌキナと一緒に断りに行こうと思う。」

サエキ「俺も行く。」

ワカマツは頷いた。

ワカマツ「ありがとう、サエキ。」

サエキ「なんてったって、俺がナンマイダーのリーダーだからな!」

サエキはその場の雰囲気をほぐそうと、ドヤってみせた。その姿にヌキナもようやく笑顔になった。


ビジネス街のとある芸能事務所、応接室にそのプロデューサーとやらが待っていた。

プロデューサー「おいおい、汁男優は要らないぞ?ネットリ系で行こうと思ってたのに。」

スキンヘッドの筋肉質だが腹だけでてる中年の男はそういった。

サエキ『!コイツ、最初から!』

ワカマツは震えるヌキナの肩を抱いた。

ワカマツ「この話はなかったことにしてもらおう!」

おやおやとプロデューサーは肩を竦める。

プロデューサー「アイドル生命も終わってしまうよ?それでもいいのかい?」

サエキ「卑怯だぞ!」

プロデューサー「汁男優には聞いてない。ヌキナ、もう一度、よく考えるんだ。」

ヌキナはその時、初めてプロデューサーの顔を見た。ヌキナはひどく狼狽している様子だった。

ヌキナ「……違う、この人、プロデューサーじゃない!?似てるけど違う人だ!」

プロデューサー「おっと、見破られたか。」

ハハハ、とプロデューサー(?)は笑う。

ワカマツ「貴様、何者なんだ!」

サエキは素早く手印を作った。

サエキ「臨兵闘者皆陣烈在前!風神!」

ズヒュン!業務用の暖房の風に逆らって風神の髪は揺らめいていた。

風神「オラァ!」

ボッ!

ガシィッ!

風神の目にも留まらぬパンチをその男は素手で捕まえた。

ケンドーン「ホォ、ずいぶん乱暴じゃないか?俺はケンドーン。ナンマイダーを倒すためにここに来た。」

合掌。3人はナンマイダーに変身した。

ケンドーンは風神の腕をその体ごとサエキに投げ返した。サエキは後ろにいたワカマツたちを巻き込んでよろけた。

ケンドーン「だが、死ぬのはごめんだ。お前らの相手はハカイソーだ。」

ケンドーンと名乗る男の隣の空間が開きハカイソーが出てきた。明らかに、今までの中肉中背のハカイソーとは違う。筋骨隆々である。

ワカマツ「どういうつもりだ!?」

ケンドーン「言っただろ?死ぬのはごめんだ。俺は永遠の若さと時間停止を手に入れた。これから人生を謳歌するのさ。ソッカー?知らないね、あんなカルトは。」

サエキ「お前は最初から……」

ケンドーン「手切れ金くらいはと思ってこれを計画したが……まぁ、バレちゃしょうがない。逃げさせてもらおう。」

ケンドーンはそう言うと自身の後ろにできた黒い空間に消えてしまった。同時に新型のハカイソーが三人を襲う。

サエキ「風神!」

風神「お任せあれ!」

ガシィッ!風神はハカイソーを羽交い締めにした。ソレでも完全には動きを封じられない。そこへワカマツか飛び込む。

ワカマツ「雷光パンチ!」

バチチッ!

パンチはハカイソーのみぞおちにクリーンヒットした。しかし、ハカイソーは何事もなかったかのように風神とワカマツを振り払った。

サエキ「シャクジョーソード!」

細剣で斬りかかるも、

バキン!

サエキ「うそだろ?!」

ハカイソーはそれを片手で受け止めると、粉砕して、

サエキを殴り飛ばした。壁に激突するサエキは気絶する。

風神「大将!?」

ワカマツ「ヌキナ!クリカラパイルだ!」

ワカマツは風神と共にハカイソーを押さえつけた。ハカイソーが2人を必死に引き剥がそうと暴れる。

ヌキナは頷いて、クリカラパイルを召喚すると、両手に持った。

ヌキナ「私は、諦めない!突破するんだ!」

ドグシャ!

高速で打ち出された杭がハカイソーの身体に大穴を開ける。

ハカイソー「ブフッ!」

黒い血を口から吐いてハカイソーは絶命した。

三人の変身は解けたが活動を停止したハカイソーはその場に残っていた。

サエキはワカマツに助け起こされて、時間停止が解除されても残っているハカイソーの死体におどろいた。

サエキ「そんな?!どうするんだよ、これ。」

ワカマツ「どうするって、逃げるしかないだろ。」

ヌキナ「……さよなら、私の夢。」

三人は走って芸能事務をあとにした。そして、ヌキナのアイドル人生もそれで幕を閉じた。


次の日の休み時間。ヌキナはワカマツに英語を教わっていた。

サエキ「アレ?ギターは?」

ヌキナ「アレも続けるけど、私、渡米することにした!」

教えていたワカマツもサエキもそのいきなりの進路変更に驚愕した。

ヌキナ「それで帰ってきたら、ラジオのパーソナリティになる!」

サエキ「むちゃくちゃ過ぎる!」

ヌキナ「夢、形は少し変わったけど、掴んでみせるもん!」

ワカマツ「すごいな……ヌキナは。」

ヌキナは笑顔だった。ワカマツとサエキはその立ち直りの速さに面を食らったが、心配事が解決してホッとした。

サエキ「ま、そのほうがヌキナさんらしい。」

ヌキナ「ちょっと、サエキ君!それ、どういう意味?!」

膨れるヌキナにワカマツは苦笑いした。


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