ネオソッカー始動
オウムマン「……以上が今回の作戦の報告となります。」
ソッカーの拝殿の玉座で聞いていたイケダ尊師は苦悶の表情で眉間を押さえた。
イケダ尊師「幹部怪人を一気に3人失うだと……?」
モノアイのサイボーグ、PL伯爵。
亀の怪人、WM老師。
タコ足の怪人、LT卿。
残ったのはオウムマンのただ一人だった。
イケダ尊師の後ろに控えていたホワイティ博士も驚愕と狼狽の色を隠せない。
ホワイティ博士「クウカイレッドを狩るための何重にも張り巡らせた罠を、まさか破られるとは……」
オウムマン「クウカイレッドは陰陽道、シンランブルーは電撃技、ニチレンピンクはパイルバンカー、巨大ロボに至っては新兵器を持ち出してきました。最初、遭遇した時より、ナンマイダー達ははるかにパワーアップしてます。」
イケダ尊師「ワカマツグループを舐めていたな、あの騒動で弱体化どころか、業績アップ、ナンマイダーもパワーアップしてしまってるではないか。」
イケダ尊師はホワイティ博士に向いた。ホワイティ博士も慌てて前に寄る。
イケダ尊師「ホワイティ博士!あれはできているか!」
ホワイティ博士「は、はい!三邪神モルゲッソー完成しております!」
イケダ尊師「やもおえん!ハカイソー達をすべて作り直せ!ナンマイダーに対抗できるようにな!」
ホワイティ博士「そんな、無茶な!」
イケダ尊師「やれと言うに!」イケダ尊師の電撃がホワイティ博士を襲う。
ホワイティ博士「うぐわぁぁ!お、お許しをー!」
オウムマン「失礼ながら申し上げます!我々の資金力ではワカマツグループに対抗できません!」
イケダ尊師「それでもやれと言っておるのだ!これでは我々の野望が潰えてしまう!」
ソッカーは焦っていた。
紅葉の絨毯ができる秋。サエキはいつもの稲荷神社の本殿に続く参道から少し離れた神楽殿の軒先の段差に腰掛けてハラハラと宙を舞う紅葉を眺めていた。
サエキ「……追い込み時だなぁ。」
参道の向こう側で巫女二人が竹のほうきで紅葉を払っている。
サエキ「よし!頭のクリーンアップもできた。そろそろ帰るか。」
本当は、こんなところで時間を潰してる暇はないかもしれない。しかし、サエキは受験勉強で煮詰まった頭を冷やすために外に出たかった。そして、せっかくだからと紅葉を見に神社まで足を運んだのだった。
そこに拝殿に向かうフシミが見えて、サエキは駆け寄った。
サエキ「こんにちは!フシミ先生!」
フシミ「あら?サエキ君、何してるの?こんなところで?」
サエキ「紅葉を見てました。フシミ先生はお参りですか?」
フシミ「無断欠席する不良がでませんよーにってね?」
フシミはいたずらっぽく笑った。サエキは苦笑いするしか無かった。
フシミ「まぁ、冗談はさておき、いろいろあるのよ。生徒たちの受験がうまくいって、努力が実を結びますよーにって。」
サエキ「あ、なるほど。じゃ、俺も!」
二人は肩を並べて参拝した。賽銭箱の前で軽くお辞儀をしてお賽銭を入れ、鈴を二人で鳴らす。サエキは意識してなかったがフシミの手ごと縄をつかんで鈴を鳴らしていた。
フシミ「……。」フシミもそれに身を委ねていた。
そして、二拝二拍手一拝。
フシミ「あ、そ〜だ!いい男が見つかりますよーに!」
サエキは隣でまごまごした。フシミに自分はどう映っているのだろう?ただの生徒だろうか?それとも……
サエキ『受験が済んだら、俺も一歩前に進もう。』
そして、ワカマツ達に追いつこう。そう思った。
サエキは布団で寝ている。暗がりの部屋の中で式神の風神と迦楼羅天は部屋の真ん中に向き合ってあぐらをかいて座ってひそひそ話をしていた。
迦楼羅天『いいのか?言わなくて。』
風神『フォックスサンにそう言われてるだろ?黙ってろって。』
迦楼羅天『俺はまどろっこしすぎて、嫌になるぜ!ぱぱっと一発決めればいいんじゃね〜の?!年頃で心も通じてんだし!』
迦楼羅天は天を仰いだ。まぁまぁと風神がなだめる。
陰陽Sに使われていた二人は性に対する考え方が彼に似たのかもしれない。
風神『そういう、甘酸っぱい経験がしたいんじゃないの?あの2人?それに、うちの大将は鈍感だから、まだ気づいてないんじゃないか?』
迦楼羅天『かー!シラフじゃ、やってらんねーぜ!』
風神『それなら、親父さんがいい酒飲んでたぜ?』
迦楼羅天『ほんとか!?ちょっと、もらいに行こーぜ!』
風神『異議なし!行こう、行こう!』
次の日、父の年代物のウィスキーが空になっていて、家族会議をするちょっとした騒動になった……
イケダ尊師「もう、季節は冬になるぞ?ホワイティ博士進捗は?」
拝殿の壁に設置された大型モニターに映る、目にクマを作っているホワイティ博士は汗を拭きながら答えた。
ホワイティ博士「先に怪人のケンドーンを改造しました。ハカイソー達も間もなく……。怪人セッショーはもうしばらく。」
イケダ尊師「まずまずだな。よし!三邪神モルゲッソーも完成したことだし、ネオソッカー始動をここに宣言する!」
拝殿、玉座の前に片膝をついていたオウムマンは立ち上がった。
イケダ尊師「ハカイソー達の完成を待って、忌々しいナンマイダー共を蹴散らしてこい!」
陰陽S「クウカイレッド、ナンマイダーに戻ったか……」
エンノ「まぁまぁ、一筋縄では行かんことは顔を見た時にわかってたではないか。」
線香の煙漂う道教施設でバンコ、エンノ、陰陽Sは向かい合って椅子に座って今後の方針の相談をしていた。
バンコ「フォックスも逃げた。いいように利用されたのはこちら側だったか?」
陰陽S「申し訳ありません。首輪をしようとしたら逃げられました。」
エンノ「まぁ、前鬼は帰ってきたし、クウカイレッドには風神も迦楼羅天もおるのだろ?上々といったところではないのか?」
バンコ「そうだな。どう転んでも、クウカイレッドがいる限り、ナンマイダーは我らの手の内よ。」
サエキは受験勉強中、変な物を見るようになった。
夜遅くまで勉強して、頭がボーッとしてるからかもしれない。
机のしたから大きな目でこちらをのぞく妖怪の顔。
天井に頭がついて窮屈そうにからだを折っている髪の長い女性。
参考書を一緒に見る小鬼たち。
天井に張り付いている大きなトカゲ。
かくれんぼをしているベッド脇の童。
サエキ『賑やかだなぁ、この部屋。』
サエキにはそれらに恐怖よりも親しみの感情で接していた。なんだか、小さい頃兄と仲良く、部屋で遊んでいた時を思い出す。
サエキ『あの時が懐かしい。それが今や兄は一人暮らし、俺は受験勉強。ずいぶん遠くに来たもんだ。』
サエキはアクビをしながら伸びをした。
サエキ「ここを終わらせたら、寝るとしよう。」
窓の外は雪がちらついていた。