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べちょぬる怪人 ジャーイン

6月、梅雨に入る頃にサエキはサッカー部をやめた。

他の部員たちからはもっと続ければいいのに、と惜しまれたが、受験勉強に集中することにした。というのも高卒で合格率14倍の狭き門、都道府県警の警察官採用試験に挑戦しようとしているからである。それに加えて、

サエキ「今日は大学の方をやろう。」

サエキは家の自分の勉強机で、両親が旅先で買ってきてくれた合格祈願の御守りと、フシミがくれた学業成就の御守りを見つめていた。

その時、部屋の扉が開いてヒトが唐突に入ってきた。

サエキはドアの方を振り向いて入ってきたヒトを確認する。

サエキ「兄ちゃん、ノックくらいしろよな!」

サエキの兄は最近、会社の借りている家賃がほとんどかからないマンションの一室で一人暮らしを始めていた。

時折、帰ってきては、弟と共同で使っていたこの部屋に自分のものを取りに帰ってきていた。

兄「ノックはした。聞こえてないお前が悪い。リョウタ、俺の荷物は?」兄はサエキだけの一人用に模様替えされた部屋をキョロキョロと見渡した。

サエキ「そこの段ボール。」

兄「まとめてくれたのか、悪いな。」

兄は扉の近くの段ボールを開けると中身を持ってきた大きなカバンにつめ始めた。

兄「あ、コレもか、両親には……」

サエキ「言ってねーよ。」

兄「悪いな。」

兄は恥ずかしそうに成人向けの雑誌をカバンの奥にしまった。

兄「ところで、お前、高卒で警察になる試験と滑り止めで大学試験もやるんだって?」

サエキ「そうだけど、親から聞いたのかい?」

兄は頷くと同時に大学受験一本に絞れという。

兄「お前の学力で二兎を追うのは無理だ。10何倍だろ?確か警察のは?」

サエキ「だから、サッカー部をやめて勉強してるんじゃんか?」

兄「やめとけ。出題範囲が違う。それにー」

サエキは自分の決めた進路目標を否定され少しカッとなった。

サエキ「うるせーな!金の事だろ?バイトもして大学の学費も稼いでる。警察学校だったら給料もらいながら行ける。迷惑にならないよ!」

兄「大学の学費、今のバイト代でいけるのか?」

正直、今のバイト代ではギリギリ2年分くらいにしかならない。けど、残りは大学に行きながらでもいいし、それに、

サエキ『俺にはナンマイダーの日当もある。』「大丈夫さ。」

兄「……そうか、悪かったな。」

兄はズッシリした大きなカバンを背負うと部屋を出ていった。

サエキ『俺は大丈夫。誰の迷惑にもならない道で夢を叶えるんだ!』

サエキは付箋だらけの赤本を開いた。


学校の次の授業の合間の休憩時間、ヌキナがサエキのところに来た。

ヌキナ「ねぇ、サエキ君はパパ活知ってる?」

サエキは持っていた単語帳を落とした。

サエキ「え!しっ、知ってます、けど?」

ヌキナは単語帳を拾った。その時にパンツがチラっと見えた。サエキは生ツバを飲んだ。

サエキ『うわぁ、土手……』

ヌキナ「それをやってる生徒達が全身ミミズ腫れになる怪事件が起きてるらしいのよ。」

サエキ「あ~、ヌキナさんはそれをソッカーの仕業じゃないかと?」

ヌキナ「そうなの。だから、今度、囮捜査をしようと思って……」

サエキ「危険だ!」サエキは驚いて声を荒げた。

周りにいた他の生徒たちの視線が集まる。

ヌキナは指を立てて小さい声で続けた。

ヌキナ『私ならナンマイダーになれるし、もし、時間停止になってもブレスレットで動けるじゃない?』

サエキもそのトーンに合わせた。

サエキ『ひとりじゃ危ないって!』

ヌキナ『鈍チンだなぁ、だから一緒について来てってお願いしてるんじゃない。』

サエキ『……え?』


ヌキナ「ブルセラでセールしてたやつだけど、ピッタリね。」

サエキ「そ、そう?」サエキは三つ編み丸メガネで地味女子の変装をしていた。サエキはまんざらでもないのか、指でカツラの三つ編み部分をイジっている。

ヌキナ「そろそろ、パパ活おじさんとの待ち合わせ時間よ。準備はいい?」

一応、ワカマツにも声をかけたが女装を嫌がって、今ここには居ない。が、サエキ達の見えない場所で見張っているはずである。

するとそこへ、ハゲ散らかした小太りのいかにもなオジサンが近寄ってきた。

オジサン「地味子ちょーすき。ナイスなチョイスですな!タエ殿!」

サエキ『……殿?』

サエキは近づく鼻息の荒いオジサンの脂ぎった顔にドン引きした。

ヌキナ「では、参りましょう?子ブタさん、案内しなさいな。」

オジサン「ブヒィ!おかのした!」

サエキ『コアなノリだ……』


サエキはラブホに入ったのは初めてだった。隣から聞こえる女性の艷やかな声にもガラス張りのお風呂にも驚いた。

オジサン「え!この子、男の娘でござるか!?」

サエキの後ろでヌキナの隣のオジサンが驚いてヌキナに詰め寄っている。

サエキ『?あれ?ばらした?どうして?』

オジサンの膨らんだ股間がじわぁっと濡れる。

ヌキナ「いいでしょ?」

オジサン「ありがとうございます!」

ヌキナはこの状況下にあって平然としている。場馴れしている?

サエキ『……演技だよな?』

……ゴゴゴゴゴ……

部屋に、入った時に感じていた重低音の音は、次第にはっきりと聞こえてきた。

サエキ「時間停止力場?!」

オジサン「ん?いいですな。そういうシチュエーション。」

ピキッ

オジサンが固まる。と、同時に部屋のドアからハカイソー達が何人も入ってくる。

ヌキナ「サエキ君!変身よ!」

サエキ「おう!」

合掌。ハカイソー達はお目当ての女子たちが動けるのを見て驚いて動けない。

ヌキナ「蓮の花!ニチレンピンク!」

サエキ「赤き海!クウカイレッド!」

そこへクラゲの怪人も入っていた。

ジャーイン「かかったな!ナンマイダー!アタシの名はジャーイン。これはお前らを誘い出す罠よ!」

サエキ『!?オカマキャラ?!』

通路の方でワカマツの声がする。

ワカマツ「2人とも無事か?!」

ジャーイン「む!挟み撃ち?!小癪な真似を!」

怪人はシンランブルーを押しのけるとラブホから走って外に出た。

ワカマツ「待て!」

ワカマツが怪人の後を追う、しかし、胸を誰かに撃たれて仰向けに地面に倒れた。部屋のハカイソー達を片付けたサエキ達が駆け寄りワカマツを起こした。

ヌキナ「大丈夫?!」

ワカマツ「スーツのおかげでな!なんとか!」

クラゲの怪人の隣にはラッパのような銃から煙をくゆらすタコ足の怪人が立っていた。

LTラストテスタメント卿「俺の名はラストテスタメント卿。やはり現れたか、ナンマイダー。ヌキナタエ、顔は覚えたぞ。」

ヌキナ「くっ!やられたわ!」

LT卿「てことは、そっちの青いのがワカマツグループの関係者か?まぁ、いずれ分かることよ。やれ、ジャーイン。」

ジャーイン「ウリィィィィ!」

ジャーインはナンマイダーに襲いかかってきた。

怪人はその触手で3人を圧倒する。

サエキ「ぐわ!いてぇ!」

触手に触ると電撃が走った。

ジャーイン「ハハハ !SMはお好きかな?!」

ワカマツ「皆、ドッコガンだ!ソイツから距離を取れ!」

3人はドッコガンで応戦するもジャーインは触手で受ける。一応、光線が当たった触手は無くなるが、直ぐにまた生えてきた。

ジャーイン「おほぉ!きくぅ!」

ジャーインは無数の触手を素早く伸ばしナンマイダー達を捕まえると触手に沿って電撃を放った。

ヌキナ「あぁ!」

ワカマツ「ぐわぁ!」

3人はたまらず地に膝をついた。

その時、どこからともなくフォックスが飛び込んできて、刀を持って3人に巻き付く触手を切った。

フォックス「大丈夫?!ひよっこ達!?」

サエキ「フォックス!」

ワカマツ「今のうちだ!皆、ニヨライバズーカだ!」

ヌキナ「あれ、完成してたの?!」

ナンマイダー「「「ニヨライバズーカ!」」」

3人は、それぞれに肩に担ぐ大きな筒を空間から持ち出した。

ジャーイン「ミョーオーキャノンじゃない!?」

怪人は三人が持つバズーカにたじろいだ。

サエキ「バックブラスト!」

サエキが後ろに誰も居ないことを確認する。

ナンマイダー「「「発射!!」」」

チュドーン!!

ジャーイン「ぎゃぁぁ!」

怪人は灰燼(カイジン)になった。

LT卿「ぬうぅ?!木っ端微塵だと?!これじゃ巨大化ができない!おのれ。ナンマイダー!」

LT卿は黒い息をナンマイダー達に吐きかけるとその場から消えた。ついでにフォックスの姿も見当たらなくなっていた。

時間停止が解除され、元の状態に戻っていく。

三人も変身が解けて元の姿に戻る。

サエキ「ニヨライバズーカ、すげーな。」

サエキは三つ編みをイジっている。

ワカマツ「削られたボサツマシンガンの予算をこっちに回してよかった。一発しか撃てないが、大した威力だ。」

ヌキナ「あ、オジサンどうするサエキ君。」

サエキ「え!逃げよーぜ!!?顔も見たくねーよ!」

ヌキナ「サエキ君、素質あるよ。」

サエキ「何のだよ!!?」

サエキは走ってその場を離れた。

後ろで、ヌキナとワカマツの笑い声がまだ明るい空に響いた。


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