タイトル未定2025/05/20 00:50
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カッターの刃が紙を切り裂き、勢い余って私の指に当たった。その瞬間、慌てて指を引っ込めたけれど、痛みはまるで感じなかった。不思議に思いながら指を見下ろすと、そこからは赤い血ではなく、青い液体が滲み出していた。
「えっ……なにこれ?」
青い液体は、まるで絵の具をこぼしたように手のひらを伝い始めていた。心臓がどんどん速くなる。これって、普通じゃない。私、人間だよね?なぜ青い液体が出ているの?
頭の中で警報が鳴り響き、手が震えだす。なんとか止血しようとティッシュで指を押さえたが、その青い液体は止まるどころか、さらに溢れ出してくる。一瞬、背筋に冷たいものが走った。
「私って、本当に人間なの?」
自分が人間じゃない可能性なんて、考えたこともなかった。でも、目の前で青い液体が証明している。これは夢か何かだと願いたかったけれど、指の感触は現実そのものだった。何か隠された事実があるのだろうか――もしこれがただの誤解や思い過ごしだったらいいのに、でも、青い液体が出ているのは紛れもない現実だ。
そのとき、ドアがバタンと開き、母がリビングから顔を出した。
「どうしたの、そんなに騒いで?」
震える指を見せながら、私は母に言った。「指を切ったんだけど、血が……青いんだよ!」
母は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに「ああ」と小さくため息をついた。そして笑みを浮かべながら近づいてきた。
「ごめんね、あなたにちゃんと話してなかったわね」
「話してなかったって……何を?」
母は私の肩に手を置き、少し申し訳なさそうな顔をした。「実はね、あなたは私たちの子供として作られたアンドロイドなのよ。人間じゃなくて、人造人間なの。」
「え……アンドロイド?」
信じられない思いで母を見つめた。アンドロイド?私が?でも、感情もあるし、記憶もある。友達だっていて、笑ったり泣いたりする。それなのに、私は人間じゃなかったなんて。
「あなたは最先端の技術を使って作られたの。私たちの愛情を込めて、人間と全く同じように育ててきたのよ」と母は優しく微笑んだ。「だから、あなたのことは何も変わらないわ。私たちはあなたを心から愛している。」
「でも……青い血って?」
母は少し困ったように笑った。「そうね、それはあなたが高度なナノテクノロジーで作られているからなのよ。この青い液体は、自己修復機能を持った特殊な冷却材なの。だから、切り傷なんてすぐに治るのよ。」
私はしばらくの間、言葉が出なかった。自分が人間じゃなく、アンドロイドだったなんて。でも、母の笑顔を見ると、少しだけ心が軽くなった気がした。何より、母の言葉は真実の愛情に溢れていた。
「じゃあ、私は……壊れたりしないの?」
母はくすっと笑った。「あなたがそんな簡単に壊れるわけないでしょう?あなたは私たちの大切な宝物なのよ。もっと自信を持ちなさい。」
私は青い液体を見つめ、深く息を吸った。そして、ふっと力を抜いて笑った。「なんだか、人生って面白いね。私、人間じゃなくてアンドロイドだったなんて。でも、まあ、それも悪くないかも。」
母も笑って頷いた。「そうよ。あなたはあなた。それだけで十分なのよ。」
青い血を滲ませながら、私はただ天井を見上げて深呼吸した。
そのとき、父がリビングから顔を出してきた。「おい、夕飯の準備はできたか?」
母は苦笑いしながら父に言った。「ちょっと待って、今、大事な話をしていたところなのよ。」
父は私の指を見て「ああ、冷却材が漏れてるじゃないか。まったく、君も『人間らしく』やりすぎるんだよな」と言ってウインクした。
母はそれに続けて「ああ、それにしてもまた修理費がかかるわね。家計が悲鳴を上げるわ」と冗談めかして笑った。
「ねえ、私の自己修復機能って、高くつくの?」と私は少し不安そうに尋ねると、母は「まあ、そうね。次のアップデートで料理機能も追加されるから、それで元を取ろうかしらね?」と返してきた。
父は大声で笑いながら、「そうだな、週末には一家全員でフライドチキンを君が揚げてくれることを期待してるぞ!」と言った。
私は呆れてため息をついたが、ふと笑いがこみ上げてきた。「本当に、なんだこれ……アンドロイドなのに、なんでこんな庶民的な問題で悩んでるんだろう。」