第82話 バディ
文字数:2489字
「二人は万が一に備え、ゲイルさんとガスさんをここで守ってくれ。それと馬たちもだ、頼むぞ」
俺は影の軍団を討ち滅ぼすため、再びサラを腕の中に抱くと、エミリーとカリンに二人の騎士達を託した。
「きゃっ! もうレインたら〜」
「「!!」」
甘ったるい声を口から漏らし、俺の首に抱きつく次期聖女様を見た途端、二人の女がプルプルと震え出す。
なぜ震えてるのか、エミリーとカリンに問いただそうとした俺に、サラがあっけらかんと言う。
「すごいよ、お姉さん達! そんなガクブルするくらい武者震いするなんて、素敵やん♪」
(そうか、流石だ。やはりエミリーとカリンは頼り甲斐がある)
サラの言葉を聞き、二人に感謝の意を伝えようとしたけれど、口を動かすことができなかった。
(…………)
なぜなら、俺の目の前に悪魔が如き顔をした聖騎士様と聖女様がいたから。
(あれ? めっちゃ怒ってね?)
そう思ったのも束の間、真なる悪魔がニチャアと笑いながら二人の女に囁く。
「ここで黙って見ていてくださいね。あたしとレインの華麗なるダンスを」
次期聖女に皮肉めいた言葉を投げかけられたエミリーとカリンが、怒り心頭の表情で拳を握り締めているとは露知らず、サラに質問するのだった。
「ダンス? どういう意味だ?」
「あはは、比喩だよ比喩。二人で力を合わせて忍者さん達をやっつけようって意味♪」
「へぇ、なかなかどうして言い得て妙だな」と異世界の比喩に感心してしまう。
サラ・アマガミは、その体から発するオーラで短刀を木っ端微塵にしていた二人の女に右手を掲げ、影の軍団との戦いに赴くべく満面の笑みを浮かべて言った。
「では行って参ります、お姉さん達。さぁ、レイン! 二人で忍者さん達をやっつけにいこう!」
それはまさしく合戦開始の合図となる。
「よし、いくぞ!」
微笑む黒髪の少女がスッと指を差し示すところに視線を合わせ、サラを腕の中に抱いて駆ける。
見えざる者、影の軍団を天に召すために。
♢♢♢
『ほら、アー君、始まるわよ! 美の化身たる妾と一緒に観戦しましょ♪』
『アフロディーテよ、何度言えば分かるのだ。余の名は略さずにアーサーと呼べ。それといきなり念話してくるな』
『うるっさいわね! 遥か遠い昔からの呼び名を今さら変えられるわけないでしょ! そんなことより、レインとサラの初めての合体に、妾は超ワクテカよ!』
『合体ではない、バディだ』
『ふ〜ん、バディねぇ。アー君があの森沢亮次に言った〈美しきバディ〉とやらはいったい誰なんでしょうね。本当にサラ? ねぇ、本当にサラ・アマガミ?』
『……それはいずれ分かる』
『ま、詮索しないでおいてあ・げ・る。ふふふ、カリンちゃんたら妾のことが大好きすぎて〈あ・げ・る〉口調を丸パクリなの。特許申請しておくべきだったわね』
『堕女神か……ふふふ、ナイスネーミングだ。あんなに笑ったのは玉木奏と倉木鷹也が圧死した時以来だった』
『愛情の裏返しなのよ、カリンちゃんはね……でもさ、ホント皮肉よね……その圧死した二人が今やこの世界、神界のラスボスか』
『…………』
『魔王よりも怖いのは、聖騎士エミリー・ファインズ。あの女こそ正真正銘のザ・ラスボスね。森沢亮次の記憶を覚醒阻害する〈天眼〉をモロ発動しちゃうんだもの。あれは一本取られた感じ?』
『別に……レイン・アッシュが最凶に至るために必要なことだ』
『あらまあ、手厳しいですこと……数奇な運命は複雑に絡まるものか……これからレインは大変だ、特にサラ・アマガミが完全覚醒したらね』
『アニー、アニー・アッシュか……ちっ、人間界の神め! 本当に余計なことをしてくれたもんだ!』
『そんなに怒りなさんな。人間界に転生して、それからこの神界に召喚される人なんて初じゃないの? まぁ、ある意味で〈She is back〉だけどね』
『……レイン・アッシュ、あいつには幾度となく困難な障害が立ちはだかる。だが、すべて乗り越えてもらう。この神界の救世主になる者として』
『なに格好つけてんのよ、アー君。今、お堅い話はナシのナシのナッシング! 楽しみましょ、レインとサラの合体プレイをね♪』
♢♢♢
相棒たるサラ・アマガミが指を差す場所。
そこに潜伏体術者がいる。
サムライスキルは相変わらず敵を探知できていない。
だけど、そんなの関係ないのだ。
この俺が影の軍団を見えなくても、サラが見えているのだから。
「レイン、速攻で決めちゃってね! あたし、オシッコしたいから!」
(……そうか、オシッコか、漏らしたら大変だもんな)
バディのご所望なので、できる限り期待に応えたいと思う。
紅く妖しく光る刀、妖刀ツバキを覚醒させるとサラが感嘆の声を上げた。
「うわっ、凄い綺麗!」
我が愛刀はアンデッドを天に召すため、真紅の輝きを増していく。
「サラ、一気に決める! 他の5人はどこだ?」
「そことあそこ! それとあそことそこ! ボスさんはあの木の枝の上!」
次期聖女様は手信号のように5人の位置を素早く指で差し示し、そして絶叫する。
「漏れちゃうよー! お兄さん!」
「ま、待て待て待って! 今すぐ敵を片づけるから! まだ漏らしちゃダメ!」
漏らすのが先か、敵を片づけるのが先か。
今からは時間との勝負になる。
ならば、ここは時の覇者となるのが吉だ。
そう判断した俺は〈唯我独尊〉を連続発動しながら、ハイドリアンである影の軍団に〈刃穿〉を繰り出すべく迅速の一文字斬りを放つ。
〘カッ!〙
その刹那、妖紅の六刃がアンデッド6人を寸分の狂いもなく捉えた。
【ぎゃぁぁぁあああ】
そこかしこから断末魔の叫びが聞こえてくる。
勝利を確信し、口角を上げる俺にサラが歓喜に満ちた顔で言う。
「やったね、レイン! 忍者さん6人の殲滅を確認! もう戦いは終わりだよ! オシッコ漏れちゃうから早く人気のないところに連れてって!」
「分かった! 漏らすなよ、絶対漏らすなよ!」
俺は〈唯我独尊〉と〈縮地〉を発動し、次期聖女様のオシッコする場所まで光の速さで駆けるのだった。
こうして、俺達二人はバディとして共に戦い、そして初陣を見事に飾る。
しかし、まだ戦いは終わっていなかった。
本当の戦いがこれから始まる。
女三人によるキャットファイトが今まさに開戦する。




