第81話 丸見え
文字数:2422字
戦況はまさに膠着状態にある。
だが、間違いなく不利な状況にあるのは俺達だろう。
カリン曰く、裏の王様の守護者である影の軍団。
そんな影の軍団はサムライスキルはもちろん、三聖のスキルでさえも探知することができない潜伏に特化した潜伏体術者で構成されている。
しかしだ、聖騎士スキルと聖女スキルがまったく探知できないほどのハイドなんてあるわけがない。
本当にそのような完全無欠のハイドがあるのならば、どうして魔王の眷属に成り下がっているのかって話だ。
ご自慢のハイドをあいつに看破されて負けたんだろ?
だから今、あいつの眷属になってんだろ?
その対価として三聖スキルが探知できないほどの完璧なハイドスキルを手に入れたんだ。あの魔術師メメルと同じく魔王に魂を売り渡して。
そして、影の軍団はアンデッドでもあるのだ。
だけど、今の俺ならアンデッドは討てる。
神の祝福を受けて覚醒した〈刃穿〉によって。
問題はハイドなんだ。
これさえ看破できれば、俺達の勝利は揺るがない。
♢♢♢
「どうするの、レイン? このままじゃ埒が明かないよ!」
エミリーの言うことはごもっともである。
影の軍団から攻撃を受けて半時は経つ。
こちらは現時点で打つ手なしだが、あちらは違う。
敵は何人いるのか不明だけれど、短刀が投げ放たれた箇所から推測すると、最低でも5人はいると思う。
こいつらは現状維持でも何ら問題ないはずだ。短刀の手持ちがなくなるまで投げつけていればいい。
そう、俺達が疲れ果てるまで。
影の軍団はアンデッドだ。不老不死となり食事や睡眠も不要となるし、疲労などという概念はないだろう。
しかしながら、俺達はスキル所持者とはいえ、生身の人間だ。お腹も減れば眠たくもなるし、疲れもする。
それこそ何日、何ヶ月と消耗戦ならぬ持久戦を仕掛けられたらたまったものではない。
エミリーじゃないが、一刻も早く埒を明けないとダメなんだ。
影の軍団が次なる一手を打つ前に。
♢♢♢
「くっ!」
〘カキンッ! カキンッ! カキンッ!〙
(そうくるよな……このリーダーは頭が切れる奴だ)
こちらがよろしくないと思う方に事が進んでいるなと思いながら素早く刀を縦、横、斜めと振り抜き、三本の短刀をことごとく弾き返す。
エミリーとカリンに視線を向けると、敵の短刀による攻撃が激しさを増していた。
(疲労度を上げる作戦か……じゃあ、次の一手はゲイルさんとガスさん、二頭の馬もこいつらの標的となる)
この場から少し離れた草むらで二人の騎士は横になり馬たちは草を食んでいた。
己の身を守りながら、他の者を守るのはかなりの神経と体力を持っていかれる。
その疲労度たるや計り知れないだろう。
嫌らしい作戦だが、理にかなっている。
勝負とは、強い者が勝つのではない、勝った者が強いのだから。
それならば!
そうなる前に、こちらから先手を打たせてもらう。
「エミリー、カリン! 二人はゲイルさんとガスさん、それに馬たちを守りにいくんだ! あとサラも頼むよ」
「「…………」」
三聖の二人の女はただ黙り込んでいた。この状況下において、きっと俺と同じことを考えていたに違いない。
「影の軍団の思惑にわざわざ俺達全員が乗ってやる必要はないだろ。エミリーとカリンに期待してるんだ。俺が凌いでいる間、奴等のハイドスキルを看破する術を必ず見つけてくれるってな」
エミリーとカリンは目を合わせると、お互いに無言で頷いた。
俺はありがとうの意味を込めて力強く頷くと、自分の胸に抱いていたサラに向かって諭すように言う。
「サラ、エミリーとカリンのところに行くんだ。二人のそばがこの世界で一番安全だからな」
「イヤ!」
「えっ?」
「あたしはレインと一緒がいい! 鬼婆の二人と一緒は死んでもイヤ。レインと一緒がいいの!」
「「は? 死ね、小娘!」」
つい先程まで穏やかな顔をしていたエミリーとカリンだったけど、サラの言葉を聞くや否や本日二回目となる鬼の形相に早変わりすると、今のこの状況ではちょっと洒落にならない言葉を吐き捨てた。
「お、おい、サラ……く、苦しい」
「絶対離れない! あたしはレインと一緒に戦う!」
そう言って俺の首に抱きつくサラを見た二人の女は、体から激しくオーラを発する。
このオーラは異様なくらい膨れ上がると、エミリーとカリンに投擲された10本の短刀を木っ端微塵に破壊したのだった。
鬼の形相で睨みつける二人の女など眼中にないのか、サラが明るい声で俺に語りかける。
「レインは敵が見えなくて困ってるんでしょ?」
「ああ、そうだ」
「フフン、それなら、あたしと一緒に戦うべきだよ! だって、天神沙羅は敵の姿が丸見えだからね♪」
「「「!!!」」」
サラが言った言葉に俺達三人は絶句する。
影の軍団の姿が、魔王の眷属となったハイドリアンの姿が、三聖のスキルでさえ探知できないハイドスキルを発動している敵の姿が、丸見えと言ったのだ。
「ほ、本当に見えるのか、サラ?」
「こんな状況で嘘を言ってもしょうがないでしょ! あ、今回の人達はちゃんと服を着てるから良かったよ。フルフロンタルはもうマジ勘弁だもん。でも、びっくりしちゃったよ、この世界にも忍者っているんだね」
「ニ、ニンジャ? 何だ、それ?」
「あー、忍者って言わないのかな。えっーとね、みんな白装束を着てて、目出し帽を被ってる。超忍者っぽくて草生えたもん」
「……そ、それで敵は何人いる?」
「6人だね。5人はちょこちょこ動き回ってるけど、ボスさんは……ほら、あの木の上で偉そうに胡座をかいてるよ。あっ! 今ね、あたしが指差したら、驚いて木から落っこちた」
〘ドシャンッ!〙
「……今の音は、そのボスが木から落ちた音か?」
「だね♪」
フフフ、勝てる、勝てるぞ。
サラがいれば、俺とサラが力を合わせれば、影の軍団に勝てる。
見てろよ、魔王。
今から俺とサラがお前の眷属を天に召させてやる。
「よし、サラ! 二人で一緒に敵をやっつけるぞ!」
「うん!」
俺と相棒のサラ・アマガミによる初仕事、影の軍団の討伐が今この瞬間から始まるのだった。




