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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第79話 見えざる者

文字数:2098字

 お兄さん。


 ううん、レインがほとほと困り果てている。


 あたしの()()()を困らせているのは二人の女だ。


 黒髪の鬼婆こと、エミリー・ファインズ。


 そして、もう一人。


 白銀髪の鬼婆こと、カリン・リーズ。


 やっぱり第一印象って、とても大事なんだなと改めて痛感させられた。


 鬼婆達の第一印象は超最悪。


 黒髪の鬼婆はあたしを見るなり、「誰? その女?」だよ?


 こっちが〈あんたは誰よ?〉って感じ。


 でも、凄く綺麗な人でびっくりしたのも事実。こんな綺麗な人がこの世に存在するんだと思ったくらい。ま、あたしには遠く及ばないんだけどね♪


 レインを初めて目にした時と同じく、この黒髪の鬼婆を見た瞬間に思った。


 あっ、日本人だ! ってね。


 だけど、黒髪黒目の男と女は自分のことを日本人だと認識してないみたい。


 あー、ちょっと違うか。


 エミリー・ファインズは分かってるっぽいよね。


 あたしを見た時の驚きに満ちた顔が物語ってるもん。


 〈どうして日本人がここにいるのよ!?〉


 それが原因なのかどうかイマイチ確信が持てないけれど、身の危険を感じるほどの敵意を凌ぐ殺意を感じた。


 それでも、怖いとかまったく思わない。


 だって、だってぇ〜、あたしの王子様が守ってくれるはずだからね。


 ……そんな素敵なマイダーリンを困らせるもう一人の鬼婆が忽然(こつぜん)と姿を現すんだ。


 白銀の長い髪をバサァっと振り乱しながら、あたしに向かって開口一番に物申したの。


「誰が何と言おうと、聖女はわたしよ!」


 んなこと知るかバカ! って感じだよね。


 白銀髪の鬼婆はあたしに敵意剥き出しなの。不思議と殺意はなく、あくまで敵意だけだった。


 この人もこの人で凄く綺麗な人。黒髪の鬼婆と同等かそれ以上の容姿なのだ。ま、あたしには遠く及ばないんだけどね♪


 それはそうと、この場にいた全員がびっくりすることがあった。なんとなんと、目の前に立つ鬼の神があたしの名前を知っていたのだ。


 これには一同驚きを隠せなかったな。


 100%初対面の人にいきなり「サラ・アマガミ」って勝ち誇った顔で言われたらさ、驚きのあまりスプーンの一つも本気と書いてマジ地面に落とすよ。


 けれど、一番驚いていたのは間違いなく王子様。すぐさま鬼神さんに聞き返していたもん。


 まぁ、言った張本人がプイっと顔を逸らしてレインの質問をフルシカトしていたけど。


 なんだかなぁ~って感じだよねホント。


 どうやら白銀髪の鬼婆がこの世界の聖女様らしい。


 レイン達の話の流れからそのことを知ったあたしは、ただただ首を傾げるばかり。


 何の根拠もなかったけれど、それは間違ってるでしょと思った。


 なぜなら、この世界の聖女なる人物は。


 ――天神沙羅、あたしなのだから。


 そんなこんながあって、黒髪の鬼婆&白銀髪の鬼婆の第一印象はとにかく最悪極まりない。おまけにあたしの王子様レインを困らせているので、輪をかけて酷くなる一方だ。


 二人の女の言動を見聞きする限り、あたしとレインがファーストネームで呼び合ってるのが大層気に入らないみたい。


 くだらない! っと一蹴はしないよ。


 好きな男が別の女と仲良くしていて、出会ったその日からファーストネームで呼び合っていたら、面白くないもんね。


 その鬱憤を晴らすべく、ムカつく女に攻撃を仕掛けるのも頷ける。


 つまりそういうことでしょ?


 エミリー・ファインズさんにカリン・リーズさん。


 二人の想い人はレイン・アッシュであり、黒髪の鬼婆と白銀髪の鬼婆は恋のライバル。


 そこに突如として第三の女が登場してきた。


 そう、このあたしだ。


 ……あはは、超ウケる!


 この異世界の地で恋愛モノの王道であるコッテコテのありがちな展開があるわけないじゃん。


 なんて、言わないよ。


 まさにその通りの展開だからね。天神沙羅は第三の女にしてレイン・アッシュに一目惚れした女。


 鬼婆らより出遅れた感は否めないけれども、超綺麗なあ・た・しが必ず追いつき追い越してあげる。  


 鬼婆のお二人さん♪


♢♢♢


「おい、カリン! ちゃんと答えてくれよ、大事なことなんだ!」


 「ダメガミ、ダメガミ」と意味不明な言葉をブツブツ言いながら、頭を掻きむしっている聖女様に再び答えを求めると、やっと我に返ったのか特異な言動はピタリと止まる。


 それはそれで良かったが、おあとがよろしくない。


「イヤ、教えてあげない」


 そう言うとまたしてもそっぽを向いてしまったのだ。


 今の理解しがたい状況を打破するため、幼馴染に助けを求めるべく目を向けてみたけど、サラに睨みを利かせ微動だにしない。


「はぁ……」


 ため息を一つしてから次期聖女ならもしかしてと思いありったけの期待を込めて視線を移してみたが、地面に落っこちたスプーンをせっせと拭いている始末。


「…………」


 そっぽを向く女、睨みを利かす女、それからスプーンを拭く女。


「わけわからん」


 夜の闇を優しく照らす篝火(かがりび)を眺めながら、この危険な三角地帯から無事抜け出すにはどうするのが最善かなと考えていた時だ。


 しんと静まり返る宵の刻。


 見えざる者の手によって、鈍く光る銀色の短刀が音もなく投げ放たれた。


 その刃が向かう先は聖女カリン・リーズ。


「カリン!」


 俺の叫声が静寂な夜を切り裂くように響き渡る。


 

 かくして、影の軍団との戦いの幕が切って落とされたのだった。



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