第77話 勢揃い
文字数:2381字
郷に入っては郷に従え。
こんなことわざが世にはあるけど、まさにこの世界で先人の教えを実践しているアマガミ・サラがいた。
彼女がいた世界とは何から何まで違うであろう異世界にいきなり召喚されたのである。
異界の地に目新しさはあれど、生活環境や習慣などに戸惑い、そして不平不満を感じることだろう。
その結果、サラが慣れ親しんで住んでいた世界にある故郷とも言うべき〈ニホン〉に帰りたいと思うはず。
そんな俺の心配などどこ吹く風で、当の本人ときたら今いるこの地が自分のいるべき世界だと言わんばかりにびっくりするくらい馴染んでいる。
サラ・アマガミとアマガミ・サラ。
はたして、いったいどちらが彼女にとって幸せなのかと考えさせられる。
いや、それだけじゃない。
この闇に覆われた世界にサラがいることは是なのか、それとも非なのか。
考えれば考えるほど、答えを出すことができない。
だけど、一つだけ明確に答えを出すことができる。
ゲイルさんとガスさんに手綱を引いてもらいながら、初めての乗馬が楽しくてはしゃいでいる黒髪の少女。
サラ・アマガミとアマガミ・サラという二面性を持つ彼女が、いつか自分の意思でどちらかを選ぶその日までレイン・アッシュが見守ろうと思う。
それが君の相棒として、この俺に課せられ責任であり義務なのだから。
♢♢♢
勇者ジーク・カスターは言った。
お前は〈ニホンジン〉だと。
次期聖女様は言った。
お兄さんは〈ニホンジン〉だと。
二人の話を総合すると、どうやら俺は〈ニホンジン〉に見えるらしい。
アマガミ・サラが思いの丈を吐露していた時、数々の聞き慣れぬ言葉を耳にする。
〈ニホン〉、〈ニホンゴ〉、〈ニホントウ〉、最後に勇者も言っていた〈ニホンジン〉だ。
レイン・アッシュは黒髪の少女と違い、別の世界からこの世界に召喚などされてはいない。このガリア大陸の最南端の地にて生まれ育った人間である。
決して〈ニホンジン〉なる者ではないと断言できる。
しかし、勇者とアマガミ・サラは〈ニホンジン〉だと言ったのだ。
訳が分からないけれど、心の奥底で妙に納得しているところがあった。
そう、俺は間違いなく日本人だと。
♢♢♢
「私はエミリー、エミリー・ファインズだよ。さっきは大人気なくて本当にごめんね。恥ずかしいところを見せちゃったかな……それとおこちゃま呼ばわりしたことを謝罪する。短い間だと思うけど、仲良くしましょうね」
「いいえ、全然気にしてないです。あっ、えと、あたしはアマガミ・サラです。こちらこそ大変失礼しました。目上の人におもいっきりおばちゃまと言ってしまって。絶対に言っちゃいけない禁句、スーパータブーを犯してしまったことを超反省してます」
「……私は18才になったばかりなんだけどな、ははは」
「あっ、そうなんですね。あたしは一昨日、ピチピチの16才になったばかりなんです、えへへ」
「それ、もう聞いた」
「はい、とっても大事なことだから二回言いました」
〘ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ〙
「「レ、レイン殿〜」」
ゲイルさんとガスさんがエミリーとサラのただならぬ雰囲気を察すると、俺のローブをグイグイと引っ張り、早く何とかしろと催促してくる。
「……はい、何とかします」
二人の騎士の要望に応えるべく、口喧嘩寸前の聖騎士と次期聖女を仲裁するため、泣く泣く歩を進めていく。
(まったく、どうしてこうなるかなぁ。仲良くとまでは言わないけどさ、普通に接することができない輩なのか)
既視感が半端ないなと思いながら、エミリーとサラの間に割って入ると、激しく睨み合う二人の女を諌めた。
「おい、二人ともいい加減にしろ。サラにはまだ詳しい状況説明はしてないが、ここは危険地帯なんだ。ほんのちょっとの油断で命取りになりかねない場所だ。みんなの気持ちをひとつにし、力を合わせて事に当たる必要がある。エミリーもエミリーだ。俺にちゃんと自己紹介をするから心配しないでと言ってたのに、何で皮肉めいたことを言うんだよ。エミリーは年下の扱いが上手だったはずだろ? サラは見知らぬ世界で右も左も分からないんだから、年上のエミリーがお姉さんらしく色々教えてあげてくれ」
「「…………」」
(まるでエミリーとカリンの仲違いを仲裁してるような既視感を覚えるよ……まさか、エミリー、カリン、サラが勢揃いしたら、これより状況が悪化するとか勘弁してくれよな)
ふと、そんな悪夢を思い浮かべ身震いした俺は、気を取り直してエミリーとサラに言う。
「はい、二人とも握手して挨拶する! ほら、早く握手して挨拶しなさい!」
こうして、エミリー・ファインズとアマガミ・サラは握手を交わし、まともな挨拶をするのだった。
♢♢♢
サムライスキルにも聖騎士スキルにも特に異常な反応はなかった。
とはいうものの、生きる屍、アンデッド254人の反応はある。
しかしながら、奴等がどこかに向かって移動を始めることはなく駐屯地に留まっていたので、特に異常な反応はないという意味になる。
とりあえず、今いる場所で野営をし、今後どうするかを話し合うことになった。
アマガミ・サラ曰く、この世界特有の〈双子の太陽〉は西にゆっくり沈み、そして夜の帳が下りる。
「召し上がれっすよ」
「「「「いただきます」」」」
ガスさんが、サラちゃん歓迎会と銘打っていつもより豪華な食事を振る舞ってくれた。
美味しい料理に舌鼓を打ち、和気あいあいと歓迎会は滞りなく進んでいく。
あの女が訪れるまでは。
〘バッ〙
大聖堂から〈転移魔法〉を発動し、俺達の前にその姿を現す聖女カリン・リーズ。
白いローブを身に纏い、白銀の美しい髪を靡かせ……もとい振り乱しながら現れるや否や、これまたエミリーと同じく鬼の形相で開口一番に言う。
「誰が何と言おうと、聖女はわたしよ!」
――女三人寄れば姦しい。
エミリー、カリン、サラの女三人が、この地で初めて勢揃いする。
それはまさしく悪夢の始まりだった。




