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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第76話 日本人

文字数:2297字

 俺とエミリーは今、簡易テーブルに向かい合って椅子に座っている。


 それはもちろん、二人で紅茶を飲みながら話し合いをするために他ならない。


 本当に一時はどうなることかと肝を冷やした。


 黄金色(こがねいろ)のオーラが天を突き、エミリーの標的がサラ・アマガミから俺に変わった瞬間だった。


 無邪気に笑う次期聖女様をよそにして、身振り手振りを最大限駆使して鬼の形相の幼馴染を必死に説得する。


 半時ほど費やし、やっと聖剣と神剣を鞘に納めさせることに成功するが、その表情は鬼の形相のまま。


 さらに半時を費やし、サラをお姫様抱っこした理由をこと詳細に説明、そして神に誓っておパンツを丸見えにするためではなく、エミリー達の元へ一秒でも早く帰るために「飛ばすぞ」と言ったのだと、口が酸っぱくなるほど何度も説明した。


 かくして、俺の血の滲む努力の甲斐あって、鬼の形相から仏頂面になるまでにV字回復が如くエミリーの怒りを鎮めることに成功するのだった。


♢♢♢


「――というわけだ」


「…………うん、まぁだいたい話は分かった。レインはあの子、サラ・アマガミの話を信じるわけ?」


「ああ」


 俺はここに至るまでの経緯をエミリーに説明した。

 

 だが、すべてを話したわけではない。


 次期聖女にして真なる聖女スキル所持者がサラ・アマガミであり、レイン・アッシュの相棒たる女。


 これは流石に俺の独断で話すことはできない。


 聖女カリンにこの件を確認した上で、他言しても問題ないと言質(げんち)を取らない限り、エミリーだけでなく誰にも話せないだろう。


 そして、何よりも肝心なことがある。


 この世界に召喚されたアマガミ・サラは、幸か不幸かサラ・アマガミの聖女としての記憶がない。


 召喚前の聖女の記憶が戻るのか戻らないのか定かではないので、次期聖女の件は教会総本山の機密事項になると思う。


 そんなことを考えながら、サラに視線を向ける。


 持ち前の底抜けに明るい性格が功を奏し、ゲイルさんとガスさんとすっかり打ち解けて仲良くなった彼女は、楽しそうに笑みを浮かべて二頭の馬と(たわむ)れていた。


(サラ、君が楽しそうで何よりだ)


 笑顔の俺をじっと見つめていた幼馴染は、フルフルと左右に首を振りながら語りかけてきた。


 そう、まるで俺を諭すように。


「ねぇ、レイン、よく聞いて。あの子の話はあまりにも現実離れしすぎてる。別の世界にあるニホンという国に住んでて、気づいたらこの世界にいたって……信じられないし、あり得ない。それにレインのことを自分と同じニホンジンだって言ったんでしょ? 何よ、ニホンジンって……確かにどうしてここにいたのかは謎だけれど、たぶん中央の人で幸運にも生き延びられたんだよ。あの惨状を()の当たりにしたから、頭が少しおかしくなってしまったんじゃない? 私はあの子を東部にある診療所に預けるのがいいと思う。そう思わない?」


「思わない」


「えっ!」


 エミリーが思っていたのと違う予想外の俺の返答に、思わず声が出てしまったのだろう。


 俺はアマガミ・サラの思いの丈を聞いたのだ。途方に暮れて大粒の涙を流し泣く姿を見たのだ。


 あの悲しげな彼女を見た者なら、きっと今の俺と同じ返答をするはずだし、次のような言葉を確固たる決意で紡いでいくはず。


「アマガミ・サラのいるべき場所は俺が決める。これは決定事項で誰の指図も受けない」


♢♢♢


 サラ・アマガミ、アマガミ・サラ、アマガミサラか。


 アマガミサラって漢字でどう書くのかな?


 まぁ、そんなの本人に聞けるわけないよね。


 私は日本人だと言ってるようなものだから。


 …………ちっ、面倒な女が現れた。


 ああ、これは正確な表現じゃないね。


 面倒な女が日本から召喚されてきた。


 よりにもよって私とレインが転生した世界に、()の地に召喚されてくるなんて。


 ふふふ、本当にまさかまさかだよねぇ。


 この地に玉木奏と森沢亮次、アマガミサラの日本人が3人もいるなんて考えただけで笑っちゃう。


 これは偶然なのか必然なのか分からない。


 でも、必然なんだと思う。


 アマガミ・サラを初めて目にした時、私の心臓が数秒ほど止まった。


 黒髪のお姫様カットにつぶらな黒い瞳、そして郷愁を誘うセーラー服。


 もしも、レインが森沢亮次の記憶を持ち合わせていたのなら、私と同じことを思ったはずだ。


 ――日本人。


 愛しき人の説明を聞くと、いきなり日本からこの世界に召喚されてきたようだ。はたしてアマガミサラが召喚されてきた理由は何かしらあるのか?


 いや、理由はある。


 レインはすべてを私に話していない。何かとても重要なことを隠している。


 それが何なのか。


 まったく分からないが、いずれ知ることになるだろうし、レインに探りを入れるのは得策じゃないもんね。


 今はこのまま時の流れに身を任せよう。


 だけど、問題が一つだけある。


 それはマヌケ女こと、アマガミサラ。


 同じ黒髪黒目の私と愛しき人にあーだこーだと言ってくる可能性が大だな。


 日本ガー、日本人ガーっとね。


 あれ? よく考えたら全然問題じゃなくて草生えた!


 だって、私は知らぬ存ぜぬを決め込むだけ。


 レインは………。


 ……ふふふ、ホントに〈天眼〉様々って感じ。


 アマガミサラが日本だの日本人だのと言ったところで、愛しき人は森沢亮次の記憶がないから「はぁ?」で訳が分からず終わるだけ。


 どうぞご勝手に一人で好きなだけお騒ぎくださいませって感じ。


 ……あー、あの光景を思い出したら、マジで死ぬほどムカついてきた。


 私のレインにお姫様抱っこしてもらっただけじゃなくあろうことか抱きついたのは絶対に許せない。


 あーあ、また一つ仕事が増えちゃったよ。


 マヌケ女を亡き者にする仕事がさ。


 カリン・リーズとアマガミサラは邪魔な存在。


 私が必ずあの世へ葬送してあげる。


 首を洗って待っててね。



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