第75話 同族嫌悪
文字数:2270字
「誰? その女?」
俺とサラ・アマガミを見た瞬間、あからさまに不機嫌な声でそう言い放ったのはエミリー・ファインズ。
ゲイルさんとガスさんをまるで己の子分が如く従え、どんと構えて立つ姿は裏社会を牛耳る女首魁のようだ。
鮮やかに光り輝く白銀の鎧を身に纏い、真紅のマントを靡かせながら、腕を組んで睨みを利かせていた幼馴染に向かって、俺は半ば呆れて言葉をかける。
「誰って、この子は生存者だよ」
「見れば分かるよ! どうしてレインが生存者をお姫様抱っこしてるの? 意味が分からない、まったく意味が分からないから!」
無意識なのかどうかは分からないけれど、エミリーの体から黄金色のオーラが滲み出す。
聖騎士が放つ殺人的なオーラを間近で受けたら、今のサラ・アマガミを始めゲイルさんとガスさんはたまったものではない。
現に、二人の騎士はふらつき、次期聖女様は俺に抱きつく始末。
そんなサラ・アマガミを目にしたエミリーの眉がひくつき出す。
次の瞬間、聖騎士が次期聖女を一喝する。
「そこの女! レインから離れなさいよ!」
「絶対イヤ! レインから離れない!」
「お、おい、苦しいよ、サラ」
この瞬間、エミリーの感情が大爆発してしまう。
「は? レイン〜? サラ〜? こんな短時間のうちにお互いをファーストネームで呼び合うような仲になったわけ? この小娘! アッシュさんでしょ! レインもレインで馴れ馴れしいんじゃないの? サラなんて鼻の下をべろ〜んって伸ばしながら、おこちゃまを呼び捨てにするなんてさ!」
「おこちゃまじゃないから! ピチピチのピッチピチの弾けるスーパープリティガールの16才で〜す! おばちゃまさん♪」
――同族嫌悪。
確かこんな言葉があったと思う。
初対面であるはずのエミリーとサラがお互いに強烈な嫌悪感を抱き、揉め始めてしまったのだ。
もう言わずもがな、聖騎士は黄金色のオーラを惜しげもなく体から放つと、黒き双剣の柄に手をかける。
「殺す、殺してやる、小娘」
殺意に満ちた声を腹の底から絞り出すと同時に、聖剣と神剣を目にも止まらぬ速さで鞘から抜き去り、二本の剣を十字にして構える。
(あっ、これガチの聖騎士だ)
そう、俺は幾度となく聖騎士エミリー・ファインズの戦いを目にしている。
その体から激しくオーラを迸らせて、十字架の如く双剣を構える時は本気の戦闘モード。まさしく敵を容赦なく斬り捨てる聖騎士の戦いの型なのだ。
(バカ野郎、いくら何でもガチ切れし過ぎだろ)
サムライスキルには、三聖スキルのような戦闘オーラはない。
聖騎士スキルは黄金色のオーラ、聖女スキルは白銀色のオーラ、そしてほぼ間違いなくあるであろう聖堂騎士スキルのオーラ。
俺は三聖みたいなオーラを発現できないが、いわゆる気、覇気を放つことはできる。覇気と大げさな言い方をしてるけど、要するに気合いだ。
今、この気合いたる覇気を放ちながら、エミリーの黄金色のオーラから身を守っている。
ふとエミリーの後ろで控えていた二人の騎士に視線を走らせると、地面に倒れて悶絶していた。そんな二人の姿を目にし、流石にこれは冗談で済まされる状況でないと思い知らされた。
今回の事の発端は紛れもなくエミリーだ。
俺に説明を求めるわけでもなく、端から喧嘩腰で言葉による攻撃を仕掛けてきた。サラもサラで活火山状態のエミリーを煽るもんだから、大噴火して今の最悪な状況に陥ってしまっている。
エミリー・ファインズとカリン・リーズの殺し合いを経て、苦労して何とか言い争いのレベルに収めているがサラ・アマガミという導火線の登場により、俺の為したことがすべてご破算になるんじゃないかと想像すると、涙が溢れ出そうだ。
だけど、今はそんなことを考えている場合ではない。
敵地の最前線にいると言っても過言ではない状況で、この争いごとは大変よろしくないからだ。
ゲイルさんとガスさんの体も心配なので、一刻も早く事態の収拾を図る。
それには、まず聖騎士様から攻略しなければならないだろう。エミリーが大人の対応さえしていれば、此度のくだらない諍いは起こらなかったのだから。
俺は幼馴染と話し合いをするため、サラ・アマガミを地面に降ろすと両手を広げて言う。
「どうしたんだよ。何でお前はそんなにカリカリしてるんだ? 何があったのかすべて説明するから二人っきりで話そう。あっ、そうだ、エミリーが淹れた紅茶が飲みたいな。お茶しながら、ゆっくり説明させてくれないか?」
(フフフ、また勝った。負けを知りたいよ)
俺は心の中でほくそ笑む。
幼き頃から付き合いがある幼馴染、どこをどう突けばいいかなど手に取るように分かる。
その証拠に敵意剥き出しで激しく迸っていたエミリーのオーラが、明らかに弱まっていくのが見て取れた。
体の真正面に構えていた十字架の双剣を少しだけ横に動かし、俺の顔を見据えて幼馴染は言う。
「……二人っきりでお茶しながら、ホントに全部嘘偽りなく話してくれるの?」
「当たり前だろ、何も疚しいことなんてないからな」
「うん、いいよ、分かった」
(よし!)
難敵エミリー・ファインズを攻略した俺が、まさに勝鬨を上げようとした時だった。
失念していたのだ。
いつもと状況が違うことを。
この場にもう一人の難敵がいたことをだ。
「レインって超助平なんだよ? そんなに速く走ったらパンツ見えちゃうって言ってるのにさ、もっと飛ばすぞって言って、あたしのおパンツ丸見えにするんだもん」
〘ゴアッ!!!〙
初めて目にする聖騎士のガチのガチの黄金色のオーラが、天を突くが如く迸っていく。
こうして、俺は絶体絶命の窮地に立たされたのだ。
無邪気に笑うサラ・アマガミによって。




