幕間 師匠と弟子
文字数:2079字
お昼時の大聖堂。
数多くいる聖職者や騎士が昼食を食べるため、食堂に向かう。昨日までのわたしならば、同じく食堂に行ってお気に入りの席で昼食を食べていただろう。
だけど、今日は違う。
いかつい顔した枢機卿が甲斐甲斐しく世話をしている花たちの住処、それは裏庭にある花壇だ。
そう、わたしは誰もいない裏庭に立っていた。
まったく! あの女と念話してからというものマジで碌なことがない!
得体の知れないサラ・アマガミが愛しの人の相棒?
はん! そんなの天が認めてもわたしが認めない!
このわたしが〈聖女の託宣〉によってサムライスキルを覚醒させ、そして刀を顕現したのだ。
救世主たる一人の男のために。
聖女カリン・リーズがね!
夜まで待てない! 今からレインの元へ飛ぶ!
今まさに愛しの人のところへ向かうべく〈転移魔法〉を発動させようとした時、強烈なノイズが頭の中で響き渡る。
(……また? もう勘弁してよ)
『みんなのアイドル! 美の化身たる女神様! ここに見参なり♪』
(今、忙しいから貴女と念話してる暇はない)
『あらあら大変♪ カリンちゃんったらカリカリしちゃって……でも、今はレインのところに行かせないよ』
(は? そんなのわたしの自由でしょ? 女神様に指図される謂れはない)
『あるよ。妾は師匠、カリンは弟子なんだから。弟子は師匠に従うのが世の常』
(わたしは聖女のままがいい! 女神なんてイヤ!)
『わがまま言わないの、カリン。クラスチェンジは決定事項よ。真なる聖女スキル所持者であるサラ・アマガミが神界に来た瞬間からね』
(ふん、笑っちゃうよね。そんないつ来るか分からないような女が真なる聖女スキル所持者?)
『もう来てるわよ、サラ・アマガミ。只今、レイン君とご対面中だもん♪ だ・か・ら、おじゃま虫のカリンは夕方までここで[ハウス!]してなさい』
(……えっ? ……もう来てる? ……サラ・アマガミが? ……イヤ! イヤだ! レインはわたしの、聖女カリン・リーズのものだ! 今から行くよ、レイン! レインの元へ! ……あれ? 何で〈転移魔法〉が発動しないの? レインの元へ! 何でよ、何で発動しないのよ!)
『うふふふ、カリンの〈転移魔法〉が発動しない理由は二つ。一つはサラ・アマガミがこの神界に来たからね。もう一つ、最大の理由はクラスチェンジ、女神スキルの師匠である妾が、弟子のカリンちゃんに介入したからよ♪』
(な、何ですって! マジムカつく〜! バカ女神! クソ女神! アホ女神! マヌケ女神!)
『妾はこの神界のため、ひいてはカリンために存在しているのよ。それに此度のクラスチェンジはレインの身を救うことにもなるわ』
(レ、レインの身を救う!? どういうことよ? 早く言いなさいよ!)
『相変わらずレインの話になると食いつきがいいわね。それでは、師匠の妾が弟子カリンに教えてしんぜよう。聖女カリンが顕現した刀は不完全な出来栄え』
(……えっ?)
『流石、己のことは己が一番良く知っているだけあって白銀の聖杖は素晴らしい出来栄え。片や、聖女カリンがレイン・アッシュという男をイメージして顕現した刀は悲しいかな贋作』
(贋作!?)
『それはなぜか? 腰掛けの聖女様は日本刀なるものを知らない。知らないものをイメージしたところで真作を顕現できるわけがない。刀とは、それ即ち日本刀なり』
(……真なる聖女スキル所持者サラ・アマガミなら真作の日本刀を顕現できるって言いたいの?)
『できる! サラ・アマガミは人間界、日本刀発祥の地〈日本〉から来たる者だからだ。これから戦いは激しくなる一方だ。いずれ贋作の刀は砕け散るだろう。そう、真作の日本刀こそがレインの身を救うことになる』
(……そうなんだ)
『カリン・リーズは女神スキル所持者となりて、神界の守護者になりなさい。お前の想い人もきっとそれを望むであろう』
(うん)
『やっと理解してくれて嬉しいよ。こんな真剣モードの妾は超久しぶりだ。カリンよ、それでは女神スキルへのクラスチェンジの話を――』
(イヤ)
『へ?』
(それでもイヤなものはイヤ!)
『なんと! この強情娘! はぁー、ガチのガチガチで妾はプンプンプーンのプーンよ! もう怒ったついでに心に秘めた思いをとろっとろの吐露しちゃうんだからね!』
(何よ?)
『知りたい? 知りたいの〜?』
(別に)
『聞けや、ボケ〜! サラ・アマガミは神界へお呼ばれ途中に聖女の記憶がすべてすっ飛んじゃったみたい! それを知った時、思わず乾いた笑いが出たわよ、はははってね。 次から次へと問題だらけで妾は円形脱毛症を発症しそう! というわけで、カリンがサラ・アマガミの面倒を見なさい!』
(イヤよ!)
『あれもイヤ、これもイヤとわがままばかり言って! お母さんはあなたをそんな風に育てた覚えはありませんよ! 妾はこれから妾探しの旅に出るので絶対探さないでください! いいかしら? カリン・リーズが師匠でサラ・アマガミは弟子よ! ホントにちゃんとしないと魔王にやられちゃうんだから! あと、夕方まで〈転移魔法〉を発動できないように鍵をかけておいたわよ♪ それじゃ、よろしくね〜♪ バイバイバイのバーイよ、カリンちゃん!』
(二度と帰ってくんな、堕女神!)




