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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第70話 嵐の後に

文字数:2451字

「私! 私がやるんです!」


「わたしよ! わたしがやるの!」


(…………)


「レインは私の膝枕の方がいいはずです!」


「は? それはないね! レインはわたしの膝枕の方がいいはずだから!」


(…………夢……夢だよな? ……夢であってくれ……お願い! お願いします、神様! ……また、いつものエミリーとカリンの言い争いが聞こえるんです………)


「聖女様、本当に勘弁してください! いきなり昨日の朝、それから性懲りもなく夜まで来たと思ったら、今日の夜もですか?」


「悪い? ちゃんと昼間にお仕事してきました! 今はわたしのプライベートな時間よ! 聖騎士様にとやかく言われる筋合いはないから!」


(……ははは、現実確定かよ……ったく、本当に誰でもいいから、エミリーとカリンの言い争いを収めるための仲裁役を担当してくれよ。目に浮かぶわ、ゲイルさんとガスさんが二人の横であたふたしてる姿が。あー、俺が起きて仲裁するしかないな、おちおち寝てもいられないのか……あれ? 寝てる? 昨日の夜? 今日の夜?)


 ガバっと(とこ)から身を起こして回りを見渡すと、洞窟の中にいるのが分かった。


「「レイン!」」


「「レイン殿!」」


 そんな俺を見て、二通りの反応があった。


 エミリーとカリンの二人は、丸一日ずっと眠っていた俺が、無事に目を覚ましたことに喜びの声を上げる。


 対して。


 二人の騎士は、それに加えてエミリーとカリンの言い争いを収める仲裁役が目を覚ましてくれたと安堵の声を上げたのだ。


「……俺はいつ洞窟に戻ってきたんだっけ」


 この時、記憶が飛んでいることに気がつく。


 昨日の夜、嵐の中で勇者達と戦った。


 そこまではもちろん覚えている。


 でも、そのあとの記憶がないのだ。


 いつ洞窟に戻り、床に就いて眠ったのか。


「あー、良かった! もう本当に心配したんだからね。炎柱が消えたと思ったら、嵐の中でレインが倒れてるんだもん」


 安堵の表情を浮かべ、エミリーはそう言った。


 すると、間髪入れずに満面の笑みを浮かべ、カリンが言葉を続ける。


「レインが無事に目を覚ましてくれてほっとした。昼間も心配で気が気じゃなかったから」


 どうやら二人の話を聞く限り、俺は勇者達との戦闘の後に倒れたらしい。


「エミリー、カリン、心配かけて悪かった。もう大丈夫だから。ゲイルさん、ガスさん、ご心配おかけして大変申し訳ありませんでした」


 少なからずエミリー、カリン、ゲイルさん、ガスさんに気を揉ませてしまったことについて謝罪した。


 思えば、交易路に入ったその日の夜から昨日の夜までの連戦。


 だけど、みんなの笑顔を見て事なきを得たと実感し、安堵のため息をつく。


 洞窟の外では、今なお嵐が吹き荒れている。


 今日の夜くらいはゆっくり過ごしたい。


 心の底からそう思った。


 ……心底そう思っていたんだけど、聖騎士様と聖女様が、いやアホ女1号2号がそれを許してはくれなかった。


 エミリーとカリンは我先にと勇者達との戦いのことを聞いてくるわ、嵐の影響で足止めを余儀なくされている愚痴を聞かされるわで、二人の女のキンキン声が洞窟の中で盛大に響き渡る始末。


 せっかくガスさんが空腹の俺のため、美味しい晩飯を作ってくれたのに、一口食べようとするとアホ女1号2号は怒涛の如く「もっと話して」だの「ちゃんと聞いて」だの「こっちを見ろ」だのと言ってくるから食べる暇がない。


 湯気が立ち昇る熱々の具だくさんのスープが、今では悲しいかな完全に冷え切っていた。


 流石の俺も堪忍袋の緒が切れてしまい「うるさい! 飯を食わせろ!」と二人の女を一喝。


 こうして、ゆっくり過ごせる夜のひとときを取り戻すことに成功した。


 そんなこんなと色々あったけれども、勇者達との戦いに勝利した俺は、これから新しい一日の始まりを迎えるのである。


♢♢♢


 嵐は過ぎ去り、まさしく雲一つない快晴の朝だった。


 監視隊の任務遂行のため、魔王軍先遣隊が駐屯する地へ向かうべく出発の準備が始まる。


 まずは洞窟の前に広がる丸い野原に突き刺さっていた10万の矢の処理だが、足の踏み場もないくらいびっしりと弓士の置き土産があり愕然としてしまう。


 こんな状態ではとてもじゃないけど、馬車が丸い野原を通れるわけがない。


 俺、ゲイルさん、ガスさんが途方に暮れる中、一人の女があっけらかんと言う。


「こんなの一瞬で片付ける」


「「「えっ?」」」


 俺達の視線を一身に浴びられて嬉しいのか、ご満悦なエミリーが〈光の衣のオーラ〉を纏うと、黒き双剣から必殺スキルを繰り出した。


 丸い野原に放たれた聖騎士様の轟嵐によって、10万の矢があっという間に消滅する。


「「エミリー様、凄い!」」


 二人の騎士は感動して声を上げ、エミリーに駆け寄り三人で輪となっていつものご歓談が始まってしまう。


 アホな三人組は放置と決め込み、洞窟の中から二頭の馬と馬車を出して出発の準備をしていたところ、カリンが神妙な面持ちで声をかけてきた。


「レイン、わたしは大聖堂に戻るね」


「ああ、分かった。回復魔法と洗浄魔法を施してくれてありがとう。それと新品の白いローブまで貰えるなんて感謝しかないよ。カリンには何から何まで世話になりっぱなしで申し訳ない気持ちでいっぱいだ」


「本当にそんな風に思ってくれてる? なら、今日の夜に時間を作って。大事な話があるの、とても大事な話」


 俺の顔をまっすぐ見つめながら、聖女カリン・リーズは言った。


 大事な話か、おおよその見当はつく。


 俺には心当たりがあるから。


 ――サラ・アマガミ。


 次期聖女にして真なる聖女スキル所持者、そして俺の相棒たる女。


 確かめる必要がある。


 今、目の前に立つ美しき白銀の聖女様に。


「もちろん、喜んで時間を作る。夜にゆっくり話そう」


「うん、ありがとう、レイン。それじゃ、またね」


 そう言って少しはにかんだ顔のカリンは〈転移魔法〉を発動して大聖堂に戻っていった。


 しかし、結果的に今日の夜に約束していたカリンとの話し合いは行われなかった。


 なぜならば。


 この日の夜、俺の隣りに或る女が立っていた。


 その名は、天神(あまがみ)沙羅(さら)


 俺と彼女はもうすぐ出会うことになる。


 魔王軍先遣隊が駐屯する地。


 ()の地で。



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