第69話 アデュー
文字数:4211字
【森沢亮次め、10万の銀矢が降り注ぐ闘技場に飛び出しやがったぜ】
【速報! だけど、ワイのロケット波動カメハメ穀潰しのダイナマイトパンチで好敵手は絶命寸前な模様】
【ボク達に死に様を見せたくないって最後の意地だったのかな? でも、マジで死んでる5秒後さ】
【あの野郎が逝く瞬間を俺様の目で見れなかったのは、ウルトラスーパー残念の極みだぜ。だがよ、それなりに楽しかったから良しとしてやる。アデュー、森沢亮次】
【さらば&あばよでござる、強敵よ】
【ボクは森沢亮次に二度も殺されたんだ! 別れの言葉なんて贈る気分じゃないからね! それにさ、あいつはライトニングアローの雷撃を食らったのに、何であそこまで動けるようになったんだよ? マジでティーチミーって感じだよね】
「体の中を通る雷撃の大電流を刀から強引に放電したんだよ。もちろん、痺れがあって動くのは一苦労だった。だが、お前らが口喧嘩してくれたおかげで休める時間を取れたからか、徐々に麻痺はなくなっていった感じだ。これでいいか?」
【【【!!!】】】
♢♢♢
【【【森沢亮次!】】】
突然、俺から言葉を投げかけられた勇者達は、驚愕の表情を浮かべながら、三人が同時に大声を張り上げる。
「お前らアンデッドを天に召させるため、この舞踏会に舞い戻ってきた」
【あっ? マジでふざけんじゃねぇ、森沢亮次! 俺様のバーニングブレイドよ! 敵を焼き殺せ、ファイアーバード!】
勇者がクルッと体を回転して俺に向き合うと同時に、黒き炎の鳥を長剣から繰り出した。
「唯我独尊!」
【な、何? いつの間にそんなところまで跳ねた?】
【悲報! 今までの森沢亮次の固有スキルとは何か違う模様】
【ボクも同感。スキルの合わせ技を発動してるっぽい。いきなりあんな遠く離れた炎の前に飛ぶなんて。あいつは近距離攻撃しかないんだ。なのに ボク達から距離を取ってどうするんだよ? それにだ、炎の輪舞曲の外に出た森沢亮次が何で生きてる? 10万の銀矢の雨あられで射抜かれ死んだはずなのに!】
【……悲報! ワイの必殺ロケット波動カメハメ穀潰しのダイナマイトパンチで受けた致命傷が、不思議と回復している模様】
【た、確かに。どうして、おかしいだろ? あり得ないから! ボクは納得できずマジで漏れちゃう5秒前だ】
【うるせぇ! くだらない御託を並べるな! あいつがどうかなんて関係ねぇだろが! 俺様たちはアンデッドなんだ、森沢亮次がガチで死ぬまで何度でも蘇ればいいだけさ。単純明快で分かりやすいぜ】
紅蓮の炎の背にして俺は口角をあげる。
(フフフ、この短い時間で天地がひっくり返るほど状況が変わったからな。あいつらの心中を察するとこっちが申し訳ない気持ちになるな)
……俺は〈唯我独尊〉を発動した。
それはまさしく時の覇者たるスキル。
このスキルは、時を一秒だけ止めることができる。
たった一秒、されど一秒。
サムライスキルの攻撃防御にあらゆる選択肢を与えてくれる必殺のスキルとなるだろう。
先程の勇者ジークの攻撃がいい例になった。
俺は〈唯我独尊〉を発動した後、すぐさま〈縮地〉を発動する。
一秒という時が止まり、そしてその刹那に最速スキルで駆けた俺は、自分でも信じられない距離を一瞬のうちに跳ねることができた。
そう、本来戦う相手が生きる屍、アンデッド以外の者なら、今の〈唯我独尊〉を発動した時に、黒き炎の鳥を躱し、すかさず刀で斬りつけていれば勝負ありだった。
しかし、相対するは不死なるアンデッド。
刀の斬撃はおろか妖刀ツバキが繰り出す〈死閃〉でも滅殺できない相手なのだ。
だから、今回はあくまでも勇者達の攻撃を躱すことに専念している。
もう一つの必殺スキルを発動するために。
♢♢♢
俺は己に宣言した。
敵の拠点である紅蓮の炎の中に飛び込んだら、勇者達を速攻で天に召させてやると。
次期聖女のサラ・アマガミが言った。
神の祝福によって覚醒した〈唯我独尊〉と〈刃穿〉の必殺スキルで勇者達をぶっ飛ばしてこいと。
(ああ、必ずぶっ飛ばしてやる。任せてくれ、まだ見ぬサラ・アマガミ)
彼女との悠久の時のような一秒間の念話が終わった後、俺は意識を覚醒させると無自覚に発動させていた〈唯我独尊〉を自らコントロールし、数多の銀矢が降り注ぐ闘技場から〈空間転移〉で再び紅蓮の炎の中へ飛び込んだのだ。
(君の言う通り、今度こそ勇者、拳闘士、弓士の三人を天に召させてやる)
そんな決意を胸に、紅蓮の炎を背にして立つ一人の男に勇者達が攻撃態勢に入る。
勇者は長剣から黒き炎を、弓士は弓で銀矢を、拳闘士は鉄拳からオーラを、それぞれが敵の反撃を受けないと判断したミドルレンジからの攻撃を仕掛けてきた。
俺は〈唯我独尊〉で一秒の時を幾度も止め、時の覇者となる。
何度やっても攻撃を命中させることができず、困惑の表情をする三人の男。
ここが真の好機だと言わんばかりにミドルレンジでの攻防を繰り広げる中、もう一つの必殺スキルを放つために詠唱する。
我、神の祝福を受けし者なり
妖刀ツバキよ
敵を穿つため
満天の星が如く
咲き誇れ
無限の太刀
[霞の構えの型]にある真紅の妖刀ツバキが、より一層紅く妖しく光り輝いていく。
生きる屍、アンデッド。そう、悲哀なこいつらを成仏させるためにだ。
さようなら。
憎き魔王の手駒に堕ちてしまった悲しき男達。
安らかに眠ってくれ。
お前らを天に召させてやる。
「刃穿! 勇者達を天に召せ!」
俺は迅速の一文字斬りを放つ。
〘カッ!〙
妖刀ツバキから繰り出された妖紅の三刃が勇者達三人を穿つため、まさに電光石火の疾さで空気を斬り裂いていった。
勇者ジーク、拳闘士ライル、弓士バークレには妖紅の三刃が見えていない。
それは勇者達の終わりを意味していた。
三人の男はもう間もなくこの世界から消え去る。
「あなた方の来世に幸あれ」
〘〘〘ズンッ〙〙〙
妖紅の三刃に体を貫かれた勇者達は、〘サラサラ〙と静かに音を立てながら、塵となって崩れ去っていく。
「拳闘士ライル・ゲラ、弓士バークレ・ゴルド、そして勇者ジーク・カスター。本音を言わせてもらうと、俺は子供の頃からずっとあなた方に憧れを抱いていました。エミリーは覚えてないかな、いつの日か勇者パーティーに入りたいと言っていた俺のことをさ……」
術者の勇者が現世から消え去ったので、炎の輪舞曲も跡形もなく霧散していった。
気がつけば弓士が放った10万もの銀矢の豪雨も止んでいた。
まだ過ぎ去らぬ嵐の中、俺は勇者達に黙祷を捧げる。
♢♢♢
――神界とは異なる世界線、そして幸福なる世界の日常の一コマである――
俺様の名?
知りたいなら教えてやる。
俺様の名は佐藤一郎。
高1の16才だぜ。
今日もバッチリキメるため、朝から2時間を費やして自慢のリーゼントをセット。
「ふふふ。一郎、お前は今日も最高にイカしてるぜ! チュッ!」
鏡に映るナイスな自分の姿を見て、いつものセリフが自然と口から漏れ出すと、今日はスペシャルな出会いの予感がして、気分上々の投げキッスを送る。
「パピー、マミー! いっくんはこれから青春の学び舎に行ってきま〜す。三時のおやつはシロップたっぷりのホットケーキね」
これまたいつものセリフを格好良く言い放ち、学校に向かうべく颯爽と玄関から飛び出す。
もちろんだがよ、俺様の口には食パンがある。
ラブコメ主人公にありがちな登校時のガチ王道だが、それが最高にいいのさ。
そう、きっといつしか通学路の曲がり角で可愛いJKと衝突、そして運命の出会いが俺様を待っているはず。
「さぁ、カモーン、マイスウィートハニーベイビー♪」
ルンルン気分で勢いよく通学路を直角に曲がる。
〘ドカッ!〙
(き、来たぁぁぁぁぁぁぁああああ!)
ぶつかった衝撃でその場に尻もちをつく俺様、黒髪のサラッサラのサラサラビューティフルヘアの衝突相手は1mくらい吹っ飛んでいった。
(いくら何でも吹っ飛びすぎじゃね? しかし、か弱いプリティガールならしゃーないのかな)
さっと立ち上がり、リーゼントにブラシを一発入れてから、通学路でうつ伏せに倒れているサラッサラヘアの乙女に文通を申し込むために声をかける。
「食パン半分食べる?」
「凶報! ワイ、街のチンピラに絡まれてる模様」
俺様の手から半分にちぎった食パンがこぼれ落ちる。
そんなの当たり前だぜ、目の前に立っているのはJKのプリティガールじゃなく野郎なんだからな。
「ちっ、男かよ、畜生め! サラッサラのフッサフサな黒髪のマッシュルームヘアなんてしやがって! マジで紛らわしいんだよ! お前、もやしみたいなガリッガリの体だな。ちゃんと飯食ってるのか。あとよ、ネットに毒されすぎだろ。リアルの世界でワイなんて言ってる奴を初めて見たぜ」
「悲報! ワイ、レスバを申し込まれた模様。スマホを出せ、ネット掲示板のスレッドで論破してやるでござるの巻」
「あ? やってやろうじゃねぇか!」
「ちょ、ちょ、ちょっと危ないよ、YOU達!」
朝の通学路でマッシュルームヘアのもやし男とレスバを始めようとした時だ、ぶっとい黒縁メガネの坊主頭の野郎がママチャリごと俺様たちに突っ込んできた。
〘ドッカーン!〙
その瞬間だった。
雲一つない青空から一筋の眩い光が、通学路で重なり合って倒れていた最高にイカした俺様、マッシュルームヘアのもやし男、それとぶっとい黒縁メガネの坊主頭の男を照らしたのである。
「「「!!」」」
「ぎゃはははは、何だよ、ライル。お前、こっちの世界ではそんな容姿だったのかよ! マジ腹筋崩壊だぜ! おい、バークレ! お前もお前でイケてないな!」
「速報! ワイ、ツルッツルのツルツルのスキンヘッドよりも全然お気に入りな模様」
「今のボクがイケてないなんて酷い言い草にも程があるよ、マイボス。マジで泣いちゃう5秒前」
思い出したのだ。
俺様たちはどこで何をしていたのか、すべての記憶を思い出した。
「ボクらは生き返ったのかな? YOU達はどう思う?」
「悲報! 生き返ったのならば、26才の容姿じゃないと辻褄が合わない模様」
「難しいことは分かんねぇ。あの時、確かに森沢亮次の必殺スキルで成仏させられた。マジで天に召させられたんだ。ははは、マジ分かんねぇ、ネ申でもいるんか? とにかく、俺様は金輪際あいつとは会いたくないね」
「速報! ワイ、ジークに禿同な模様」
「ボクもまったく同感だね、マイベストフレンド」
「てめぇなら、魔王倉木鷹也を殺れるかもしれないな。ま、陰ながら応援してやるよ。もう一度、最後の最後に言ってやるぜ。森沢亮次、アデューだ」




