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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第66話 危機は好機、好機は危機

文字数:2179字

 前門の虎、後門の狼。


 まさに逃げ場のない状況に陥ってしまう。


 前方には勇者を先頭に拳闘士と弓士が控え、後方には紅蓮の炎が猛り狂う。


 そして、俺を亡き者にするため、赤髪赤目の男が手にする長剣から放たれた黒き轟炎が襲い来る。 


〘ゴワァッ!〙


「くっ!」


【あっはははは! 丸焦げになって死ね!】


 この世界では存在しない黒色の炎の高熱が白いローブの上から一瞬で肌に伝導し、今まさしく俺の命が危険に晒されていることが分かる。


(このままじゃ、本当に丸焦げになるだけだ)


 確かに勇者ジークの戯れ言に聞き入り、反応が遅れたのは疑いようのない事実だが、サムライスキルなら黒き轟炎を回避するのは可能だろう。


(どこに飛ぶ? 選択肢なんてないだろ!)


〈空間転移〉を発動し、紅蓮の炎を飛び越えて()()()に降り注ぐ数多(あまた)の銀矢の餌食になるなど冗談ではない。


 それなら、黒き轟炎を飛び越えて拳闘士と弓士の前に躍り出るしかない。


「ぐぁ……く、空間転移!」


〘ギュン!〙


 俺の体だからよく理解しているつもりだ。本調子とは程遠い状態にあるので、〈空間転移〉を発動する間際に黒き轟炎が左肩に触れてしまう。


〘バッ〙 


 勇者達は言動とか凄いアホっぽいが、戦闘に関しては百戦錬磨の猛者だ。敵が次にどう動くか予測するなんて容易なのだろう。


 拳闘士と弓士の前に躍り出ると、勇者が既に攻撃体勢にあった二人へ指示を出す。


【ほら、そっちに飛んだぞ。一発ぶちかましてやれや、ライル、バークレ】

【ダイナマイトパンチ!】

【シャドーアロー!】


「ちぃ、次から次へと……くっ」


 一難去ってまた一難。


 拳闘士ライルの鉄拳から(のが)れるために、グイッと体をいなして躱すが、それを見越したかの如く弓士バークレの見えない矢が射抜かれたので、咄嗟(とっさ)に〈真眼〉を発動して刀で弾き返した。


「ちっ、さっきと逆かよ」


 少し自虐的に口から言葉を漏らす。


 今、俺の前方には紅蓮の炎があり、後方には勇者達がいた。クルッと振り返るとさっきと同じ状況に逆戻り。


「前門の虎、後門の狼から前門の狼、後門の虎になり、また前門の虎、後門の狼になって……ク、クソ、どっちでもいい」


 最初の状況に戻ってしまったことを愚痴っても何一つ変わらないと思いつつ口にしてしまう。


「はあ、はぁ、はぁ……くっ、まだまだこれからだ!」


 気持ちを切り替えた俺は、刀の刃先を後ろに隠すようにして脇構えで勇者達と対峙する。


【ふふふ、頑張るねぇ。敵ながら天晴(あっぱれ)だぜ、森沢亮次。でもよ、肺が焼けるほど痛いだろ? 息ができないほど苦しいだろ? そりゃ、しょうがないよな。てめぇは、この炎の輪舞曲(ロンド)が奏でる()()()に招待されてない招かれざる客だからな】


 勇者ジークの言う通りだった。


 燃え(たぎ)る紅蓮の炎の中に飛び込んでからというもの、肺が焼けるくらい痛く、息ができないくらいに苦しい。


 しかし、それは当たり前のことだし何の疑問の余地もなかった。


 なぜならば、こんな高熱の中に身を置いているのだ。


 肺が高温の空気を吸い込めば、おのずとそういう状態になるのは当たり前だと思っていたから。


 それは同じく紅蓮の炎の中に身を置く勇者達にだって言えるはず。


「!!」


 あれ? おかしいぞ。


 俺は肩で息をして、いつの間にか胸に手を当てて苦悶の表情なのに、勇者達は避暑地にいるかのような涼し気な表情をしている。


【他人の家に無断で立ち入るのはダメだろ? そんなの常識だぜ。それと同じで()()()()()()()()()()なのに、招待状もなしで飛び入り参加はいかんでしょ? よって招かねざる客には厳罰を与えた上でご退場願うのさ。森沢亮次、ドゥユーアンダースタンド?】


 勇者が黒い炎を纏う長剣の剣先を俺に向けて宣告した後、さらに鋭い眼差しで睨みを利かせながら冷淡な口調で言う。


【厳罰は与えた、次はご退場願うだけ。だがよ、ご退場ってのは人生のステージからのご退場って意味だぜ】


(なるほどね、そういうことか。俺は勇者の絶対領域に足を踏み入れたんだな)


【さぁ、森沢亮次よ。炎の輪舞曲(ロンド)が奏でる舞踏会で死のダンスを踊らせてやる。行くぜ、野郎ども!】

【ウイ】

【アイアイサー♪ マイボス】


「はあっ、ふぅ」


 俺は深呼吸をする、きっとしばらく呼吸はできないと思ったからだ。


 そうか、これが厳罰なのか。


 からくりのネタばらしをしてくれてありがとう。


 それならそれで、こちらにもやりようがある。


 紅蓮の炎の中で一切呼吸をしなければ、勇者ジークが言った厳罰なんてないものと同じだろう。


 お前らは俺の()()を知っているみたいだけれど、このレイン・アッシュが漁師の息子だと知っているのか?


 荒れ狂う海の中に潜り、一本銛(スピア)を手にして獲物を狩るなんて日常茶飯事なことだった。


 漁師の肺活量を舐めんじゃねぇよ。


 基本スキルの身体強化を併せて発動すれば、無呼吸の状態でそれなりに動ける。


 アッシュ家には家訓がある。


 ――危機は好機、好機は危機。


 ふふふ。


 それにだ、大事なことを忘れていた。


 いや、完全に記憶から抜け落ちていたのだ。


 ()()の声が頭の中に響き渡って、まるでモヤが晴れたようにスッキリする。


 そう、俺は……聖女の祝福を受けし者にして神の祝福を受けし者である。


 神の祝福により覚醒した固有スキルは二つ。


 生きる屍、アンデッドを確実に滅殺することができるだろう。


 拳闘士ライル・ゲラ、弓士バークレ・ゴルド、そして勇者ジーク・カスターを成仏させてやる。


 レイン・アッシュが勇者達を天に召させるのだ。



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