第65話 神の祝福を受けし者
文字数:2320字
レイン達一行に襲来している大嵐。
その大嵐は大聖堂にも猛威を振るっていた。
とある一室の窓に激しく叩きつける雨を眺めながら、一人の男が怪訝な表情で呟く。
「季節外れの嵐ですか、街に被害が及ばないことを祈るばかりです」
一人の男。
それは言わずと知れた教会総本山を束ねる男、第312代教皇エリスにして神である者。
「……季節外れの嵐は時が経てば過ぎ去るでしょうが、この世界で猛威を振るっている嵐、魔王が率いる魔王軍はいくら時が経とうとも、決して過ぎ去らない」
お気に入りの木目調の机に置かれたお茶を一口飲み「ふぅ」と一息をつき、再び窓の外に視線を向けて教皇なる者が言う。
「この世界、神界から魔王軍を廃除するために活躍してもらわないと困る」
そう言った後にスッと席を立つと、大嵐の轟音が鳴り響く窓際までゆっくりと歩を進めていった。
窓から見える大嵐の遥か遠くを見据えるようにして、教皇でもある神たる人物が或る男に語りかける。
『森沢亮次、いやレイン・アッシュよ。そんなところで死ぬことなど許さんぞ。お前は神の祝福を受けし者だ。さぁ、彷徨う魂であった者よ! 余の祝福を受けた力を示せ! この世界、神界の救世主となる男よ!』
そう、レイン達が住まう世界は神界という名の世界。
魔王とは魔界の頂点に君臨する男。
そして。
二つの世界の戦いに終止符を打つべく、登場する人物が現れることになるだろう。
その者の称号は女神、女神様である。
♢♢♢
「…………」
信じられない、マジで信じられない。
紅く妖しく光る妖刀ツバキを覚醒させ、殺気を放つ俺の目の前で口喧嘩をしている勇者達。
こいつらの喧嘩の原因は、もちろん拳闘士の居眠り。
実際、俺自身が一番びっくりしていた。
紅蓮の炎に飛び込んだ瞬間に、拳闘士ライルの鉄拳をどのように躱し、どう攻撃に転じればいいのかを一番に考えていたから。
それがどうだ。
意を決して敵陣に飛び込んでみると、ツルッパゲ男は座禅を組んだ状態でピクリとも動かない。
生きる屍、アンデッドなのだから、死んでいるなんて考えはこれっぽっちもなく、眠ってるんだなと思った。
この時は、流石に何とも言えない気持ちになる。
紅蓮の炎の中に無事飛び込めた安堵の気持ち、そして勇者と弓士に心底同情する気持ちが複雑に絡み合う。
正直、俺は勇者ジーク、拳闘士ライル、弓士バークレに恨み辛みの類は一切ない。
同じ勇者パーティーであった胸糞悪い魔術師メメルと違って。
俺の知る限り勇者達三人は、己の欲望を満たすために誰かを殺してはいないのだ。
ただ、それは俺の知る限りでの話。
もしかしたら、俺の知らないところで老若男女問わずたくさんの人を殺しているかもしれない。
憎き魔王の手によって、手駒にされた勇者達。
主が【殺せ!】と命令すれば、すぐさま事を成すのは間違いないだろう。
現に、魔王の命令を遂行すべく俺達を襲って亡き者にしようとしているのだから。
そうだ、そうだよ、レイン・アッシュ。
恨み辛みがどうのこうのなんて関係ないだろ?
魔王の息のかかった奴等は、自然界の動物であろうと人間であろうと絶対にこの大陸、世界の人々に害をなす存在になる。
そんな奴等に容赦などするものか。
俺の私情なんて心の奥底に沈めてやる。
一刻も早く勇者達を何とかして滅殺しないとダメだ。
……だけど、どうすれば生きる屍、アンデッドを滅殺できるんだよ。
誰か教えてくれ。
♢♢♢
【おい、ライル! てめぇ、この野郎、何やってんだよマジで! 熟睡してましただぁ? どこをどうやったらこの状況下で居眠りこけんだよ? 俺様の脳みそは怒りでマジのバーニングブレインだぜ!】
【その通りだよ、ボクは怒り心頭でマジで漏れちゃった5秒後なんだから】
【すまぬでござるの巻。ワイ、瞑想してたら意識の奥の奥までダイブした挙げ句、悟りを開き熟睡してしまった模様】
【マジ意味分かんねぇよ! お前は釈迦なのか? もうどうすんだよ、森沢亮次が只今参上しちゃったぜ!】
【ボクら三人の、ボクらだけの秘密基地、シークレットベースに森沢亮次の侵入を許すなんて末代までの恥さ】
【【【!!】】】
〘ガキンッ!〙
【て、てめぇ、これは卑怯じゃね?】
勇者達の言い争いが終わるまで待つ義理はないので、先制攻撃を仕掛ける。
雷撃をモロに受け、まだ体に多少の痺れが残っているとはいえ、隙だらけの勇者に刀の一閃を止められたのは意外だった。
〘ギリリリッ〙
右薙の一閃を放った俺の刀と勇者の長剣が赤い火花を散らしながら鍔迫り合う。
「卑怯? 俺は守護者や冒険者、ましてや勇者パーティー上がりでもない。お前以上に騎士道なんて持ち合わせてないからな。隙あらば斬りつけるだけだ」
【確かに、お前の言う通りだぜ。隙を作った俺様に非があるな】
【【ジーク!】】
【ライル、バークレ! 今、俺様は森沢亮次と男同士で語り合ってるんだ、茶々入れんじゃねぇよ】
勇者に一喝されるも、拳闘士は鉄拳を、弓士は銀矢をいつでも放てる体勢にあるのが見て取れる。
【お前には何の恨みもねぇ。逆に同じ日本人だし親しみがあるくらいだぜ。だが、魔王様の命令は絶対だ。必ず森沢亮次、お前を殺す。それが俺様たちの総意さ】
そう言ってにっこり笑った勇者ジーク。
(ニホンジン? 何のことだ?)
モリサワリョウジだのニホンジンだのと、まるで俺のことを何から何まで知っていると知ったかぶる赤髪赤目の男に腹が立つ。
【……隙を作ったお前に非があるよな?】
「こ、これは……クソ!」
勇者の戯れ言に耳を傾けてしまっていたせいか、反応が遅れてしまう。
【燃え上がれ、俺様のバーニングブレイド!】
〘ボァッ!!〙
勇者ジークの長剣が燃え盛ると同時に、黒色の轟炎が俺を包み込んでいったのだった。
紅蓮の炎の中、俺と勇者達の最後の戦いが始まる。




