第62話 本命
文字数:2492字
【悪いな、森沢亮次。俺様たちは守護者アーンド冒険者上がりだからよ。正々堂々と1対1で戦うなんて騎士道は持ち合わせてねぇんだわ。パーティーってのはよ、各々が役割を担い、二度目のアーンド適材適所で全員の力を合わせ敵を討伐するのが基本戦術なんでな。そこんとこ夜露死苦だぜ!】
【悲報! ワイ、いつもならバリッバリのバリバリ前衛のはずなのに、今日はなぜか後衛な模様】
【しょうがないよ、ライル。君のダイナマイトパンチは近接戦闘でしか効果を発揮できないんだから。でもさ、その代わり森沢亮次が万が一ここに飛び込んできたら、ちゃんとボクとジークを守ってくれよな】
【そうだぜ、ライル。神経を集中してスキル全開で網を張っておけ。というわけで、バークレ、森沢亮次を俺様たちで殺るぜ】
【オッケー♪ マイボス、ジーク】
【オラァ、野郎ども行くぜ! 死に晒せや〜、黒髪黒目の森沢亮次!】
赤髪赤目の男が長剣の剣先を天に向けた途端、勇者達を取り囲んでいた紅蓮の炎が激しく燃え盛る。
「なっ、何だ? 豪炎のせいで勇者達が見えない」
〘バシュ! バシュ! バシュ!〙
俺がその言葉を発した刹那、弓から三発の矢を射抜く音が聞こえた。
弓士の攻撃を防御するため、正眼の構えから刀を振り抜こうとしたけれど、肝心の矢が見えないのだ。
「えっ、矢はどこだ?」
スキルは万能ではない。
確かに、俺に向かってくる矢の反応はある。
しかし、それがどこにあってどこに当たるのかまでは教えてくれない。
そんなに甘いものじゃないのだ。
最終的には、サムライスキル所持者である俺がこの目で三発の矢を確認し、どう防御するかを判断しなければならない。
「くっ、〈真眼〉発動!」
今の状態で弓士バークレから放たれた矢が見えないのなら、基本スキルの身体強化を発動して強制的に見えるようにするだけだ。
「よし、見えた!」
なぜ今し方まで矢が見えなかったのか、それは謎だが今は〈真眼〉の恩恵があって見える。
「そこか!」
三本の銀矢が俺を射抜こうと空を切り裂き飛んでくるのが視認できた。
青髪の変な髪型の男は、標的である敵の右肩と左肩、そして心臓に狙いを定めて一寸の狂いもなく銀矢を放ったのである。
「矢を視認できればこっちのもんだ。悪いが矢ごときに射抜かれて殺されるわけにはいかない」
勇者達の見事な三位一体の陣容のせいでこちらからの攻撃はできないが、敵の攻撃は防御できる。
「俺はお前らが思うほど、簡単には殺られないぞ」
三本の銀矢を打ち払うべく正眼の構えから霞の構えに型を変え、刀を上から下に素早く振り下ろす。
そう、まさしく刀を振り下ろす直前だった。
弓士と勇者の声が嵐の中で響き渡る。
【ジーク! 今だ!】
【おうさ! 食らえ、森沢亮次! スーパーバーニングアロー!】
「なっ!」
サムライスキルが[キケンハヤクヨケロ]と警告する。
今度ははっきりとこの目に見えた。きっと〈真眼〉を発動していなくても間違いなく見えていただろう。
勇者達を守護する紅蓮の炎から真っ赤に燃え滾る巨大な一本の炎矢が飛び出してくるのが見えたのだ。
その炎矢の発する放熱によって弓士が放った三本の矢は一瞬で蒸発して跡形もなく消え去る。
そして、炎の渦を激しく巻き上げながら迫り来る勇者の炎の矢。
「い、意味が分からない」
いったい何のために弓士が三本の矢を射抜いたのか、理解できなかった俺は思わず言葉にしてしまう。
だが、今はそんなことよりも目の前に迫る危機を回避するのが先決。
スキルの警告に従い、〈縮地〉を発動してギリギリのところで炎矢を躱す。
〘ドゴーン!〙
本来の標的とは違う標的、数ある洞窟の一つを粉々に破壊した炎矢は爆散していく。
事なきを得て安堵のため息を「ふぅー」とついたのも束の間、次なる攻撃を受けることになる。
この勇者と弓士による攻撃が、一人の男を亡き者にするための本命だったのだ。
俺はそれを後で思い知ることになった。
【オラオラオラ、森沢亮次! もう一発いっとくか? あははははは!】
今度は勇者からの先制攻撃が俺を襲う。
〘ドン! ドン!〙
紅蓮の炎から大砲の音の如く、その爆音と共に炎矢が二本飛び出してきた。
「舐めるな、勇者ジーク! どんなに強力な威力だろうと当たらなければどうということはない」
そんな捨てセリフを吐き捨て、最速スキル〈縮地〉を発動して二本の炎矢を難なく避けた時にそれは起こる。
【舐めてるのは、お前だろ? 黒髪黒目の森沢亮次】
今までずっとふざけているかのような口調だった勇者の男が、身の毛もよだつくらいドスの利いた声を発した。
【ライトニングアロー!】
「えっ? 何で後ろから矢が飛んでくるんだよ?」
正面に見えている紅蓮の炎の中から弓士バークレの声が聞こえたので、てっきり前方から矢が飛んでくると思い身構えていた。
だけど、無慈悲に洞窟を破壊した後で爆散した二本の炎矢、その地より〘ビリビリ〙と放電しながら、予期せぬ一本の矢が物凄い早さで後方から迫り来る。
(くっ、まだ何とか避けられる)
俺は〈縮地〉を発動し、弓士が繰り出したと思われる一本の矢を回避しようとした。
その時だ。
雷矢とはかなり違う雷系の矢が辺り一帯に〘バリバリバリバリ〙と一気に広がるように放電し、まさに〈縮地〉を発動する寸前で俺はモロに雷撃を食らい感電してしまう。
「縮――……し、しまった、ぐぁああ」
【よっしゃあああ、俺様の狙い通りだぜ! 森沢亮次はすぐには動けねぇ! バークレ、本命を叩き込め!】
【ラジャー♪ マイボス&マイフレンド、勇者ジーク。全スキル開放! ふふふ、ライトニングアローに次ぐ、ボクの必殺技を今から披露してあげる。三日三晩寝ずに考えたネーミングの必殺技を。高橋翔もといバークレ・ゴルドが今放つよ。行けぇ〜、エンジェルアロー!】
〘ピシ〙
「……か、体が痺れて動かない」
刀を支えにしてやっと立っていた俺の頭上に、金色に光る一本の矢が見えた。
それはまるで流れ星のようだった。
天高く舞い上がった一筋の光の矢は、〘バーン!〙と轟音を響かせながら爆発する。
次の瞬間、この豪雨に勝るとも劣らない無数の銀矢が俺に降り注いできた。
「さて、どうするかな」
空を見上げ、そう呟く。
とある一つの覚悟を決めて。




