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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第61話 三位一体

文字数:2444字

 嵐の中の闘技場か。


 そうだな、確かにここは闘技場かもな。


 今、俺と勇者達が相見(あいまみ)えているこの地は円形状の形をしていた。


 大陸の中心的存在の中央には(いにしえ)から円形闘技場なるものがある。


 絢爛豪華な花の都として名高い中央は、王様や王族が住まう王宮があり、そして貴族など高貴な人や金持ちの商人、数多くの一般市民が居住して日々の生活を営む。


 そんな人達を熱狂させていた娯楽の一つが円形闘技場での見世物だったと聞く。


 遥か昔。


 奴隷同士を殺し合わせ、どちらが生き残るかを賭けの対象にしていたらしい。


 時は流れ、時代時代に合わせた円形闘技場での見世物も変化していく。


 剣や槍、弓の使い手や魔術の使い手として腕に自慢がある者による決闘、王宮騎士団の(くらい)を賭けた騎士の決闘と多岐に渡る。


 しかし、時の王様が決闘という名の血生臭い殺し合いに辟易し、王命によって円形闘技場での決闘を未来永劫禁止する旨を発布したのだ。


 それから数百年と時は流れ、魔王軍に侵攻されるまでの円形闘技場はというと観光名所としての役割がメインであり、副次的役割として王宮騎士団や魔術師、冒険者の修練場になっていた。


 嵐が来る寸前に避難場所であった洞窟に到着した時、二人の騎士の何気ない会話が脳裏を(かす)める。


「隊長、俺は洞窟の前にあるこのまん丸の野原を見ると中央の円形闘技場を思い出すっす」


「このクソ野郎のスカポンタンが! くだらない感傷に浸っている暇などないわ! それにあそこは賭けの対象のために色んな奴が生死を賭けて決闘させられた大陸の黒歴史な所だ! 俺は虫唾が走るくらい大嫌いなんだ、円形闘技場が! それよりもとっとと馬車を洞窟の中に入れろ! マジで殺すぞ!」


「はい、はい、はいっすよ」


「おい、ガス! 返事は一回でいい」 


「はいっす」


 ……そう言えば、そうだった。


 ゲイルさんとガスさんは王宮騎士団との交流を兼ねた親善試合をするため、この交易路を通り中央まで行っていたと聞いたな。


 円形闘技場のこともよく知ってるんだったな。


 それにしても、ここはいったい何なんだ?


 丸い野原を囲むようにして大小様々な洞窟がたくさんある。


 勇者達を滅殺できたなら、あとで二人に聞いてみようと思う。


 もし、俺が生きていたらの話だけど……。


 ……生き残れる可能性は限りなく低いけどな。


♢♢♢


【オラァ、行くぜ、森沢亮次! この嵐の中の闘技場は残念ながら無観客だがよ、俺様のハートは熱く燃えてるぜ、バーニングハートだ!】


【朗報! 無観客ではないでござるの巻。四名ほど洞窟に観客がいる模様】


【ボ、ボクは観客がいると緊張しちゃうんだよ。マジで漏れちゃう5秒前】


【ごちゃごちゃうっせーぞ、手筈(てはず)通りだ!】


 勇者ジークの掛け声を合図にして拳闘士ライルと弓士バークレが各々の位置につく。


 勇者と弓士が並んで立ち、拳闘士がその後ろに控えるようにして立ったのだ。


【てめぇら、ガチで気合い入れろよな! さぁ、俺様の炎剣よ、踊り狂え! 炎の輪舞曲(ロンド)!】


〘ボワッ! ボボボボボボボボボボボボボボ〙


「ちっ! や、やられた。サムライスキルの致命的弱点がこいつらにバレてる」


 俺は思わず舌打ちしてしまう。


 赤髪赤目の男が手に持つ長剣から激しく炎が燃え盛ると同時に、剣から放たれた紅蓮の炎が勇者達をぐるっと取り囲んでいく。


「「レイン!」」


 エミリーとカリンの悲痛な声が俺の耳に届いた。


 流石は三聖として名を連ねる聖騎士と聖女である。


 二人はサムライスキルの致命的弱点を把握していたのだろう。


 勇者達の今の陣容を見れば、一目瞭然だもんな。


《勇者達はサムライスキルの致命的弱点を突いている》ってさ。


【あっはははははは! 森沢亮次、今のお前は手も足も出せないだろ? これから先もずっとだけどな。あはははははは!】


 紅蓮の炎の中で高笑いする勇者ジーク。


「……確かに今の俺は手も足も出せないな」


 正眼の構えの俺は、目の前の敵に対して何ひとつすることができず、紅蓮の炎で守られていた勇者達を虚しく見ているだけだった。


♢♢♢


 いつかはこういう日が来ると思っていた。


 今のこの状況はある意味で必然なのである。


〈聖女の託宣〉により与えられし俺のサムライスキルの弱点、いや致命的弱点を突かれてしまう日が。


 聖騎士エミリーと聖女カリンは、1508匹の大群の魔物を必殺スキルで瞬殺する。


 俺にはどう足掻(あが)いてもできないことだった。


 大群の敵はもちろんだけど、中距離及び長距離に位置する敵を駆逐する固有スキルは皆無。


 そう、俺のスキルはあくまでも短距離に位置する敵を討つことしかできない。


 言い方を変えるのであれば、自分の間合いに敵が襲い来るまでじっと待ち、好機を(のが)さず刀で斬りつけるか、それとも自ら積極的に動き、間合いを一気に詰めて刀で斬りつける。


 結局のところ、この手に持つ刀の斬撃で敵を討つしかできない。


 サムライスキルの固有スキルには〈疾風迅雷〉、〈空間転移〉、そして最速スキル〈縮地〉がある。


 三つのスキルは対峙する敵に対し、言わば俺の間合いまで瞬時に距離を詰めるためのもの。

 

 だけど、すべての敵が自分にとって好都合な敵ばかりなんてことはない。


 絶対にない。


 現にだ、俺の前に立ちはだかる勇者、拳闘士、弓士がそうなのだから。

 

 勇者達は魔物と違い、頭をフルに使って思考することができる。


 そうして導き出したものが、現在の奴等の陣容。


 まさしくサムライスキルの致命的弱点を突いた見事な陣容と言わざるを得ない。


 ――三位一体。


 勇者、拳闘士、弓士がそれぞれの役割を果たし、俺を討つための三位一体の陣容だった。


 そのせいで勇者達に近づきたくても近づけない。


 赤髪赤目の男によって放たれた紅蓮の炎が〈縮地〉と〈疾風迅雷〉の行く手を阻み、〈空間転移〉で奴等の懐に飛び込もうとするものならば、赤き火の壁を背にした拳闘士が勇者と弓士をを守るため、鉄拳を振りかざしてくるのは自明の理だ。


 もうすぐ、勇者と弓士による怒涛の攻撃が始まる。


 ただ為す(すべ)もなく、刀を構えて立ち尽くしている相手を死に至らしめるために。


【フフフ、俺様がもう一度言ってやるぜ。 森沢亮次、アデューだ】



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