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Over And Over 〜或る男の悲しくも儚い異世界復讐譚〜  作者: 前田ヒロフミ


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第59話 天運我に有り

文字数:2298字

 聖女の祝福によって、新たに覚醒した固有スキル。


 それが俺の命を糧にした妖刀ツバキから繰り出される〈死閃〉。


 魔王の眷属となった魔術師メメル・フロストの不死身の肉体を滅ぼし、そして生命を簒奪(さんだつ)した最恐スキルだ。


 そう、まさに()()()()には必殺スキルとなるだろう。


 だが、()()()()()()()()()に対し、はたして〈死閃〉は必殺スキルとなり得るのか?


 同じ命の概念がないものであっても、似て非なるのがゴーレムと勇者、拳闘士、弓士。


 こいつらは根本的に違うのだ。


 無から無として生まれたゴーレムに対し、有から無に生まれ変わった勇者達。


 そして、何と言っても一番異なるのが命の概念がないものをこの世に生み出した者だと言える。


 魔術師メメルと悪の権化たる魔王。


 誰が見ても天と地ほどの格の違いがあるのは、悲しいかな一目瞭然なのだ。


 そんな魔王により生み出された生きる屍、アンデッドである勇者、拳闘士、弓士に俺の最恐スキル〈死閃〉がこいつらを駆逐できるのか正直なところ自信はない。


 自信はないが、放つ以外に選択肢はない。


 なぜなら、今の俺にはアンデッドを駆逐できる可能性があるのは〈死閃〉しかないのだから。


♢♢♢


「よし、手応えはあった」


 サムライスキルの最恐スキル〈死閃〉を放ち、勇者達の六角柱の水晶を砕いた。


 魔術師メメルを滅殺した時みたいに、この世から跡形もなく消えてなくなりはしなかったが、勇者達は地面にうつ伏せに倒れている。


 あとはサムライスキルの反応を確認するだけ。


「頼む……」


 俺は勇者ジーク、拳闘士ライル、弓士バークレの反応を神に祈りながら確認する。


「……ク、クソ! 駆逐できてない!」


 サムライスキルの示す反応は以前と同じまま。


 三つの()()()()()()()()()の反応があったのだ。


 ……ということは、もう一つの標的にも勇者達は攻撃を仕掛けてくるかもしれない。


 俺は警戒レベルを最上位まで引き上げる。


 そんな時だ、悪いことは続くものなのだろうか。


 エミリーが洞窟から嵐の中へ飛び出す。


「レイン、やったね! 本当に凄かった!」


〘ギリッ〙


「!!」


 俺の耳には確かに聞こえた。


 もう一つの標的を無慈悲に射ようとする音が。


「エミリー、ダメだ、こっちに来るな! こいつら三人はまだ駆逐できてない!」


 俺は左手をバッと前に突き出し、エミリーをこちらに向かわせないように声を張り上げる。


「えっ?」

 

 だけど、なぜかいつにも増して浮かれている幼馴染は自分の置かれている状況が理解できず嵐の中で疑問の声を発するだけだった。


(間に合うか、いや必ず間に合わせてやる。俺は三聖、エミリーの矛となり盾となるんだ)


【隙ありだぜ! 射抜け、バークレ!】


【オッケー♪ ジーク】


 ここだと言わんばかりにガバッと起き上がった勇者が長剣の剣先を標的の心臓に向けて叫ぶ。


 その声に呼応するが如く、弓士が地面をクルッと回転して弓から矢を放つ。


〘ビシッ!〙


 金色の弓から放たれた銀矢は、もう一つの標的であるエミリーの心臓を一寸の狂いもなく捉えていた。


【グッジョブだぜ、バークレ】


【射抜け、ボクの銀矢。マジで死んじゃう1秒前♪】


〘ガッ!!〙


【【!!】】


「ふぅ、間一髪だったな」


「……レイン」


 俺はエミリーの肩を右手で抱き寄せ、(すんで)(ところ)で幼馴染の心臓を射抜く銀矢を左手で掴み取った。


(本当にありがとう、サムライスキル。お前のおかげでエミリーを救うことができたよ)


 今、まさにエミリーを救うため、新たな固有スキルが覚醒する。


〈疾風迅雷〉と〈空間転移〉の合わせ技とも言える最速スキル。


 その名は〈縮地〉だ。


【森沢亮次〜! てめぇ、マジ何なんだよ! バッバ、バッバと消えやがってよ! マジふざけんな! おい、クソバークレ! ちゃんと射抜けよ、パンチパーマ野郎が!】


【な、何だよ! グッジョブとか言ってただろ? あとパンチパーマって言うな】


【朗報! ワイ、生き返った模様】


【【うるさい! ツルツル頭!】】


 ……あいつらがバカで助かったな。今、三人で同時に攻撃されたらヤバかった。


 天運我に有り。


 俺はその隙にエミリーを抱き抱え、急いでカリン達がいる洞窟まで運び込んだ。


 聖女が俺を見るなり笑顔で言う。


「いい仕事したね、レイン」


「ありがとう。今の状況で一番冷静なのは間違いなく君だ、カリン。聖女スキル完全体となって光鏡壁(リフレクト)でみんなを守ってくれ」


「いいけどさ、この戦いが終わったら全部話してもらうからね、レイン」


「……ああ、分かったよ」


「レ、レイン、私……」


 エミリーが(がら)にもなく落ち込みしょんぼりしている。


「エミリーが無事で良かった。ゲイルさんとガスさんを頼むぞ」


「う、うん。分かってる、分かってるよ、レイン」


 戦いの地へ再び赴こうとした俺は、ふと手にしていた銀矢を見る。


(……銀矢……銀の矢……銀か……魔物の六角柱の水晶を破壊する矢尻の素材に銀はどうだ? これならいけるかもしれないぞ)


「「レイン?」」


 弓士バークレが放った銀矢をまじまじと見つめていた俺を不思議に思ったんだろう、エミリーとカリンが声をかけてくる。


「あっ、悪い悪い、何も問題ない。そうだ、ゲイルさんにこの銀矢をお預けしておきます」


「自分にでありますか?」


「はい、ゲイルさんにです。その銀の矢は教会騎士団の騎士達の最高の武器になるかもしれません」


 俺の言葉を聞いたゲイルさん、そしてガスさんは鳩が豆鉄砲を食らった顔をしていた。


「それじゃ、行ってきます」


「行ってらっしゃい、レイン」


「勝ってきなさいよね、レイン」


「「レイン殿、武運長久をお祈り申し上げます」」


 そうだ、まだ死ねないんだ。


 魔王軍を一匹残らず駆逐し、憎き魔王を殺すまで。


 俺は嵐の中という名の死地へ今また足を踏み入れる。


 勇者、拳闘士、弓士をこの世から滅殺するために。



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